第二十一話 神譜
第二章です!
痕跡の大図書館。
過去を司る神、痕跡神の創りしその図書館は、空に浮かぶ世界樹の下に位置する。世界中全ての書物が収まるその建物は、地表に見える神殿だけでなく、その地下にある巨大空間を合わせた途轍もない大きさがある。
入り口の階段の前に、三つの影があった。
「いつ見ても、凄い大きさよね」
「そうだなぁ。上の世界樹も併せて見ると、何もかもが小さく見える」
「行きましょう。大司書様がお呼びです」
階段を上り中へ入ると、そこには巨大な空間。壁一面に書庫が収まり、そしてこの空間を占める様に本棚が立ち並んでいた。それでも収まりきらないのか、宙には立方体の本棚が幾つも浮かんでいる。
中央には広間がある。その中心には鎖による吊り下げ式の昇降機があった。
三人が昇降機に入るとガタン、と一度揺れ、図書館の地下へと下がっていく。地下一階、二階……とどんどん下がっていき、最下階に着いた。
最下階は壁にしか本はなく、真ん中には大きな机があり、幾つもの本が乱雑に積み重ねてあった。
その最下階の中央に、宙に浮かぶ幾つもの魔法陣と巨大な本。そして少女の姿があった。
「……大司書様。“神譜”にはどの様な未来が」
大司書と呼ばれた少女は、うーむと唸った。
「それがのう、内容は理解出来るんじゃが、どうも信じ難い内容でな」
「信じ難い内容……具体的にはどの様な?」
大司書は本のページをパラパラとめくり、あるところで止めた。
「そうじゃな、お主らがわかる様にいうとじゃな、『崩された歯車は組み直され、別の結果を創り出した。長きの炎が消える時、風は消え、過去の災禍が舞い戻る。だが風は再び吹き始め、災禍を内へと包み込む。恐れられし風は流れ、漂う。そして風は光と出逢い、明日へと歩む』……じゃ」
「……その、よくわかりません」
大司書はトンと本を叩く。
「余分な箇所もあったからな。大事なのはここじゃ。『風は光と出逢い、明日へと歩む』。お主にはわかるか?」
大司書が右手をクイっと招く様に動かすと、壁の本棚から数冊本が彼女の元へと飛んでいく。彼女の前で止まった本は、大司書が右手を横に振ると、パラパラと開き始めた。
「この“神譜”は今までそうであったが、お主ら勇者の事を『光』と書く。つまりお主らは近々最後の一人と出会うことになるという事じゃ」
勇者は疑問に思った。
「それはわかりました。ですがどの辺りが信じ難い内容なのでしょうか」
「『風』じゃ。風というのはそこらでビュービュー吹いている風ではない。“神譜”に書かれるそういう単語は、大抵は幻素の事じゃ」
「……? それが何でしょうか」
大司書は頬杖をつき、勇者を半目で見る。
「お主、察しが悪いぞ? 『風』は幻素の事。風幻素を使う者なぞそこらじゅうにいっぱいおるわ。『光』とはお主らの事。お主らは世界に光をもたらす勇者じゃ。つまり『風』とは風を司る者、もしくは風を巧みに操る者であろう」
「ということは――」
わかった様じゃの、と大司書は呟く。
……今期の勇者は節目ではあるが、ちとやり過ぎではないかのう。未来を司る未来神が創る“神譜”、決して外れることのないこの未来。さてどうなることやら。人間の希望である勇者……。人々はどう思うかのう。
はあ、とため息を吐き、
「恐らくじゃが、勇者最後の一人は――」
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