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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
57/182

2003年4月(1)

 えーっと……、レッドと復縁した。今はもう東京で一緒に暮らしてる。でも、何が理由で復縁できたのか、いまだによくわかっていない。だからまた突然破局するんじゃないかと思って、正直不安が拭いきれない。そこんとこ実際どうなのか悪魔ちゃんに聞きたくて来た。


“復縁した時の状況を説明して。”


 3月の最終週、就職後に一人暮らしする部屋を探すため東京に出てきて不動産屋を巡ってた時、俺の携帯にレッドから電話がかかってきた。前に、写真を取り返すためかけてきた時以来の電話だった。


「もしもし。」

『もしもし……今どこにいるの?』

「え? ああ、うん。えっと、……新橋。入社が近いから日経総研に挨拶してきたとこ。」

『今晩はどこに泊まるの?』

「近くに予約してるホテルがあるからそこに。」

『…………ウチに泊まればいいじゃん。』

「え!? えっと、それって……え?」

『ウチに泊まればいいでしょ!』

「あ、うん! いいの?」

『いいよ。』

「わかった、じゃあホテルはキャンセルしてそっちに行く。駅に着いたらまた電話するね。」

『わかった。』


って電話切ったけど、この時点ではまだ半信半疑だった。ヘタしたら前みたいに、アパートに着いた途端閉め出されるなんてこともあり得ると思ってた。だから本当はホテルの予約をキャンセルしたくはなかったんだけど、もし本当に泊めてもらうことになった場合、キャンセルするとこをレッドに聞かれでもしたら信用してなかったのモロバレになるし、そうなると絶対部屋から叩き出されるって思ったので、こりゃあもう閉め出されたら近場のカプセルホテルかネットカフェに行けばいいやって腹くくってからキャンセルの電話をした。


 レッドのアパートがある街の駅に着いて改札を出たら、レッドがもう来て待っていた。少し気まずさも感じたけど、俺の方から近づいていって先に声をかけた。


「……久しぶり。」

「うん。」


表情から察するに、特に怒ってるとか不機嫌とかではなさそうだった。ただ、彼女も少し気まずかったのか「うん」って言いながらも目は合わせず俺の胸から足元辺りを見ていた。それからお互い言葉が続かずしばらく沈黙が流れたが、前来てた時みたいにレッドが俺のリュックを取り上げて自分のチャリの前カゴに載せ、「行こ」って言ってから歩き出した。俺は「ああ」って言いながらチャリを押すレッドの後を追った。追いついて並んで歩きながら、レッドが「晩ごはんもう食べた?」と聞いてきたから「まだ」って答えたら「じゃあジョナサンで食べてから帰ろう」ってなって、前によく二人で行ってたファミレスへと向かった。ファミレスに着くと最初の気まずさはだいぶ減ってきて、俺は目玉焼きハンバーグセット、レッドはミックスフライセットを普通に頼んでドリンクバーを二人分追加した。それは前来てた時に俺らがいつも注文していたメニューだった。


 アパートに着いて荷物を降ろしたら、少し打ち解けていた雰囲気がやや気まずい空気に戻った。実はこの時点でも、俺は復縁以外の可能性が充分にあると思っていた。こうやって呼び出したのは、改めて正式な別れ話を切り出すためなんじゃないか、と。そうやって持ち上げておいて叩き落とすっていうやり口を、ついこの間もされたばかりでもあったし(写真回収の件)。そんな時、レッドが沈黙を破って口を開いた。


「……ゴメンね。」


見ると目にうっすら涙をためている。しかし、「ゴメン」って一体どっちだ? 「ゴメンやっぱり別れよう」なのか、それとも「ゴメンやり直そう」なのか……。レッドはそれきりまた黙ってしまったので、俺は相手の真意がわからないままボールを投げ返さなきゃならなくなった。しかしもうすでに腹はくくってたので、意を決して歩み寄りレッドを抱き寄せた。果たして、レッドは抵抗しなかった。抱きすくめられたまま濡れた目でじっと俺を見ている。その目に吸い寄せられるように俺はキスをした。レッドも目をつむって受け入れた。俺は感情が高ぶって、レッドを強く抱きしめる。


「俺の方こそゴメン! 本当、俺……!」

「ううん、私の方こそ……」


 このあと滅茶苦茶セックスした。翌朝、びっくりするくらいレッドは「前のレッド」に戻っていた。寝坊した俺を叩き起こして一緒に朝飯を食った後、レッドが今住んでるアパートの大家のとこに俺を連れて行った。大家とは話がすでについていたみたいで、同居しても俺の分の敷金礼金はなし、家賃は今の1.5倍と言われた。昨日まで単身用の賃貸を新規で借りるつもりでいたわけだから、それに比べれば破格の条件と言えた。その後は一緒にホームセンターに行って、二人暮らしを始めたら買い足さなきゃならないものを見て回った(この時は見ただけで何も買わなかった。実際に買ったのはレッドが他の店も回って同じ商品の値段を調べて一番安い店を見つけてから)。それが終わったらチェーンのコーヒー店で休憩したが、そこで九州の下宿や実家から東京に送る予定のモノを聞かれた。俺がビデオデッキやらパソコンやらを思い出しつつ一個一個挙げていく度、レッドはメモ帳にそれを書き留めていた。その日は夕飯を外食で済ませてアパートに戻ったら疲れて寝てしまい、翌朝になると今度は九州に帰れと追い出された。早く帰ってお袋に事情を説明し、速やかに引っ越し準備に取りかかれとのことだった。もともとは不動産屋巡りで3、4日間滞在する予定だったので空港に着いてから搭乗日の変更手続きをしたが、キャンセル待ちで何時間か待たされた。


“ねえ、アンタ母親にレッドと破局しかかってることは言ってたの?”


言ってたよ。そん時理由を聞かれたけどこっちもわかんないから「知らない」って答えて、「どうするん?」って聞かれたから「さあ?好きにさせるさ」って答えといた。まあ、そん時はマジでそういう気分だったしな。そしたら、「実は、アンタとあの子は性格が合わんのやないかって思いよった」とか適当なこと抜かしてやがったな あのババア。


 まあ、そんな感じで復縁はしたんだが、今に至るまで「何で別れようと思ったのか」とか「何がきっかけで考えが変わったのか」とかはまだ聞けてないんだよ。


“どうして?”


 そりゃあ、そんなの聞いたらまた地雷踏むことになるだろ、たぶん。なんか、「そんなこともわからないのに、お前一体何に対してゴメンって謝ったんだよ!?」って発狂しそうでよ。


“なるほど。まあ、それぐらいは学習してわかるようになったのね。”


 お前、それはちょっとバカにしすぎだろ。それぐらい今回の件がなくてもわかってたわ。


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