第三十三話 紅茶
「――――っは」
目を覚ませば、そこに見えるは見知らぬ天井……ではなく、魔王城にある自分の部屋の天井であった。
部屋に灯りはついておらず、窓からは月明かりが差し込んでいる。もう夜らしい。そういえば今日は満月だったっけなぁと光を見て思う。
……私、さっきまで訓練を――。
いや、魔法をずっと撃っていて魔力が切れたのだと思い出す。気が付けば倒れていて、私その後どうやって帰ったんだろう……?
「あら、起きましたか」
声がした方向を見る。
窓際の椅子で、月明かりで本を読んでいたらしいエリヌが、栞を挟みこちらを見た。
「エリヌさん……」
「まだ横になっていてください。完全には魔力が補充されていないので。そうですね……少し待っていてください」
エリヌはそう言って席を立つと、本を持って部屋を出ていった。
時刻を見ればもう二十二時頃だ。昼頃に訓練を始めて、倒れたのはいつだか憶えていないが、結構な時間寝ていたことはわかる。
そういえば、昔カルラと遊んでいて魔力切れを起こした時は丸一日くらい寝ていたが、その時より魔力量が増えている今、寝ていた時間が減ったのは回復量が大きくなったことの現れなのだろうか。
……まだ一回しかやってないけど、効果ありそうだなぁ。
「でも魔力切れ、やっぱ辛いわ……」
「あらあら、苦労なくして強くはなれませんよ? フィーさん」
とそう言って戻ってきたエリヌの手にはカップがあった。
こちらにやって来たのでむくりと起き上がり、渡してきたカップを受け取る。色合いと匂いからするに、どうやら紅茶のようだ。
「体を休ませる効果のある紅茶に、蜂蜜を入れたものです。少し甘いかと思いますが、今の貴女の疲れた体には必要ですよ。飲んでください」
いただきます、と一言言ってから飲むと、まず最初に紅茶の上品な匂いが鼻へと抜けていく。口に含んだ瞬間は蜂蜜の甘さが、しかしその後から追ってくる心地の良い渋みが蜂蜜をしつこくさせない。
紅茶の温度も丁度良くて、熱くもなく冷たくもなく、喉へと通しやすく、しかしながら身体中に染み渡るような程よい温かさだ。
途中息をつくのも勿体無く感じて、一度に全て飲んでしまった。
貰いますよ、と言われたので空になったカップを返す。
「ふー、ありがとうございました。体が温まりました! それにしてもエリヌさん、お茶を淹れるの上手いですねぇ! 前の緑茶もそうでしたし、趣味なんですか?」
「ええ。私、昔からお茶が好きでして。時々こうして皆に淹れたりしていますよ」
エリヌの新しい一面を知った。まぁ確かに上品そうな雰囲気は感じるし、そういう点で考えれば、確かにお茶の趣味もありそうだ。
「とはいえフィーさん、お疲れ様でした。いい感じでしたよ」
「あは、ありがとうございます。久々に魔力切れになったら結構辛かったんですよ」
「あら、そんなすぐに辛いなどと言ってはいけませんよ? これをあと数週間やって、その後即時回復の練習ですので。今はまだ準備段階です」
「え、ええぇ……。ま、まぁ強くなるためには必要です、よねぇ……」
「ええ。ですが魔力切れを起こすと最初のうちは今日のように倒れてしまうので、これからは訓練を夕方くらいにしましょうか」
「まぁその方が時間も有効に使えますしねぇ」
そうですね、と言ってエリヌはスッと立ち、私に横になるよう促した。どうやらまだ魔力が完全に回復したわけではないから寝ていた方がいいらしい。
おまけに先程の紅茶、魔力の吸収を助ける効果もあるらしく、明日の朝には確実に回復しているはずだそうだ。
もう夜なのでこれで、と部屋を出るエリヌを見送り、掛け布団の中に潜り込むと、途端に睡魔が襲ってくる。どれだけ寝たいんだ私。とりあえず頑張ろうと、そう決意すると、そのまま私は眠りについた。




