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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
19/182

2000年8月(3)

“いや逃げたわけじゃないよ。用事があるって言ったじゃん”

“こっちの返事聞く前にさっさと落ちるから何かオレともうゲームしたくないのかと思っただろ!”

“そんなことないよ。本当に急いでたから”

“嘘つけ”

“いや嘘つく動機ないし俺w”

“本当か?”

“本当だよ。”

“……わかった。じゃあまた対戦しよう”

“今から? いやいやいやもう相当遅いし。明日授業か何かあるんじゃないの?”

“あるけど授業の時以外は寝てるから大丈夫”


 唐突に授業のことを持ち出したのはもちろんカマかけだ。中学生かどうかまではわからんが、これで相手が学生ってことは確定した。身バレしたくなけりゃ大人を甘く見ない方がいい。


 その日は結局朝まで付き合わされた。コンピュータ室の窓の外が真っ黒から明るい青になっていくのを見ながら「何してんだろな俺」って思ったよ。で、別れ際に

“今度はいつ(ゲームに)INする?”

“いやー、ヒマができたら来るけど今はわからないなあ”

“じゃあ来る時はメールで知らせろよ”

“メールアドレス持ってないんだよ”


 本当は大学から割り当てられたメールアドレスを持ってる。が、身バレしたくないから嘘をついた。だってドメイン名の末尾が思いっきり「ac.jp」だもんな。


“プロバイダーからもらったアドレスがあるだろ”

“家に引いたインターネットからアクセスしてるんじゃないから”

“なに?今仕事場か何か?”

“まあそんなとこ。”

“そっか。だから次いつ来れるかわからないのか。いや仕事しろよおっさん”

“ほっとけ”

“だったらさ、Yahooメールのアカウント作れよ。プロバイダーに入らなくてもインターネット使えるとこならどこでも送受信できるから”


 Webメールか。匿名でも使えるみたいだし(※当時の話)、まあいっか。


“作ったよ”

“じゃあredline@yahoo.comに何か送ってよ。あ、これオレのアドレスな”

“ハンネ(ハンドルネーム)と同じだからわかるよ”


 今さらだけど、こいつのハンネは「レッドライン」だった。


“送ったぞ”

“ホントだ来てる。ん?Hellow World!って書いてるけどこれ何?ここはハローレッドさん!だろ”

“そこは気にするな”


 そんな感じでやっと解放された。今考えると、この時アドレス作らなかったらそのままバックレてたと思う。実際、これまではゲーム中にチャットで盛り上がって「今度またやろうぜ」ってなっても再戦することはほぼなかった。ログインした時に相手の名前(ハンネ)を検索すれば来てるかどうかわかったけど、そもそも相手の名前を覚えてないから探せなかったし。というか最初から覚える気もなかった。所詮ネットで知り合った顔もわからない奴らだし、一期一会でその場を楽しくやれりゃいいってのが俺の遊び方だった(そのくせエロチャットで知り合った相手とは執拗に会いたがってたわけだが)。


 だからこの時レッドラインとメアド交換したのは本当にたまたまっていうか、実質的に徹夜した後で判断力が衰えていたというか……ちょっとだけ「こいつ実はオレっ娘で女なんじゃないか」とか考えたりもしたが、それ目当てってことは100%ない。女だとしたら性格が嫌すぎるし、どうせ一期一会なんだから会うことのない奴の性別なんかどうでもいいと思ってたからだ。その後すぐにゲスい下ネタも平気でするようになったから女と疑ったのはこの時が最初で最後。


 案の定、というか翌日からしつこくメールで誘ってきて、でも本当に論文の追い込みや審査に入って忙しくなったからほとんど断ってた。たまに時間ができた時だけ行ったけど、そん時は恨みがましいことは一切言わず普通に対戦してくれたんで少し見直した。そのうち対戦部屋に自分の知り合いを連れて来るようになって(対戦部屋にはプレイに参加しないユーザーもギャラリーとして入室できる)、入れ替わり立ち代わりやって来る彼らとチャットで話すレッドラインを見ながら、どうやら彼を中心に仲の良いグループが形成されてることがわかってきた。俺は相変わらず人見知りだったのでグループとは一線を引いていたが、その中に1人だけ話が合う奴がいた。ピカードって奴で、どちらかというと俺と同じく距離が近すぎる付き合いを嫌うタイプだった。対戦中互いにあまり話さないのが逆に心地よくて、見かけた時は俺から誘うこともよくあった。つるみだしてからだいぶ経った頃、関西在住のSE(システムエンジニア)であることを明かしてくれた。俺も九州在住の大学院生であることを明かした。その時も、お互い「あっそ」みたいな感じだった。



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