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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
27/182

2000年9月(1)

 レッドと悪魔ちゃんの関係について、先月から引き続き悩んでいる。いや、悩んでいるというのはちょっと違うか。思いあぐねている、という方がニュアンス的には正しい。う~んまあ、そーゆーニュアンスとか、どーでもいいことまでグチグチ考えるような精神状態だってことだ。


 で、面倒になったのでやっぱ別れることにした。とはいっても、面と向かって別れ話を切り出すような度胸はない。それは「相手がどう出てくるか予想がつかない」からだけど、俺の場合世間一般的な意味じゃない。精神的に病んでると思われるのを承知で言うけど、いざその場になったら、レッドが「悪魔ちゃんしか知らないはずのこと」を次々に口するなんてことが起こりそうで本当に怖い。そんなことが起きたら間違いなく発狂すると思う俺。


 なのでそういうルートを辿る可能性を出来る限り排除して、例えば俺の浮気とか痴話喧嘩みたいな常識的な理由で別れるられるようにする、というのが第一目標だ。そこでとりあえず、これまで温存していた別アカウントを使うことにした。レッドと知り合った対戦型9ボールは、付き合い始めてからは、ログインすると必ずレッドがやって来て俺の対戦相手にも友達の輪を広げようとするからだんだんうっとーしくなってきていた。前にも言ったけど、俺は基本的に対戦相手とは一期一会で楽しみたいタイプだったから。そこで、別アカウントを新規作成して別人としてプレイを楽しんでいたというわけだ。この「別人」から俺が浮気をしているという情報を流せばいいわけだが、レッドが開設した対戦室に自ら入っていって話しかけるというのは怖くて無理だった(なんか自分でもレッド恐怖症になりかけてると思う)。なのでピカードに一役買ってもらうことにした。別アカでログインしたらちょうど彼が対戦室で待機状態だったので“よろしくです”と話しかけた。


“どうも”

“はじめまして、、なんですけど一戦いいですか?”

“いいですよ”


ということでゲームを開始した。まずは初心者を装ってプレイしたらピカードもレベルを合わせてくれて(彼はそういう性格だった)ノンビリモードで何回か対戦をした。世間話なんかもして多少打ち解けたところで新しい話題を切り出した。


“唐突なんですけど、楽器演奏したりしたことってあります?”

“いやないですけど”

“実は最近仲良くなった連中とバンド組んでるんですけど、コピー曲ばっかじゃなくてオリジナル曲を作ろうって話になったんですね”

“はい”

“でもやってみると作曲とか編曲の経験者がいないんでなかなか上手くいかなくて”

“へー”

“だから恥を忍んでネットで知り合った人みんなに最近声をかけてるんす”

“なるほど”

“何というか音楽を演奏すること全般で何かアドバイスもらえるような人。どんなことでもいいんで、知り合いの人にいないですかね?”

“うーんそう言われても……”

“バンドのメンバーの写真です。一応、実在するバンドだって証明のために”


と、練習スタジオのアンプやらスピーカーをバックに俺と若い女の子が顔を寄せ合って写ってる画像をチャットに貼り付けた。この若い女の子、名前をカリナといってエロチャットで知り合った子だ。とはいってもテレホンセックスするような関係じゃない。最初にチャットルームに入ってきた時いきなり人生相談された。希にだけどこういう子もいる。で、こっちはもちろん下心アリで相談に乗った。彼女は大学生だけど学校になじめなくて行きたくないとか、母親と関係が上手くいってないとか。その中で、「アニメが好き」「アニメソングが好き」「バンドでアニメソング()りたい」とか言い出して、そんで俺は趣味でギターをやってたし、同じ福岡市に住んでることもあって(九州地域限定のエロチャットで会ったからその可能性は高かったわけだけども)、1度練習スタジオを借りてやって歌に合わせて演奏した。チャットに貼り付けたのはその時の写真だ。その後は、なかなか関係をエロい方向にもって行くことができず、レッドとあんな感じになって以降は完全放置状態になってる。向こうからの連絡もほぼ途絶えたところを見ると、1回スタジオで演奏してみてそれなりに満足しちゃったのかもしれない。


“ちょっと今思いつかないかなあ”

“まあ急に言われてもそうですよね”

と返事したが、この時は内心焦っていた。ピカード、よく思い出せ。心当たりの人間が1人いるはずだぞ?


“あ、その人ってバンド経験のある人限定ですか? クラッシックとか吹奏楽の人でも可?”

“広く演奏全体って感じでアドバイス欲しいんでもちろんOKです”

“でも会える地域の人ですよね? 県とか地方はどのあたりですか?”

“いや、まずはネットでいろいろ相談に乗ってもらえるならどこの人でも大丈夫です”

“そうかーだったら1人心当たりがいるからちょっと聞いてみますよ”

“ありがとうございます!”


そうだピカード。レッドが高校、大学と吹奏楽をやってたことはお前も知ってるはずだ。前に3人でチャットしてる時に話題に出たからな。


 その日は目的を達したので、その後何回か対戦したあとピカードと別れた。対戦室を出る間際、相手に写真を見せるよう再度強調しておいた。


“写真は見せてもらってかまわないですから”

“ええ、いいの? 知らない人に顔バレしても”

“これからバンド活動してデビュー目指すのに顔バレ怖がってても意味ないですから”

“ああーそうか。わかった”


これでレッドがあの写真を見たらどうなるか。ここまでの俺の苦労を全く無視して、最初から知っていたかのように俺の自作自演を指摘するのではないかという恐怖が一瞬よぎったが、それはもうあえて考えないことにした。

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