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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
3/182

1997年2月(2)

 あーあ。テンション、バリ下がりだよ。もうダメかもな、この小説。そこまで創作意図っての? バラされちゃ台無しだよ。なんかもーどーでもよくなっちゃったな。 おう、こんなもん別にヤメたっていいけど、でもさぁ、お前、今致命的なミスを犯したぜ。俺を大学院に合格させたのは、気まぐれだと? お前、さっき目的意識だけが自分のアイデンティティーだみたいなこと言ってたじゃねぇか? そんな奴が無目的に何かしたりすんのかよ。主体とか動機とか変な形而上みたいな事言って、自分を定義したのはお前なんだからな。もし悪魔の性質がお前の言った通りだとするとだ、それとお前が気まぐれに云々ってのが本当だとするならだ、お前は悪魔じゃねえ。ペテンだ。イカサマだ。


〝面白い。だが、ひとつ訊いておく。お前は悪魔を信じぬのではなかったのか。〟


 こういうことだよ。俺と今ワープロの画面を通して会話してるお前は、ユング言うところのシャドウじゃねえ。そんな深層意識の本質に関わるような大物じゃなく、もっと浅いトコロにいるザコだってことだよ。


 ただしだ、〝気まぐれ~〟ってのが嘘なら、お前は本当に悪魔かもしれねえが、じゃあなんでそんな嘘をついたのかってことになる。お前は絶対に目的もなく行動しないわけだから、嘘をついたのにも目的があるわけだ。しかも、その目的は俺の魂を奪うことなワケだ。けど、一見お前のやったことは魂を奪うどころか、その権利を放棄しているようにみえる。ここが難しいとこだな。


〝お前の考えを言ってみろ。〟


 ひとつ考えられるのは、買い物をする気がなくなったようなフリをして相手に気をもませて、安く買い叩こうって腹かもしれねえってことだ。しかし、そういうやり方は、地獄の大公爵アスタロトとは思えないセコいやり方だ。つまり、お前は本当の悪魔かもしれねえが、やっぱりアスタロトなんて及びもつかないザコだってことになる。ただな、あともうひとつ考えられるのは、お前は本当にアスタロトで……、いやいや、うーん。それはあり得ないだろ。


〝何があり得ないのだ?〟


 いやいいんだ。要するにさアスタロさん。別にアンタが名前の通った大悪魔じゃなくたっていいんだ。実をいえば俺だって、契約書に書くのは、ちっとでも大物がよかろうと思って書いただけで、どうしてもそれじゃなきゃならないってわけでもなかったんだから。


〝結局、何が言いたいんだね。〟


 だからさ、アンタを召喚したのは小説のネタにするって動機もあったけどさ、別の目的もあったんだよ。


〝言ってみろ〟


 笑うなよ。絶対、笑うなよ。それは「自分自身とはいったい何か」ってことだよ。だいたい小説でもマンガでも、そういう創作ってヤツをやってる奴は、たいていそういうことをやりたがるだろ? 俺もいい歳食ってきて、そういうことをやりたくなったんだよ。もうちっと若いころは、そんなの「カマくせえ」って馬鹿にしてたけどな。だから、それが分るんだったら、アンタに魂をやってもいいよ。いらないってんだったら、ドブにでも捨ててくれりゃいい。


〝まだ解らんようだな。魂とはお前の霊そのもののことだ。それはお前が見つけようとしている「自分自身」なのだぞ。それを私に与えるというのは、それを得たと同時に奪われるということではないか?〟


 現代人はさ、たいていそれを得られないまんま死んでいくんだよ。死ぬまでに一度でもそれを見つけられたら、そりゃラッキーだと思うぜ。


〝無意味だ。〟


 いや、俺の魂には悪魔に奪われたっていう意味(・・)ができる。


〝面白い奴だ。つまり、お前の命を奪う条件は、お前の「自分さがし」を手伝い、それが成就することなのだな。フン。ゲーテの「ファウスト」で、ファウストが真の喜びを感じたときに、メフィストが魂を奪ってもよいという契約を交わすくだりがあったが、それに準ずるというわけか。俗悪なパロディだとは思わんかね?〟


 先人の偉業に敬意を払っていると言ってくれよ。


〝よかろう。お前の申し出を受けよう。〟


 ところで、ひとつ頼みがあるんだが。


〝何だ?〟


 悪魔というのは、いろんな姿に化けられると聞いたが?


〝無論だ。〟


 じゃあ、今度呼び出すときは、若い女に化けてきてくれ。申し訳ないが、アンタのおっさん臭い声と一生つき合っていかなきゃならんと思うと、なんだか泣けてくる。


〝はっはっは。どうせ、そのスケベったらしい要求も最初から考えてあったのだろう。よろしい聞き入れよう。では、今日はこれで終わりだ。話すことももうあるまい。〟


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