表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
48/182

2002年10月(1)

 悪魔ちゃん、今度レッドをお袋に会わせようかと思ってるんだけど。


“状況説明。”


 ああ、はい。日本経政総研に入社するんで来年4月に東京に引っ越すんだけど、前も言ったように東京の家賃は高いからレッドのアパートで一緒に住むことになってる。ただ問題は、付き合ってる女がいることまだお袋に言ってないのよ。東京で就職することは一応伝えたけど、今んとこお袋は俺が一人暮らしすると思ってる。メンドくさいからそのまま誤解させとこうかとも思ったけど、それだと後々お袋が家に電話してきた時とか東京に来た時とかにいろいろ矛盾が出てきて余計面倒になりそうだな、って。だから思い切ってホントのこと言うか迷ってるんだけど……


“何か心配なことでもあるの?”


 まあ。よく考えたらさ、レッドとお袋って嫁と姑の関係になるんじゃないかと思って。いやまだ結婚してないから「嫁と姑的な関係」か。それはともかく、世間的には嫁と姑って仲悪いとかよく言うじゃん。会わせたはいいけど二人がいきなり険悪になったら嫌だし、だったらやっぱまだ言わないほうがいいかなーとか。


“ふーん……”


 いや、「ふーん……」て。会わせた方がいいのか悪いのか教えてよ。


“レッドとアンタの母親の相性ならたぶん心配いらないわよ。相手の性格とか言動が元でケンカになるようなことはないはず。それより問題なのは……”


 問題なのは?


“アンタが重度のマザコンだってことね。”


 唐突に俺をディスってきたな。マザコン? は!? 俺とお袋のこと知ってんの? お世辞にも折り合いがいいとは言えないんだぜ?


“知ってるわよ。アンタのお母さんは未だに「髪を切れ」とか「部屋を片付けろ」とか「服装がだらしない」とか子どもに言うような小言を言う人で、それが原因でたびたび親子ゲンカするのよね?”


 ああ。とにかく俺のことを生活能力や社会的常識のない不適格者かなんかだと思い込んでて過干渉が度を超えてんだよ。でも本当にそんなだったら学校生活とか就職とかできてるわけねーつの。それは俺が子どもの頃からずーっと変わんなくて、いくら違うって言っても聞く耳持たないから、中学ぐらいの時にこの人と本心で理解しあうことはもう無理だって俺は諦めたんだよ。それがそのまま今に至ってんだよ。なのにマザコン? ありえねーだろ。


“いわゆる毒親ってやつ?”


 そうだよ。


“おかしいわね。”


 なにが?


“本当にアンタの母親が毒親だったら、どうして縁を切らないの?”


 は? いや、そこまでするほどじゃないからだよ。


“あのね、本当の毒親っていうのは、子どものそばに居るだけで人生を破壊し尽くすような人のことなの。だから子どもが助かる唯一の方法は、縁を切って一生関係を絶つことしかないのよ。とはいえ、子どもが未成年だったら金銭的に親の世話にならざるをえないから、そこが難しいところではあるんだけど。でもアンタはすでに成人してるし、生活費は奨学金と非常勤講師の給料でなんとかなってるわよね? だから今は母親から金銭的な援助は受けてない。だったら、縁を切ろうと思えばいつでもできるじゃないの。どうしてそうしないの?”


 母親はもうだいぶ年くってるし、今さら息子に見捨てられたら惨めすぎるだろうがよ。だから、俺の一抹の情で相手をしてやってんだよ。


“違うわね。そもそも私から見て、母親がアンタの人生を破壊してるようにはとても見えないわ。それどころか、お母さんの言ってるのは「身なりや生活環境を整えろ」ってことで、そんなの親が言う意見としては真っ当な方じゃないの。要するに、お母さんは多少過保護ではあっても全然毒親じゃないのよ。にもかかわらず、アンタは真っ当な忠告を冷笑的な態度であしらうだけ。どうしてそんな横暴な態度がとれるの?”


 横暴ってなんだよ。まともに相手してたら怒鳴り合いになるから、俺がいつも引いてやってるだけだよ。


“息子にそんな冷たい態度をとられて悲しくない親がいると思う? いや、アンタは自分の態度が母親を傷つけていることを十分わかってる。わかった上で態度を改めようとしない。なぜだかわかる?”


 知るかよ。そもそも今の母親との関係はお前が言うほど悪くないんだがな。最近は必ず月1以上の頻度で週末実家に帰るようにしてるし、会ってもお互い声を荒げることはほとんどないし……


“そんな態度でもお母さんが許してくれることを知ってるからよ。自分が絶対に見捨てられることがないって安心感にあぐらをかいて、アンタはすねてへそを曲げた子どもみたいな幼稚な態度をとってるのよ。違うっていうなら、試しにお母さんにとっているような態度をレッドにもしてみなさいよ。すぐに別れを切り出されるってことぐらい、いくらガキなアンタでもわかるでしょ? 要するにアンタはお母さんに甘えきってるのよ。これが究極のマザコンじゃなくて一体なんだっていうのかしら?”


 ……うるせえな。もういいから、とにかくレッドをお袋に会わせた方がいいのか悪いのか教えろよ。


“さっきも言ったじゃない。レッドとアンタのお母さんの相性は悪くないんだから、二人を合わせることには何も問題はないわよ。”


 なんだよ、会わせていいのかよ。だったら、なんで俺はあそこまでボロカスに言われなきゃならんかったんだよ。


“一回会って終わりじゃないでしょ? これから付き合いが始まるんだから。でも今後レッドとお母さんの関係が悪くなることがあるとしたら、原因は絶対にアンタのマザコンだから。それを肝に銘じさせる必要があったのよ。”


 なんか納得がいかねえ。でも会わせていいってんなら、その方向で話を進めるわ。


“後で結果報告しに来なさいよ。”


 わかったよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ