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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
36/182

2001年4月

 イシュタル=アスタルテを召喚するための儀式を先月から始めた。儀式には「聖婚式」っていう聖娼(神聖なる娼婦)と交わる行為が必要らしいんだが、この際神聖でなくてもかまわないので、いわゆる「客と従業員が偶然出会って自由恋愛する」お店に行った。行為の最中は、本で調べた召喚の祈禱文をすっごい小さい小声で詠唱した。もう声っていうか、喉の奥で息でささやくくらいの感じで。でも終わった後、相手に「そういえば途中何かちっちゃい声で言ってたよね?」って言われて、「ええ……あああ、うん……」とか挙動不審になった。あぶない奴だと思われたかもしれないが、どうせ行きずりの関係だからいいやと思って湧き上がった羞恥心に耐えた。で、その成果なんだが……女神アスタルテよ、わが問いに答えよ。


“何か。”


 前にも乞うたが、あなたの分身である「悪魔ちゃん」という魔神と話をしたい。


“できぬ。私はその者を知らぬ。”


という感じで進展なし。……えーと、ひとまず近況はそんな感じ。レッドとの関係も相変わらずだ。隔月で俺が東京に行った時は、レッドが予約したビジネスホテルで一緒に週末を過ごている。彼女が住んでるアパートに行かないのは部屋がすっごい汚いからだそうだ。でも、今引っ越しを考えてるそうで、引っ越して部屋をキレイにしたら俺を招くとのこと。まあ、いつになることやら。


 ……あとは、えーっと、さっきクズ女の長尾から携帯に電話がかかってきて、不本意にも長電話になった。普段なら長尾の電話なんか無視して出ないことの方が多いんだが、今日はたまたま眠れなくて布団の中で寝返りを繰り返してた時だったんでつい出てしまった。


『ちょっと聞いていい?』

「いきなり何の話だ。」

『男の人って好きじゃない女とエッチってできるの?』

「できるよ。」

『即答だな。』

「……人によるだろうけどな。」

『例の人とエッチできたんだけど、脈あると思う?』

「その人彼女いたろ。別れたんか?」

『別れてない。』

「はあ? だったら脈なんかねーだろ普通。遊びだよそんなもん。お前、その人のこと誠実でウブって言ってたじゃねーか。一体どこが誠実でウブなんだよ!」

『でも“君のことも大事に思ってる”って言ってくれたよ。“だからツライ”って泣いてたよ。』

「ふーん、じゃあそれでいいんじゃないの。」

『冷っめた!! いつもレッドちゃんのコト相談に乗ってやってるのに!』

「お前が“レッド”言うな!」


 ああーそういえば、話の例えで「悪魔」とか「生ゴミ」って言葉を出した時にレッドがぶちキレて、なんでそこまでキレたのか、女側の心理とか聞いたなー。でもコイツの助言なんて何言ってるかわかんなくて、ほとんど役に立たなかったけどな。


「いやだからさ、彼女がいても略奪すりゃあいいだろ。」

『できると思うー?』

「お前って、外見は中の上ぐらいよな?」

『失礼すぎない?』

「まあ聞け。ようはルックスだけで勝負して勝てる相手かってコトよ。どうなん?」

『わかんない。』

「万全じゃないなら、奸計(かんけい)でいけ。それぐらい今さらだろ。」

関係(かんけい)?』

「悪だくみだよ。彼氏と彼女の疑心暗鬼を煽れ。上手く嘘ついて罠にはめろ。」

『なんか恋バナのアドバイスっぽくねーな。』

「俺に聞くってのはそういうコトだよ。嫌なら他をあたれ。」


 この後は略奪するための助言をいくつかした。例えば、相手がお前との関係を迫ってきた時は「彼女に悪い」と言っていったん拒め(でも最終的にはやらせてやれ)、この三角関係に本気で悩んでいるということを事あるごとに言え、でも「彼女と別れて」は絶対に言うな、彼女の悪口も絶対に言うな、もし彼氏に何か悩みがあれば(恋愛以外の悩みでも)徹底的に聞き役に回れ、聞く時に「そうだよね、大変だよね」みたいな感じでいちいち共感しろ、でも「こうした方がいいよ」なんて自分の意見は一切挟むな、ってな感じ。俺には略奪愛(笑)とか一切経験ないけど、思いつく限りを言い散らかしてやった。だって長尾の恋愛が上手くいくかとか心底どーでもよかったし、コイツも「えー」とか「でもー」とか口答えばっかして真面目に話を聞く態度に思えなかったし。そもそも、この長尾との電話のくだり自体無くてもいい余計な部分だったかもしれない。


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