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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
44/182

2002年4月

 悪魔ちゃん。


“あらお久しぶり。”


 9ヶ月ぶりだよ。だって頼み事がないと呼び出しちゃ駄目っていうから……「巫女」の店に行くのも金かかるし。


“自己中な癖にそういうのは律儀に守るのね。”


 守らないと出てこねーだろ。


“で、ご用は何?”


 この春から就職活動を開始しました。俺を就職させてください。


“博士号は取れそうなの?”


 取れないよ。コンピュータシミュレーションを使った研究を続けるかわりに、自分で民間企業の就職口を探すって指導教官に大見得切ったからな。その辺りのことは前にも書いてただろ。


“わかってるけど、その後何か変化があったかと思って。”


 ないよ。だからお前に頼んでるんじゃん。


“私に頼まなきゃいけないほど望み薄なの?”


 お前嫌味挟まないと喋れねえのかよ。そうだよ、ちょっと自分で動いてみたけど予想以上に厳しかったんだよ。博士号取れないし大学教員とか研究職は最初から除外して考えてたんだけど、普通の業種に就職しようと思ったら逆に博士課程まで行ったことが(あだ)になったみたい。面接の時に言われたもん。「いやあ、大学院まで行かれた方にやっていただくほどの仕事はあいにく弊社には……」って、なんか慇懃無礼に。


“相手の言うことも、もっともに聞こえるけど……”


 いや違うんだよ。博士課程に入る前さ、不合格だった時のことも考えて院試の結果が出るまでの間就職状況を調べたことがあるんだよ。そしたら、修士課程で卒業した場合はむしろ大手民間企業からの新卒募集が結構あったのよ。そのほとんどが「総合職」(専門分野に特化せず部署異動や転勤を繰り返しながら昇進する、いわゆる一般的な社員の枠)での採用だったけど、とりあえず大学院に行ったから民間に就職できないなんてことはなかった。だから、総合職だったら博士課程からでも入れるんじゃないかと思って就活してみたら……


“なんとなくわかった。総合職での募集はあくまで修士卒に対してであって、博士課程にまで進んだ学生は適用外だった、と……”


 そう。まあ、博士課程まで進んだら普通は博士号取って大学教員になるからな。そこからドロップアウトして民間企業に流れる人材ってのが日本じゃまだ想定されてないんだろうなあ。


“「だろうなあ」じゃないわよ。バカなの?”


 なんとかしてよ~ドラえもん。


“誰がドラえもんか。で、どうするの?”


 うーん、狭き門だけど民間の研究職を探すしかない。


“どこかアテはあるの?”


 コンピュータシミュレーションを利用したビジネスのアイデアコンテストに応募したことがあるんだけど、それを主催した「人工社会研究所」って会社の研究職採用に応募した。説明会→集団面接→1次面接と進んで、来月のどっかで2次面接を受けるために今は日程を調整中。


“そこ以外は?”


 ない。ていうか、今んとこ人工社会研究所の一択に賭けてる。


“そんなに良い会社なの?”


 俺が研究で今使ってるのはMASっていうコンピュータシミュレーションなんだけど、MASを使ったビジネスを展開してる民間企業は日本じゃ今んとこそこしかない。あと、この会社だったらレッドが住んでる練馬のアパートからバス1本で行ける。


“あ、東京の会社なのね。なに? 就職したらレッドの家に転がり込むつもり?”


 とりあえずレッドは就職後も遠距離恋愛を続けるのはムリって言ってる。それに地元の就職口を探そうったって、九州に民間の研究職を募集してる会社はほとんどなかったよ。大阪には少しあったけど、でも大半は東京に集中してる。そういうの色々考えると、どうしても就職は東京でってことになるかな。で、そうなると東京は家賃も高いから、先々のこと考えると同居だねって2人で話してる。


“そんなことまで話し合ってるんなら、最近はレッドと上手くいってるのね。”


 いってねえよ。相変わらず月1で東京と九州を行ったり来たりしてるけど、一緒にいる3日ぐらいの間の1日は必ずケンカで険悪な状態だよ。それもレッドが急に不機嫌になって、いくら理由を聞いても「別に」しか言わないっていうな。こっちは機嫌が直るまで理由もわからず「ゴメン」って謝り続けてよー、途中で何のために謝ってるのか目的がわからなくなっても謝り続けてよー。ほんっと理不尽極まりないわ。そっちの方も何とかしてくれよ。


“無理。彼女がなんで機嫌が悪くなるのか全くわかってないんだから、私が一時的になんとかしてもどうせアンタはまた彼女を怒らせる。”


 え、お前機嫌悪くなる理由知ってんの? だったら教えてよ。


“教えない。教えたって「そんな些細なことで怒るか?」「そんなことで怒る方がおかしい」って言い出すに決まってるから。結局、アンタが彼女の身になって納得いく答えに辿り着かなきゃ何の意味ないのよ。”


 ああ何かまた面倒くさいこと言い出した。じゃあ、もういいや。


“あっそう。就活の方は、とりあえず人工社会研究所の2次面接に合格させればいいのね。”


 そうだよ! どうぞよろしくお願いします!


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