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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
54/182

2003年3月(3)

“良くないわよ。だけど私が説明しなければ、アンタ自分に非はないと思ってたんじゃないの?”


 うーん、非がないとは言い切れないけどレッドが完全に沈黙している以上俺には知りようがないとは思ってたな。あと、俺自身には心当たりがないから、きっと何らかの誤解が生じてるんじゃないかとも。


“「レッドが誤解してる」っていうなら、自分には非がないって言ってるのと同じじゃないの。で、どうなの? 今も「誤解が原因」って考えに変わりはないの?”


 レッドの側からどういう風に見えてたか、っていうのは理解したよ。それと、そんな風に見えてたんなら俺に不信感を持つのもある程度しかたがない、とも思った。でも、その見え方はやっぱ誤解というか、俺にはどうしても納得がいかないんだよ。特に納得いかないのは俺とお袋の関係の部分。「精神的な一卵双生児」とかさ、ちょっと大袈裟すぎない?


“アンタに自覚があろうとなかろうとそうなのよ。”


 いや、事実関係として矛盾してると思うのよ。例えば、双子ってお互いの考えてることがわかるっていうじゃん。でもお袋は俺の考えを全く理解しないし理解しようという気すらないから、物心ついてから今に至るまでずーっとそのことで衝突してきた、っていうのが俺の認識なんだ。俺が反抗期を迎える前からそんな感じだったから、ケンカした頻度は普通の親子よりよっぽど多かったと思う。むしろ関係が良かったのは兄貴の方で、二人がケンカしてるところなんてほとんど見たことないよ。だから「マザコン」云々っていうなら兄貴の方がむしろしっくりくるんだけど。


“あら、普通の兄弟より双子の方がよくケンカするって知らないの? だって完全に対等で常に1つのものを取り合う関係だからね。”


 俺とお袋は1つのものを取り合ったりなんかしないよ。だいたい、親子関係を兄弟で例えること自体に無理があるんだよ。いや、そんなことどうでもよくて、俺はさ、中学ぐらいの時に「あ、この人(お袋)とわかり合うのは永久に無理だ」って早々に悟って諦めてるんだよ。お袋は小さい頃から兄貴よりも俺の方を一方的に怒ってきたんだけどさ、まあ、そのこと自体は兄貴の方が勉強も運動もできる「良い子」だったから仕方なかったんだけど、その割に、俺が家の外で「やらかした」ことについては擁護することがままあったんだよ。といってもテストの点数が悪かったり忘れ物が多かったりした時は普通に叱られたけど、友達とケンカした時とか学校の銅像を壊した時とかに俺のことを異常に擁護することがあった。なんかそんな感じで、場合によって怒られたり怒られなかったりで混乱しつつ幼少期を過ごしたんだが、小学校高学年になる頃にはだんだんその理由がわかってきた。お袋は俺のことを「お兄ちゃんには対抗意識を燃やして突っかかっていく。でも本当は人一倍優しくて正義感が強い子」と強固に思い込んでいて、俺のやることなすことをその思い込みで全部判断していたせいだった。思い返してみれば、お袋は俺が友達とケンカした時「相手の子が他の子に乱暴したのが許せなかったんよね?」って言ってたし、銅像を壊した時は「いつも独りぼっちの二宮金次郎さんの相手をしてあげてたんやろ?」とか言ってた。その時は意味がわからずスルーしたけど、ある程度大きくなってから、そういうお袋の言動の一つ一つを改めて考え直してみてさっき言った結論に達した。しかし、お袋が言ってたことと実際はまるで違っていた。まず、兄弟ゲンカが多かったのは大概兄貴の方からちょっかいをかけてきたのが原因だったし、友達とケンカしたのは単にそいつがムカついたから(他の子云々は全く関係ない)、二宮金次郎像を壊したのは俺が友達の前でイキり倒した結果だった。ちなみに、それらの「本当の理由」をその都度俺はお袋に話していた。大事なことだからもう一回言う。真相はいつも、俺からお袋に話していた。にも関わらず、上で言ったようなことを強固に思い込んでいた。それって俺の言ったことが何一つ通じてなかったってことだよな。言葉が喋れるようになってからずっとお袋に話しかけてきた俺の本当の気持ち、それが全く伝わってなかったことを知って改めて愕然としたよ。だから、もう理解してもらうのは無理だと思った。それがだいたい中学生ぐらいのころ。それ以降は、お袋がまた「何か都合の良い勘違い」をしているのを承知の上で、後々つじつまが合わなくなって俺が困りそうな勘違いの時だけ、あらかじめ関係者に真相を伝えておく等のフォローをして回った。しかしお袋自身の勘違いを正そうとはもう一切しなくなった。そんなお袋と俺がさ、「魂の結びつきが異常に強い」とか言われてもな……


“つまり理解し合えてないから魂の結びつきが強いわけない、と?”


 まあ。理解できない人間を信頼できるはずないし、そうなると少なくとも「マザコン」ってのは違うんじゃないかと。


“前にも言ったけど、わかりやすいかと思って「マザコン」を例えに出したのは本当に失敗だったわ。にしても、アンタいろいろと間違ってるわよ。そもそも、魂の絆に信頼関係は必要ないの。というか、信頼関係ができるから魂の絆が形成されるとか思ってたの? なんで? 私そんなこと言ったっけ? まあいいわ。魂の絆っていうのはね、生物でいうところの遺伝関係のようなものよ。遺伝っていうからには、魂も生殖に相当する活動をするの。よくあるのは分裂と合体ね。分裂と合体によって次世代に形質が受け継がれていく。形質は魂ぞれぞれに固有の属性や性質のことよ。分裂した直後は全く同じ形質を持つけど、現世に転生したら経験する人生で各々違った形質に変化していく。でも元の形質もある程度は残ってるから、そういう意味じゃ別々の人生を歩んでいても魂としては「兄弟」と言えるわね。「兄弟」の魂の絆は、当然だけど他の魂よりも強い。それから、合体は元になった魂の形質を両方引き継ぐわ。だから元になった魂は「親」とも言えるし、その意味じゃ合体後の魂は「子」と言える。「親子」の魂の絆も他より強いわ。これが、私が「魂の結びつきが強い」って言ったことの正確な意味よ。魂の絆が強いということは形質が似ているということでもあるから、もし現世で他人として出会ったとしても仲良くなる、つまり信頼関係ができる可能性が高いとは言えるわ。なぜなら、ものの感じ方や思考パターンがどうしても似てくるから相手のことを理解しやすくなるし、理解できる相手には共感しやすいから信頼関係が生まれる素地になるから。でも、もともと分裂や合体で関係があった魂同士でなければ、仮に人間界で信頼関係ができたとしても「兄弟」や「親子」になるわけじゃないってことはここでの説明からわかったでしょ? 逆に、「兄弟」の魂が人間界に転生して何の拍子か憎しみ合い、仮に殺し合ったりなんかしても「兄弟」じゃなくなるわけじゃないってこともわかったわよね? 要するに、現世の関係性で信頼があるとかないとか、理解してるとかしてないとかは魂の絆と直接関係ないの。まず、それについてはOK?”


 OK。


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