2000年8月(5)
ピカードが帰ってからレッドと2人で対戦してる時、少し気になってたんで俺の方から話を蒸し返した。
“まあいいんだけどよ、あんま自分から女って名乗らない方がいーぞ”
“なんで?”
“チヤホヤどころか付きまとわれる可能性だってあるだろ。実際、ミレイだってまるにストーカーされてるっぽいし”
“大丈夫だよ。誰に言うかは選んでるし”
“ってことはやっぱ他でも言ってんじゃねーかw”
“こいつうぜー( `皿´)”
“そのうち怖い目にあうぞ っていっても本当に女だったらだけどな”
“03-XXXX-XXXX”
“唐突だな(汗”
“いいからかけてこい”
こうなると、こっちが試されてる感じになる。電番、しかも簡単に解約できない固定電話の番号を相手は晒してるわけで、このままだと向こうが負ってるリスクとこっちとで釣り合いがとれない。ならば、今後もレッドと友人関係を続けようと思うなら、俺の方も相応のリスクを取らなきゃならないってことだ。この場合、このまますっとぼける、という選択肢は関係を絶つのと結局同じことになるから無い。なぜなら、その後関係がギクシャクして気まずくなるかもしれないし、そうなるともう俺的には付き合い続けるの面倒くさくなってメアド削除して連絡絶つだろうからだ。でもなー、これってもしかしたら宗教やマルチ商法の手の込んだ手口かもしれないし、美人局って怖れも…… てな感じで、余計な一言を言ったおかげで絶妙に追い詰められることになった。で、数十秒迷った後、結局どうしたかと言うと電話をかけた。なに、よくよく考えて見れば、こちとら学位あきらめた腐れ院生=実質的に無職なわけで特に失うものなんかないじゃん、と思い当たったからだ。その時は研究室にいて他の学生もいなかったので、備え付けの黒電話から直接かけた。
「もしもし。」
『もしもし。』
少し低いが、女の声だった。そう聞こえた。
「あー……レッドさん?」
『うん』
「レッドさんでいいのかな、何て呼べばいい?」
『ミサコで。さんは付けないで。』
「わかった。俺のことはゴロウで。」
『わかった』
その後少し沈黙が続いた。ネットのいつもの感じからしたら電話でも一気にまくし立てるんじゃないかと思ってたけど、そんなイメージのあの「レッド」が、電話の向こうでモジモジしているような気がして思わず「ふふっ……」と声が漏れた。
『なに?』
「いや、意外にキレイな声だから」
白状すると本当にキレイと思ったわけじゃない。声質が低いから「かわいい」はさすがに嘘くさいので、適当に取り繕っただけだ。
『キレイじゃないよ』
「でもそうなると余計心配になるよ。かけといて何だけど簡単に番号教えちゃダメだって」
『大丈夫だよ。ブスだからストーカーなんかされないよ』
「そうかなあ。俺、声でだいたいどんな子かわかるんだけど、ブスじゃないと思うよ」
『ブスだよ』
「じゃあさ、今まで面と向かってブスって言われたことある?」
『面と向かって、はないかな。』
「そういう子はブスじゃないよ。経験的に。」
『でも、かわいいって言われたこともないよ?』
「じゃあ美人なんじゃない?」
『そんなことないよ』
「男からしたらさ、かわいい子にはかわいいって言いやすいけど、キレイな人にはキレイって言いにくいんだよ。なんか近寄りがたい感じで、話しかけること自体勇気いるっていうか……」
えーとな、ここまでの会話で俺、大変キモいよな?(笑) いやわかってるわかってる、自分でもわかってるんだって。でもここまでの流れでさー、いつもやってるエロチャット→テレホンセックスのモードに完全に入っちゃったんだよ。エロチャットって、電番教えてもらったら即行かけて相手が出たらとにかくクドいてクドいてクドき倒すんだよ。だって、遅くても3分以内に相手をその気にさせられないとガチャ切りされるからさ。別にレッドをクドこうとか明確に思ってたわけじゃないよ。つうか、最初はそんな気さらさらなかった。声の感じだけど、本当に正直なところを言えば少年声だったし。いや、リアルな少年っていうか、アニメで女性声優が演じる「少年」て感じだった。レッドのことは最初「厨房」(男子中学生)だと思ってたんだし、そういう意味じゃむしろ事前のイメージ通りだったよ。それがさー、最初のはずみでこっちが女扱いしたら、あの「レッド」がそのうち明らかにモジモジし始めてさー。面白くって続けてたら、自動的にテレホンセックスん時のクドきモードに移行しちゃってたの。でもよく考えたら俺、女の人と話すモードって「クドきモード」と「事務連絡」の2種類しかなかったわ。だって最近はその2パターンしか女性と接点がなかったし。だからそのまま軌道修正もできずに結局この日、レッドとテレホンセックスしちゃったけどな。