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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
41/182

2001年7月(4)

 そーかよ。しっかし魂、魂って相変わらずだな。そんなに魂欲しがってどうすんの? 回収されたら俺の魂ってどうなっちゃうの?


“私たち3人のものになる。”


 3人?


“アスタルテ、私、レッドの3人。”


 3分割されるような感じ?


“違う。そんな物質的な話じゃない。「私たちのものになる」っていうのは、下位概念になるってことよ。死後あなたの魂は私たち3人を上位概念にもつの。”


 またわからんこと言い出したな。概念? ようするに、魂って概念なの?


“もちろん。死後肉体から切り離された魂は純粋に概念のみの存在になるし、私たち超自然的な存在は最初から概念存在よ。概念同士の関係は、どっちかがどっちかに属するという上位・下位に集約されるわ。だから私はアスタルテの概念に属しているし、あなたは死後、私たち3人の概念に属することになるのよ。”


 属したらどうなるの?


“アンタから見たら特に変化はないかもね。でも「上位概念に矛盾することができない」という制約が課されるわ。私だってフェニキア時代の女神として定義された属性の範疇内で性格付けされてるもの。”


 それだけ? 魂取られるっていうから、自我がなくなるとかもっと恐ろしいこと想像してたんだけど……


“自我? なくなるわよ。例えば私は「アスタルテ」で召喚されても思わず応召してしまうけど、それはもう自分とアスタルテの区別がつかなくなってるってこと。半ば自分のことをアスタルテだと思っていて、実際あなたと対面する時以外の私はほぼアスタルテだわ。でも本当の、というか私の上位存在としてのアスタルテは「悪魔ちゃん」として召喚されても絶対に応じることはないだろうし、自分を「悪魔ちゃん」だと自認したことなんて一度もないでしょうね。そして私は、アンタみたいに私を「悪魔ちゃん」と認識する人がいなくなれば、アスタルテと完全に合一化されてしまって悪魔ちゃんとしての存在が消えてなくなる。上位と下位の概念の違いっていうのはそういうことよ。”


 ふーん。でも俺は消えてもいい、っていうか、もともと死んだら無になるって考えだったから別に恐くないや。ところでアスタルテやお前が「魂を取る」って意味はそれでわかったけど、レッドの場合はどうなの? 俺を下位概念として持って、そんでその後どうなんの?


“上位概念になる利点は、下位概念を丸ごと包摂できること。それで何ができるようになるかというと、例えばアンタが死んでも、レッドはアンタを自分の中で完全に再現できるようになる。よく「心の中で生きてる」なんて表現があるけど、人格を丸ごと移植できるという意味じゃとてもそんなレベルの話ではないわ。ビジュアルも完全に再現可能だから、彼女が望めばまるでそこにいる(・・・・・)かのようなアンタの幻覚を出現させて死ぬまで一緒に暮らすことすら可能でしょうね。”


 アイツが先に死んだらどうなんだよ?


“死ねば魂として概念化されるんだから、その時は私たちの場合と同じじゃないの。アンタが死んだら速やかに彼女の下位に組み込まれるだけよ。そして彼女が望んだ時にいつでも「アンタ」として彼女に呼び出されるの。それも永遠にね。その状況から解放されるとしたら、彼女が概念として誰からも認識されることがなくなる、つまり彼女が完全に忘れ去られた時だけね。そうなれば、彼女は彼女の上位概念と完全合一化して存在が消滅する。一緒にアンタも消えることができる。”


 アイツの上位概念って何?


“知らないわよ。それは彼女が望み、彼女が決めることよ。ただ、彼女はアンタみたいに悪魔を召喚して「死後の生」を売り払ったわけじゃないから、何に属するか、何を上位概念に持つかについては今のところ無限の自由を持ってるわ。アンタと違って。”


 なんだよー、なーんかお前の態度ってレッド寄りじゃね?


“そうよ。はっきり言って私は彼女の味方だから。”


 なんでよ?


“執着を介して概念の一部共有が起きてるの、彼女との間に。だから想いや記憶が流入してきて他人事と思えなくなってきてるのよ。アンタの無神経な言葉に傷ついたり、それでもアンタなんかを大事に思ってたりっていう経験を共有すれば味方したくなるのも当然でしょ。”


 そうすか。しっかし、お前自身も何か消える(・・・)前から変わったな。今回は俺からの質問にぶっちゃけベースで正直に答えてくれてない? 前はなんつーか不条理っていうか、意味ありげだけどよく意味のわからない言葉で(ケム)に巻いてたのに。


“そりゃあ、もうアスタロトの目を気にしなくてよくなったから。でも前の私も嘘をついてたわけじゃないわよ。詳しく言えないことがあったから、言えることだけ話してたら結果的にわかりにくくなってただけ。”


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