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転生少女と聖魔剣の物語  作者: じゅんとく
第一章 マネニーゼ市場
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宿屋

少女の神技とも言える技の一部始終を目の当たりにしたティオロは、改めて少女の近くへと行く。


「君って、凄いね…」


それを聞いた少女は不機嫌そうな表情でティオロを見つめる。


「他に用が無いなら、私に関わらないで下さい」

「さっきは、君の短剣があまりに凄そうだったから、つい…衝動で手にしちゃったんだよ、悪気は無かった」

「ふ…ん」


少女は不信な目でティオロを見る。


「貴方が嘘を言って居るか…どうかは、短剣を使えば分かるわ…」


まさか…今、男性達に見せた剣撃を見せるのか…と、ティオロは焦った。


「この短剣に触ってみて」


少し焦ったティオロは、ホッとしながら短剣に触れる。

その瞬間ー、バチッと電気の様な衝撃を感じた。


「ウワッ!痛ッー!」


それを見た少女がフッと笑う。


「貴方…嘘を付いて居るわね。短剣は貴方の行動に対して怒っているようだわ」

「何…ソレ?」

「短剣は、嘘付きは嫌いだと言っているわ」

「道具が喋るかよ…」


そう言いながらティオロは、少女と一緒に歩いて行く。


「これから何処へ行くの?」

「貴方には関係無い事です」

「冷たいね…」

「人の物を勝手に奪っといて良く言うわね。謝罪の一言も無いのかしら…?」


痛い所を疲れたティオロは、それ以上少女に対して何も言えなかった。

ふと…少し先を歩いていた少女は市場の果物の店へと立ち寄り、果物を購入しようとしていたが…店の店員と何か話し始める。それを見ていたティオロが近くに行き、店員の女性に話し掛ける。


「どうしたの?」

「ちょっと…この子、果物1個で…こんなの渡して来るのよ」


女性が手に持っていたのは金貨だった。


「細かい銭は無いの?」

「それしかないわ…」

「これだったら、ウチの店にある果物の大袋全部差し上げるわよ」

「そんなに要らないわ、コレ1個だけで…」

「困ったわね…釣りを払いたいけど…、今は主人が居ないから、細かく崩せないのに…」

「あ…でしたら、僕が出します」


ティオロは、そう言ってポケットから銅貨を1枚出す。果物2個購入で…話し合いは終わった。

少女は、この一件に対してティオロに礼を述べた。


「これで、貸し借り無しになるね…」


ティオロが言うと少女は不機嫌そうな表情で歩き出す。

二人は市場から離れた場所で、腰を下ろして果物を食べ始める。


「君は…市場で買い物をした事が無いの?」


ティオロの言葉に少女は一瞬ドキッとした。


「な…何で、そ…そんな事を聞くのですか?あ…貴方には感謝しているけど、別に関係無いでしょ、そんな事…」


彼女の慌てた素振りをしながら、彼から顔を背けて果実をたべる。その様子からティオロは正解だったと確信する。


「普通…市場で買い物する時、金貨なんて出す事ないよ。せいぜい銀貨くらいかね…。だいたい果物1個なんて皆は買わないよ、普通は2個か3個で銅貨1枚だからね…金貨なんて渡したら向こうが驚くよ。この辺の市場では1週間分の売り上げが…やっと金貨1枚分に達する程だからね…」

「細かい、お金が無かっただけのよ」

「そお…じゃあ、聞くけど市場で売買されている麦、野菜、魚介類、精肉、酒類の平均相場知っている?」


その問いに彼女はポカンと口を開けたまま首を横に振った。


「君ね、もしかして…全ての物価が、金貨を出せば買えるなんて考えていないよね?全ての物価には相場て言うのがあって、常に価格は変動しているんだよ。大体どれ位金貨持っているのか知らないけど。普通は市場の一般取引は銅貨で、銅貨が100枚越える場合、銀貨で取引されるんだよ。銀貨が100枚以上の場合、金貨で取引されるんだ。でも…金貨を使う場面て、高級な装備品か、馬車や建築位、大きな買い物の場面しか使う事は無いだろうね」

「そうだったの、知らなかったわ…」


ティオロは溜息を吐きながら、彼女が懐の中に隠してある巾着袋を見て、ふと…何気無く感じた。


「その巾着袋の中身、ちょっと見せてくれる?」

「お断りします。貴方は信用出来ないので…」


相当嫌われているな…と、ティオロは感じた。しかし…彼女は、不思議な術を使うし、その気になれば、彼女が携えている妙な剣でティオロを薙ぎ払う事も可能だった。

そうしないで自分と一緒に居る事を考えると…彼女は、ティオロに対して警戒心を持って居ない事と感じられた。

果物を食べ終えた少女は、立ち上がると周囲を見渡した。


「どうしたの?」

「今夜泊まれる宿は無いかしら?」

「予算はどのくらいで…?」

「これで…」


それは、さっき市場で出した金貨だった。


「それだったら、あそこで10日間食事付きで寝泊まり出来るよ」


と、ティオロが指した場所は宮殿見たいな宿だった。


「あんなに豪勢で無くても良いわ…」

「じゃあ…安くても構わないなら、良い場所があるよ付いて来て」


ティオロに誘われて少女は市場の街の中を進み出す。

二人が向かった先は、街の外れにある古ぼけた小さな宿屋だった。

店の入り口には「宿」と書かれた小さな木の看板がぶら下っている。店に入ると一階は広間になっていた。大勢の人が食事が出来る様に広く、数多くの椅子と食台が並んでいて飲食店としても利用出来そうだった。


少女は店の中を見回した。店の中は寂れていて今にも壊れそうな雰囲気を感じさせていた。

受付に向かうと、店の主人である中年男性が出迎えて来た。


「よお…ティオロ、今日は何の用だ?」

「しばらく宿を借りたいのだけど…」

「ほお、ついに家出を始めたか」


店の主人が笑いながら言う。


「僕じゃなくて、こちらの人…」

ティオロは、少女を前に出す。


「ほお…こりゃ、めんこい娘が来たものだな…」

「少しの間、宿を借りたいのですが…」


少女は主人に向かって話す。


「分かりました。では…こちらに名前を記入してください」


主人は、紙と筆を少女に渡す。それを受け取った少女は紙に名前を記入する。それを隣で見ていたティオロは少女の名前を見る。


(リーミアって言う名前か…)


「ほお…リーミアさんね。ん…?リーミア…はて、何処かで聞いた様な名前だね?」

「そうかしら…良くある名前だと思いますが…」

「ハハ…そうだね、ウチの近所にも似たような名前がいるよ」

「フフフ…人気のある名前なんですね」


リーミアと言う少女は愛想笑いしながら答える。


「では…宿泊代ですが、銅貨10枚で1泊ですが…」

「これだと、何日くらい大丈夫ですか?」


リーミアは金貨を一枚出す。それを見た主人が少し慌てた表情で言う。


「こ…これだと、そっちのも付け足しても、3ヵ月位余裕で泊まれますが…」

「ちょっと…僕をオマケ見たいな物の言い方で言わないでくれる?」


ティオロが不機嫌そうな表情で主人に向かって言う。


「では…そっちのも付け加えて、お願いします」

「おい、君ね…」

「あら…私、何か変な事言ったかしら?」


成り行きで、リーミアに付き添っていたティオロは、何時の間にか彼女と同行する事になっていた。


「部屋はどうしますか?」

「別々で、お願いします」


そう言うと、主人は二人分の鍵を用意して、それぞれ別の部屋に向かう事にした。

ティオロは二階の小さな空き部屋に入った。彼は少し古びたベッドに横たわる。


(リーミア…似てるな、100年前に王国を救った王女様…。確か…リムア姫だったっけ?)


そう考えながらベッドで横になっていると、何時の間にかうたた寝をしてしまい、気が付くと日が傾いていた。彼は少し小腹がが空いたのを感じてベッドから降りて部屋を出る、3階の部屋にいるリーミアのの部屋にに行き、部屋ののドアをノックする。


「どうぞ」


部屋の中から声が聞こえ、ティオロはドアを開けて中に入ると…目の前の風景にギョッとして立ち止まった。

リーミアは顔や衣服が炭だらけで黒くなっていた。


「な…何があったの…?」

「火を起こそうとして失敗したの…」


それを聞いてティオロは部屋にある暖炉を見て少し納得したが…どんなやり方で失敗したのか彼には理解出来かった。


「と…取り敢えず、顔を洗って来なよ、着替えの服はあるの?」

その言葉にリーミアは頷く。


「一緒に食事しよう」

「貴方…火は起こせるの?」

「ああ…出来るよ」

「じゃあ…後で頼むわね」


リーミアはティオロに言うと着替えの衣服を持って部屋を出る。

部屋を出たのを見て彼は彼女が腰に付けていた巾着袋を見付けて、中を覗くが…中身は空だった。


「ちぇ…あの女、せっかくの金貨を宿代に全部つぎ込むなんて…ほんとうに世間知らずだな…」


ティオロが退屈そうにしていると衣服を着替えたリーミアが戻って来る。


「じゃあ…食事をしに行きましょうか」

「ちょっと廊下で待ってて」


そう言われてティオロは廊下に追い出される。

約30分程経過してリーミアが巾着袋を持って、短剣を携えてティオロと一緒に部屋を出て来た。


「下で食事するだけで、随分と時間が掛かるね」

「女の子は、準備に忙しいのよ」


そう言いながら2人は1階の広間へと向かうが…広間は無人で何の用意もされて居なかった…。


「ねえ、ちょっとオヤジ!食事の用意は?」


それを聞いた店の主人が愛想笑いしながら広間に出て来た。


「いや~…悪い悪い、久しぶりの客だったから、何の準備もして無かったよ…すまないけど今日は外で食事してくれないか?」

「はあ…?全く何を考えてるのだよ~」

「まあ…外で食事しましょう」


リーミアはティオロに向かって言う。


「明日の朝からは、ちゃんと食事用意するよ」


店の主人が2人に向かって愛想笑いしながら、受付の奥へと立ち去る。

2人は宿を出て、市場の通りを歩き出す。


「君は何を食べたいの?」

「特に食べたいのは無いけど…美味しい店があるなら、教えてくれる?」

「美味しい店ね…」


ティオロは、市場に長年住んでいるが…市場にある料理店にはほとんど入った事が無かった。

何処か良い店が無いかな…とティオロが歩いて行き後ろを振り返るとリーミアが少し後方で立ち止まっている事に気付き、彼はリーミアの場所まで戻る。


「どうしたの?」

「あの店は何かな…?」


ティオロはリーミアが指した店を見る。

それは…華やかな装飾に彩られた風俗店だった、店の前には気品ある女性が道行く男性達を呼んでいる。


「男性専門の店…子供や女性には関係ない場所だよ」

「そうなの?」


リーミアは上目遣いでティオロを見ながら答える。


「まあ…何て言うか、大人の男性と女性がイチャイチャする様な場所だよ」

「大人の男と女がイチャイチャして、何か良い事あるの?」


不思議そうにリーミアは首を傾げて言う。


「世間知らずのお子ちゃまには、ちょっと難しい事かもしれないね」


ティオロがからかいながら言うと、リーミアは頬を膨らませる。


「失礼しちゃうわね、私はそんなに子供じゃ無いわよ!」


機嫌を損ねたリーミアは、少し早歩きでその場を離れて行く。


「悪い、ちょっと言い過ぎたよゴメン…」

ティオロが謝るとリーミアは機嫌を直した。


「市場には、いろんな店があるんだよ。向こうの通りへ行こう」


ティオロがリーミアの手を引っ張って歩き出す。

しばらくして2人は小さな料理店に入る事にした。

料理店に入ったリーミアは周囲を見回してソワソワした様子だった。どんな料理を頼めば良いのか分からず、ほとんどティオロや店の人に任せきりだった。


(本当に世間知らずの子だな…)


自分が居なかったら、彼女は市場でどうするつもりだったのか…と、ティオロは思った。

食事を終えたティオロは、店の人が持って来た会計表を見て少し驚いた。


(しまった…金足りるかな?)


ポケットの中に手を入れて彼は銭を確認したが…わずかに足りなかった。


「参ったな…少し足りないな…」


ティオロが思わず呟くと「大丈夫よ」と、リーミアが言う。

彼女は巾着袋から金貨を1枚出した。

その金貨を店の人に渡す。


「ありがとうございます、お釣りを用意します」

店の人が一礼して去って行く。


ティオロは呆気に取られた、彼女の部屋に居る時に巾着袋を覗いた時には金貨の影は無かった筈…。


(魔法の袋か…でも、どうやって出したんだ?彼女が居ないと、金貨は出て来ないのか…)


先程、彼女が着替える時に部屋に荷物を置いて出て行くのも納得出来る。何よりも、彼女が持っている短剣は所有者にしか使えない…そう考えると辻褄が合う。

店の人がお釣りが入った盆を持って来た。

銀貨と銅貨が数枚あった。


「お釣りは貴方に上げるわ」


リーミアがティオロに差し出す。


(なるほどね、金貨はまだ沢山あるのか…)


そう思ってティオロは彼女から銀貨と銅貨を受け取る。

2人は店を出て宿屋へと戻る、ティオロが自分の部屋へと戻ろうとした時、リーミアが彼の腕を掴んだ。


「ちょっと…」

「どうしたの?」

「貴方…暖炉の薪に火を起こしてくれるって言ったでしょ?」


リーミアが恥ずかしそうに顔を俯けながら言う。


「あ…そうだった」

出掛ける前に約束をしていたのを思い出したティオロはリーミアの部屋へと向かう。


改めて彼女に用意された部屋を眺めると…ティオロの部屋よりも広く、ベッドもカーテン付きだった。

暖炉の側には肘掛け椅子もあった。


(僕の部屋よりも豪華だ…まあ、こっちは付き添いだし、銭を払ったのは彼女だからな…)


暖炉を良く見ると…何か爆ぜた様な感じで木炭の破片が飛び散っていた。


「ところで暖炉に何をしたの…?」

「魔法で火を起こそうとしたら…失敗しちゃって…、魔石が無いと上手くコントロール出来なくて…」


それを聞いたティオロは昼間の事を思い出して納得する。


「魔法以外で、薪とかに火を点けた事は無いの?」

その言葉にリーミアは黙って頷く。


「今まで、どんな生活してたの?」

「修道院に居たの…」


それを聞いたティオロは、少し納得した様な感じで頷く。


(成る程ね、買い物も出来ない…薪も燃やせない、風俗店を物珍しそうに見る等の理由が分かった気がする…)


お嬢様育ちな訳だ…と、思いながらティオロは暖炉の片付けをした後、火付け石を使い薪を燃やし始める。

暖炉に火が点き、二人ジッと薪が燃える様子を眺めていた。リーミアは肘掛け椅子に座り、ティオロは暖炉の側で、薪を燃やしていた。


「じゃあ…僕は、これで失礼しようかな?」


そう言ってティオロが立ち上がると、リーミアが、ティオロに声を掛ける。


「私の事は何も聞かないの…?」

「え…?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧な地文で描かれた物語は非常に読みやすく、かつ、わかりやすいです。 ティオロとリーミアの関係性も気になりますが、存外彼女の積極的な部分が好きです。 [気になる点] 指摘はなしと言うこと…
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