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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
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1997年2月(1)

 いやぁ、スゲえねえ。本当に受かっちゃうんだもの。早くお礼言わなきゃと思いつつ、合格してから4ヶ月も放ったらかしたわ。いわば天神さんとかに願掛けてお礼参りに行かないのと同じことだから、悪かったと思ってるんだよ。本当。


〝では、約束通りお前の魂を貰い受ける〟


 ぶわらぁ!!このハゲ。そんな約束俺がいつした!? 試験の前日に書いた契約書にゃそんなこと1文字だって書いてねぇぞ!!


〝悪魔と契約を交わす者は皆、引き替えに己の魂を差し出すことになっている。知らなかったとは言わせぬぞ〟


 知らねえよ。じゃあ言わせてもらうが、お前らと交わす契約書ってのには、契約者の血印が絶対必要なんじゃないのか。このペラッペラの契約書見てみろよ。ドコに俺の血が付いてんだよ!!ええ!?


〝契約書など問題ではない。自分の才以上の事を願うとき、自然の力を超えたものを頼りにするならば、暗黙の内に悪魔と契約を交わしたことになるのだ。なぜなら、聖霊はそのような人間の我欲を満たすための奇跡は、絶対に起こさぬからだ。それを行うのは、我々魔族だけだ〟


 都合のいいこと抜かしてんじゃねーぞ!! だいたいお前がいま言ったのは、俺が本読んで得た知識じゃねーか。


〝いいか、人間。我々の言葉はお前たちのものとは異なる。それは、我々が肉の身を持たぬからだ。よって我々の言葉は意味の本質そのものであり、同時にそれが我々の身体そのものである。それは常に多義であり、決して一つの言葉で言い表すことはできない。我々が我々を語るとき、また何者かによって語られるとき、そのことによって我々は自らの姿を変え、時間を、場所を移動し、またお前たち人間に意味の変容をもたらし、世界の別の実相を垣間見せる。しかし、そのとき不可避的に誤謬が生じる。それは、我々の容れ物となる肉の身の質に左右されるからだ。そのときの我々は、本来の姿に比して卑小ならざるをえない〟


 何言ってんだか分かりません。


〝お前のおつむ以上の言葉では、我々は語ることができないということだよ。〟


 なんだとー!! まあいいや。そんなこと言ってもねアスタロさん。実は俺、幽霊とか悪魔とかってあんまり信じてないんだぜ。


〝では、なぜ私を呼び出した?〟


 だからさ、心理学的にはあり得ることだと思ってるよ。ユングだっけ? 「シャドウ」とか何とか言ってるじゃない。つまり、自分の内面にいるもう1人の自分と話してるってワケだよ。だから、アンタが俺と同じ程度ってのも、考えてみりゃ当たり前の話なんだよ。


〝お前が我々のことをどう考えようが、さして興味のないことだ。先ほども言った通り、我々の本質は我々が意味するところそのもの(・・・・)だ。我々が成そうとすること自体が我々であり、いわば行為の主体を欠く動機のようなものだ。そして、我々がお前の精神の一部であろうと、超自然的な存在であろうと、その目的とするものが同じである限り、本質的には変わらない。〟


 その目的って何?


〝だから何度も言っている。お前の魂だ。〟


 ふーん。


〝いずれにせよ、興味半分で呼び出す相手ではないと警告しておく。二度と私の前に現れるな。それが約束できるなら、今回だけは見逃してやる。〝


 ざけんな。誰がそんなこと頼んだ?


〝図に乗るなよ、人間!! 貴様の命など即座に奪うこともできるのだぞ。それをしないのは、貴様の命など奪うにも値しない低俗なものだからだ。貴様は自分の能力では進学が叶わぬと我々にすがっておきながら、最初から我々をペテンに掛けるつもりであの契約書を書いた。それを我々が知らなかったと思うのか? そうと解っていながら望みを叶えてやったのは、私の気まぐれにすぎん。最初から、お前の薄汚れた魂などどうでもよかったのだ。それだけではない。お前はいったん契約を反故にしておきながら、自分の命を与えることを仄めかして私を縛り、あらぬことを喋らせてこの小説を創り上げようと画策した。違うか!? だがはっきり言っておく。お前の魂にそんな価値はない。お前はそのみすぼらしい屑を、後生大事に生きるがいい。このくだらぬ小説もどきも、10頁を待たずして終わるだろう。〟


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