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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
9/182

1997年6月(1)

 今日は悪魔ちゃんは呼び出さない。独りで考えたい事があるからだ。

 こないだ悪魔ちゃんは、「悪魔」ってのは人間のコトだって言ってた。ところで「悪魔」ってのは、キリスト教の神学の中でも、だいぶアヤシイ部分でしか相手にされてない。ルネサンス期に発展した「悪魔学」で学問としては体系化されたけど、大もとの知識は異端の「グノーシス派」や神秘学の「カバラ秘教」なんかに拠っているらしい。カバラといえば錬金術や黒魔術(白魔術もかな)なんかだから、ようはオカルトな。

 とにかく、その辺の伝承での典型的な筋立ては、まず神が世界の創造にあたって、自分の手助けとなるように天使を作った。ところが天使の一部に反逆者が出て、それが地獄に堕とされて原初の悪魔になった。その後、最初の男性であるアダムと一緒に造られた女性リリス(ちなみにエバは2番目に造られた女性。ただしキリスト教正典ではリリスの存在自体が削除されている)が、性的奔放さゆえに追放されてから多くの魔族と関係し、現在の悪魔の大部分をなす眷属が生まれた。つまり順番としては神→天使→悪魔→人間の順に誕生している。ところが後世、近代科学の枠組みの中で世界観が再構築されると事情が変わった。さっきの順番でいえば、今信じられているのは人間が一番最初に誕生し、その後、神→天使→悪魔の順番で作られたという説だ。これは人間が一番最初に格上げされて、その他が1コずつ下がったという単純な話じゃない。神・天使・悪魔はどれも人間によって作られたもので、しかも人間が自己を投影した写像=シャドウ(無意識に潜む第2の自分)だという考えがベースになっている。もちろんオレは近代以降の人間だから、オレにとっての悪魔は自分のシャドウってことだ。つまりオレ自身だ。なるほど、「悪魔=人間=オレ」ってワケか。それならツジツマが合う。パソコンのモニターや鏡なんかのガラス面にはオレ自身の姿が映る。それは見方によっては、映ったオレ自身が常にオレを監視しているとも言える。たぶんこれは、他人事のように自分を客観的に見つめる、心理学でいうところのメタ認知の比喩だ。それに悪魔ちゃんはオレのコトを愛してるとかなんとか言ってたけど、自己愛ってのは誰にでもあるんだから当然だ。それから、アスタロトから俺を守るって言ってたのも悪魔ちゃん=オレなワケだから、自分が自分を守るのも当たり前の話だ。しかしアスタロト自身も俺のシャドウなんだろうから、悪魔ちゃんとアスタロトは俺の精神の中で対立する別人格ってことなんだろう。うーん完璧だ。オレってやっぱ天才か!? おーい!! そういうコトだろ?悪魔ちゃん。


〝ちがうわよ。〟


 なに!? そんなワケはない。だって全部ツジツマ合ってんじゃねえか!!


〝前にも言ったはずよ。そんなつまらない解釈は不要だって。私が言ったのは言葉そのままの意味でしかないわ。〟


 えっと、どういうコト?


〝第一、自己愛がどうとか言ってたけど、アンタそんなモノ持ちあわせてないでしょう?〟


 うん。 え!?


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