2001年7月(6)
……わかったもういい。これ以上聞いたところで、今んとこお前が言ってる理屈は全部後出しジャンケンだからな。
“聞かれたから答えてるのに随分な言い草ね。”
嘘だと証明はできないが、本当だという客観的証拠もない。違うか?
“この場合の客観的証拠って何? アンタがアスタルテの示した「しるし」だと思った流星群みたいなもの? そんなもんで良いんだったら見せられますけど何か?”
腹が立つ言い方するなあ。いいよ、別に議論がしたかったわけじゃない。ここ最近の出来事に関して、もし悪魔ちゃんだったら何で言うのかを知りたかっただけだ。
“「悪魔ちゃん」の言い分として納得がいった?”
んーおおむね納得なんだけどさー……本当の本当に正直なとこ言うと、「コレジャナイ感」が若干ある。
“はあぁ!?”
いや、前の悪魔ちゃんは何言っても微妙に「話が通じない」感があったんだけど、今のお前は逆に話が噛み合うのが違和感と言うか何と言うか……
“あのね、アスタロトの監視下にあった時には話せなかったことが今は話せるって言ったでしょ。それに私はアスタルテ側に残留した方の悪魔ちゃんだから、アンタの中で消えた方の私と完全に同一人格ではないわ。だから前と比べれば違いがあるのも当然……ていうか、お前が勝手に考えたお前の中の「悪魔ちゃん」なんか知るか! これで不満なら二度と召喚には応じないから!”
わかったわかった、そんな怒んなよ。だからおおむね納得だって言ってんじゃん。なんか「怒らないから言ってみな」って言われて言ったら激怒されたような気分だよ。……あっ
“何?”
これってレッドに理不尽に怒られた時と感じが似てる。もしかしたら、レッドと「執着」を共有したせいであいつと人格の融合みたいなのが起きてるんじゃないの?
“さあ、そうかもね。まあいいわ。あと!これからは用もないのに呼び出されてもホイホイ出てこないわよ。”
え、そうなの?っていうかどんな用があれば呼んでいいの?
“自分では知りえない何かを尋ねたい時か、自力では実現できない願いを叶えたい時よ。”
そういうルールだったっけ? 前は雑談的な呼び出しにも応じてくれてたような……
“それは今まで「悪魔」として召喚されてきたからよ。でもアンタ今回は女神アスタルテとして召喚したでしょう。今後の召喚もその継続になるから、私もこれからは「神」として振る舞うことになるわ。神として言うならば、私を呼んでいいのは神託が欲しい時だけよ。そして、神託を得るには儀式の詠唱と供物が必要だから。”
なんか面倒なシステムになったな。詠唱はいいとして、供物って何を捧げればいいわけ?
“それは巫女と相談してちょうだい。”
「巫女」? ああ、例の店の嬢か。でも相談ったって、あの娘に聞いても「わかんない」って言うと思うぞたぶん。
“神殿に行った時に捧げるものを考えればいいのよ。あなたの国では神社ってことになるだろうけど、普通はお賽銭と食べ物なんかのお供えものでしょ。”
お賽銭は、お店に払ってる料金でいいの?
“いいわよ。お供えものは、最近あなたお菓子を持参して行ってるみたいじゃない。せいぜい彼女が喜ぶものを持って行ってあげなさい。”
了解。これからは悪魔ちゃんを呼ぼうと思ったらそういう手続きが必要になるわけね。ところでさ、お前さっきレッドの味方って言ってたよな?
“言ったわね。”
例の店に通うってことはレッドから見ると俺が浮気してるみたいなもんだと思うんだけど、それを召喚の度に要求するってのはレッドの味方って立場と矛盾しない?
“巫女があなたと恋愛関係になれば「浮気」になるでしょうけど、そんなこと絶対にありえないから心配しなくていいわ。”
なんでそう言い切れるんだよ。
“言わせたいの? 巫女から見ればどう見てもアンタは単なる客、というか金ヅルでしかないからよ。”
わかったよちくしょう。