2000年8月(6)
あ、言っとくけどレッドは厨房じゃなかったからな。俺と同い年の中学校教師だった。前に「明日授業がある」って言ってたのは、教わる側じゃなくて教える側での話だった。これ強調しとかないと中学生とテレホンセックスしたことになっちゃうからな。結果的に叙述トリックになっちゃったけど、当時俺がリアルタイムで騙されてた、ていうか思い込んでたのを同じように追体験してほしくてそう書いた。レッドを男だと信じて疑わなかったこともね。でも、これ以上の叙述トリックはもうないから安心してほしい。
この後は、レッドと遠距離恋愛の「体」になった。なぜ「体」かって言うと、なにせ相手は東京で俺は九州だもんで、まだ1回も会ったことがないからだ。この距離感だと、今後も実際に会う機会があるのか俺はかなり懐疑的だった。電話をかける時はお互い恋人同士のように語るけど、俺はどっちかというとレッドの「恋愛ゴッコ」に付き合ってるという意識だった。
もっとも、「ゴッコ」ではあったが俺にとって新鮮な恋愛体験でもあった。それは、生まれて初めて「人並み」の恋愛イベントを経験することになったからだ。これまで何人か付き合ったことはあるけど、ほぼ全員ビジュアル微妙でファッション奇抜なサブカル女だったので、告白→デート→イチャイチャみたいな流れにはならなかった。だいたいは「ゴロウ君(←俺のことな)って面白いね」って近づいてきて、基本俺は来る者拒まずだから日常的につるむようになって、ある時何かのきっかけで相手が「まあアタシら付き合ってるんだし」とか言うようになって、俺も「あーそうなのか」と思って既成事実化して、みたいな流れだった。でも付き合うって言っても内実は、相手が書いた、美少年を殺す中世貴族の耽美小説とか読まされて感想言ったり(テーマになじみはなかったが小説自体はまあ面白かった)、当時俺が書いてた高校生がヤクザ殺すバイオレンス小説とか読ませて一晩中感想言い合ったりしてた。だから、遊園地とかでデートするなんて流れになったコトは1回もない。むしろクリスマスとかバレンタインとかにデートでイチャイチャしてるカップルに2人で呪詛を吐いていた。肉体関係は、事後に大抵お互い気まずくていたたまれなくなるので必要最小限の頻度だった。なんかね、「一時の獣的な欲望に流されて恥……」みたいな。うん、まあ要するにどっちも中2病だったんだね。価値観がトチ狂ってたんだよ。だってさ、今考えるとセックスなんかよりも、自作の小説を夜通し語り合う方がどー考えたって恥ずかしいだろって思うもんな。最後は大体「ゴロウ君もやっぱ普通の人なんだね」って言って相手の方が去っていった。
レッドとそうならなかったのは、もちろん彼女がサブカル女じゃなかったってことと、俺が最初からテレホンセックスのクドきモードになってたからだ。彼女は電話で話す時にもチャットの時みたいに男口調が混じることがあったが、これは女性らしさを見せればとたんにナメてかかる厨房や渋い顔をする同僚教員の中で身につけた「鎧」だったんだろう。だからその鎧をこじ開けるため、俺は徹底的にレッドを女扱いすることにした。
「いや、でもモテるでしょ?」
『だからモテないって。』
「そうかなあ。俺だったらすぐ好きになると思うけどな」
『そりゃ顔見てないからだよ。』
「声でだいたいわかるって言ったじゃん。それに電話だとミサコが耳元で囁いてるみたいで思わずキスしそうになるよ」
『あっははは。ウソつけ!』
「本当だよ……チュッ」
『うわ恥!こいつ受話器にキスしてるよ(笑)』
「いや、思わず。……チュッ」
『やめろ恥いって!』
「チュッ……チュッ」
『怒るぞ!!』
「可愛い……チュッ、チュッ」
『うう~~~~~~……チュ!』
どうだ恥ずかしかろうw 共感性羞恥の人とかは俺をぶっ飛ばしたくなるだろうな。でも、テレホンセックスハンター(なんそれ!?)の俺としては、最後にレッドが「チュ!」って返したのが重要なの。こういう反応が少しでも出てくる相手なら時間はかかっても最終的にはその気にさせれるから(個人の感想です)。まあ……この後めちゃくちゃテレホンセックスしたのは前回書いた通り。
で、その後なんだけど、「順番逆になっちゃったけど付き合ってください」って俺の方から言った。これも今までテレホンセックスした相手には必ず言ってたセリフ。まあ、執拗にリアルで相手と会おうとしてたからね、それぐらい言うわな。ただこれまでは、電話でOKした相手と実際に会おうとしたら必ずすっぽかされるってのがオチだった。例外的に、会えたけど1回リアルでセックスして音信不通になった(教えられた携帯番号を解約されてた)のが1人、会った時露骨に「思ってたのと違う」って態度されて音信不通になったのが1人、以上がぶっちゃけこれまでの全戦績だ。でも付き合いが続いてたら次にどうするかはテレホンセックスハンターとしてちゃんと考えてたんだぜ? それは「君のことをもっと教えて」って言うこと。だからレッドにも言った。レッドが学校の先生だってわかったのはその流れでのこと。