2001年1月
【ここまでのあらすじ】
「俺」は大学院を受験する前、悪魔アスタロトに合格を祈願した。だが、いざ合格すると色々と難癖をつけ代償の魂を出し渋った。約束の履行についてアスタロトと丁々発止のやり取りの後、俺の「自分さがし」を成就させることを条件に命を奪う契約を改めて交わした。ついでに、そのプロセスを小説として書き残すこと、悪魔との対話は小説を執筆している最中にのみ可能となること、対話する時の悪魔の人格は女性とすることを付帯条件とした。
次に女性人格として召喚した時、悪魔は自身をアルタルテと名乗った。アルタルテはアスタロトの由来とされるバビロニアの女神(キリスト教においては邪神)だ。しかし俺はアルタルテなどという大仰な名前は認めず、彼女に「悪魔ちゃん」という新たな名を与えた。と、悪魔ちゃんは急にシリアスモードに豹変し、アスタロトとの契約を破棄する(この小説を止める)よう俺に迫る。理由を尋ねると、このまま契約を続ければ俺の命が危ないこと、命を助けようとするのは俺を愛しているからとのことだった。他に、「悪魔」は人間、常に俺を監視している、なぜなら俺が「世界の中心」だから等と弁を弄する。
悪魔ちゃんとのやり取りの影響か躁鬱状態を繰り返す中、実は「悪魔」(悪魔ちゃん含む)とは俺自身のシャドウではないかという心理学的な仮説に辿り着くが、あっさり悪魔ちゃんに反証され余計に混乱を来す。そして悪魔ちゃんへの不信感を募らせたあげく、彼女の元人格であったアスタロトを再び呼び出し、契約の変更を要求する。それは、「自分さがし」などという抽象的な願望でなはなく、大学院での研究業績や小説の新人賞といった現世利益を求める契約だった。契約変更の代償として、誰かを幸せにできるほど魂の価値を上げること、それが叶わなかった場合は将来生まれる俺の子供の魂を供物に差し出すことを認めた。
この契約変更に納得しない悪魔ちゃんは、アスタロトが俺の願望を叶えるのを裏で邪魔しようとする。それを疎ましく思った俺は彼女に対して心を閉ざす。それによって悪魔ちゃんは俺に干渉できなくなり、学問の修士号や小説家デビューといった願望が叶えられるはずだった。が、実際には、修士号は取れたが新人賞には落ちるという中途半端な結果に終わった。悪魔ちゃんを呼び出して状況を尋ねると、やはり彼女が全力で阻止した結果だった。そのためにアスタロトと俺をつなぐ「回路」を切断し、それに力を使い果たしたためもうすぐ(俺の中から)消えてしまうという。何だか気が抜けた俺は悪魔ちゃんを責めるでもなく、ようやくフラットな気分で話せるようになった。最後の会話の中で、あのままアスタトロと契約を続けていたら俺が死んでいたこと、しかしそれは阻止できたことを告げられ、もうすぐ「運命の人」に出会うとも予言される。
修士号を取得して博士課程に進学した俺は、昼はゲームセンター、夜はインターネットのゲームやツーショットチャットで女性をナンパしたりといった自堕落な生活に耽溺する。そんな中、ネットゲームの対戦で急に仲良くなった「レッド」は男子中学生のような性格だったが、裏表がなく分け隔てのない性格なので「彼」を通じてネットでの人付き合いも広がっていった。そんなある日、レッドが女性であることが明らかになる。いつもチャットでナンパしている時の癖で俺はレッドもクドイてしまい、すぐに電話で話をして遠距離(九州と東京)で付き合うことになってしまった。
とはいえ、女遊びということではまだまだ満足してなかった俺は、レッドのことを遠距離でキープしつつもそれ以上の関係になるつもりはなかった。が、別の男性から結婚を前提とした交際を申し込まれていることをレッドに告げられた時、思わず「東京に会いに行く」と言ってしまう。東京で会ったレッドはボーイッシュだが可愛いルックスだった。その日ホテルで一緒に一夜を過ごし、翌日は遊園地のカップル向けイベントを2人で楽しんだ。翌週はレッドが九州に来て1週間俺の下宿に滞在した。夜明け近くまで愛し合った後は午後まで寝て、夜は街に繰り出して遊んだ。福岡空港で「帰りたくない」と泣き出すレッドを送り出した後、俺は突然我に返った。レッドに会いに東京に行って以降の自分の行動が実感を伴って思い返すことができなかったのだ。まるでこの数日間、「誰か」に操られてでもいたように。ここで、悪魔ちゃんが最後に残した「運命の人」に出会うと予言を思い出して慄然とする。
何だか空恐ろしくなった俺はレッドと別れようとする。とはいえ、もし「全てが悪魔ちゃんの仕業だったら」と考えると、それが明らかになるのも怖くて正攻法でレッド本人に別れを切り出すことができない。そこで、徐々にレッドが不信感を募らせ自ら離れていくような工作を仕掛ける。まずは他の女性と頬寄せた写真の画像をネットの友人経由でレッドに見せる。そこであまり要領を得ない言い訳をする。次に、レッドが携帯に電話をかけてきた時に知らない女が出る、という作戦だった。写真を見せる作戦は、たまたま知り合い程度の女の子と写った写真があったので上手くいった。電話に出る別の女は、弱みを握っている同じゼミの同期生に協力させた。ところがこっちがスタンバって待っている時に限り、レッドは何らかの理由で偶然電話してこなかった。こんなことが3回続けて起き、この作戦は結局中止となった。ここにも俺は偶然でない何かを感じざるをえなかった。
そんなモヤモヤを抱えたまま続けていたレッドとの関係にも変化が訪れる。ささいな言葉の端々に急に激怒したり、落ち込んだり、暴力的な行動をとったりと心理的に不安定になってきたのだ。これが「運命の人」なのか……? 悪魔ちゃんが引き合わせたのがレッドだとするなら、その意図が俺には余計にわからなくなってしまった。
ここに至って俺は決断する。自分の中から消えてしまった悪魔ちゃんだが、彼女が何を考えていたのかを知る手立てを見つけるしかない。
と、ここまで書いてみたら、意外に支離滅裂にはならなかったな(笑