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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
45/182

2002年6月

 おい。


“はいなんでしょう?”


 さっき人工社会研究所から薄っぺらい封筒が届いてよ、中の手紙に「今後のご活躍をお祈りしております」って書いてあったんだけど。


“うん、知ってる。”


 おま、ざっっけんなよ。人工社会研究所落っこちまったじゃねーかよ!!


“そうね。残念だったわね。”


 ぬがぁぁぁっっ!!! てめー「合格させればいいのね!」とか余裕っぽいこと言ったくせに俺落ちてんじゃねーか! こないだは召喚に儀式がいるだの供物がいるだの、呼んでもホイホイ出てこないだのずいぶん上から目線でエッラそうに言ったくせよー! 何が女神だよ!全然ご利益ねーじゃん!! 就活ひとつ満足にさせられねーなら神なんか名乗んじゃねーよ!! てゆーかお前本当に悪魔ちゃんか!? 本物が消えたのをいいことに入れ替わったニセモノなんじゃねーのか? 少なくともアスタロトは大学院合格させてくれたし、前の悪魔ちゃんは博士課程に進学はさせてくれたぜ!? でもお前はまだなーんにも願いかなえてねーじゃん! そのくせに儀式とか巫女とか勝手なことばっか要求しくさりやがって、この詐欺野郎!!


“はぁ!? お前こそふざけんな! アンタは知らないだろうけど、2次面接自体は合格してたんだよ!”


 嘘つけ!! 2次面接の結果として現に「お祈り」の手紙が来てんじゃねーかよ!


“だから!!選考に落ちたのは面接後にあった懇親会が原因だよ!アンタそん時何した?”


 何って、面接受けた他の学生と一緒に飯食って喋って「懇談」してたよ!


“そん時誰に会った?”


 人事部長とかコンサル事業部長とか……ああ、後から来た社長にも挨拶したな。


“社長に何をした?”


 な、何だよ、詰問調が怖えよ。他の皆と一緒に挨拶して自己紹介して、自分の研究の話とかしただけだよ。


“よーく思い出せ。社長が現れた時、皆はどうした? そんでアンタはどうした?”


 ああ、皆一斉に社長に名刺渡し始めたな。でも俺名刺とか持ってなかったからさ、メモ帳の切れ端に自分の名前とか学部みたいのを手書きして渡したよ。


“そ、れ、だ、よ!!”


 何が!?


“その場できったない字手書きして渡すとか、どんだけ失礼なことしたかわかんないの?”


 え、ダメなの? でも社長はニコニコ笑って俺の名刺も懐にしまったぜ?


“大人なんだから目の前で嫌な顔するわけないでしょう? でもね、「社長」なんてのは自分を軽んじた行為をした人間が何よりも許せない人種なのよ。”


 いや、軽んじたつもりなんかないんだけど、あのままじゃ名刺を渡した奴らに埋もれて印象に残らないと思ったから……


“社長ってのはどこに行ったってチヤホヤされるの。会う人皆が礼を尽くしてくれるしそれが当たり前になっちゃってるの。そんな中で礼儀を欠いた行動されたら、故意に侮辱されたも同然って思うのよ彼らは。”


 そうなの?


“そうよ。”


 ……じゃあどうしたら?


“どうにもならないわよ、もう落ちちゃったんだから。人工社会研究所はあきらめなさい。”


 えー!!この会社一択に賭けてるって前言ったじゃん! 他には何も就活してないのに、どうすんだよ一体! いやいやいや、あきらめられないって。俺が今やってるシミュレーションの研究活かせる会社はここしかないんだよ? 今さら他の会社行くったって何のアドバンテージもないんだから受かるはずないだろう! ……だったらさ、失礼を心から詫びたら再選考してくんないかな? 俺の指導教官に頭下げて推薦状書いてもらって再応募するってのは?


“往生際が悪いわね。人工社会研究所はもう駄目よ。”


 いーやーだー!!


“聞きなさい。もともと私は、あの会社は止めた方がいいって思ってたのよ。だいたい、規模でいえばたかが中小企業じゃないの。しかもアンタはシミュレーション、シミュレーションって言うけどその分野でまだ利益を出せてないじゃない。利益を出してるのはもっぱら本業の建設関連で、シミュレーション事業の方は現状赤字でしょ? それでも社長は会社のブランド力が強化されるとか社会貢献になるとか言い訳してるけど、ようはそれって彼の「道楽」ってことじゃない。冷静に考えれば、中小のワンマン社長が趣味でやってる赤字事業に人生を賭けるとかリスク高すぎでしょ。もし社長が心変わりするか失脚すればアンタ即おしまいじゃないの。”


 いや、お前、そんなこ……うーん。え? いやいや……あー、くそ。よく考えたらぐうの音も出ねえな。えーっと、じゃあどうすれば……?


“そもそも中小企業が第一志望とか自分を安売りしすぎなのよ、腐っても国立大の大学院なんだから。今からでも大手シンクタンクとか、民間研究機関の中途採用枠に応募しなさい。それから大学の教員枠だって、任期付きで非常勤なら博士号なくても応募できる公募が希にあるから探して応募すること。わかった?”


 そんなの受けたって、どうせ落とされるよ。


“やってみなきゃわからないでしょ。どっちにしろ、このまま何もしなかったらアンタ無職よ? レッドのヒモにでもなるつもり?”


 ヒモかぁ~、それもいいなあ。


“そんなのあの子が許すわけないでしょうが!! 馬鹿なこと言ってると本当に見捨てるわよ! とにかく、どこでもいいから他のところを受けろ!! 今度は本気で力貸すから! あと、少しは常識身につけろ!! 大卒の子より歳食ってるのに手書きの名刺とかバカかお前は! 就活のハウツー本でも読んで勉強しろ!!”


 あはいわかりました。よろしくお願いしゃす。


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