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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
18/182

2000年8月(2)

 話は去年にさかのぼるんだけど、修士論文を大学のコンピュータ室にこもって書いてる時ネットゲームを結構してたのよ。……ああ、エロチャットもしてたけどな(畜生)。とにかく、論文の息抜きというより論文書くのと並行してゲームやってた。論文の数式とか文章入力しながら、同時に画面切り替えてゲーム操作もするのよ。なんでそんなことしてたかっていうと同時にやらなきゃ論文の締切に間に合わなかったからだけど、だったら論文だけに集中する、とかも無理だった。そん時はとにかく、論文だけ書くとか……とてもじゃないが遊びながらじゃないと退屈で死ぬ感じだった。


 よくやってたのは大手ポータルサイトが運営しているゲームで1対1の対戦型9ボール(ビリヤード)だった。特段好きなわけじゃなかったけど集団プレーのゲームは人見知りだから避けてたし、ルールが複雑なのも論文書きながらやるのがダルかったからノーサンキューだった。9ボールのマッチングシステムは、こっちが対戦部屋を開設して入室者を待つか、誰かが開設した対戦室にこっちが入室するタイプだった。対戦者とはゲーム開始前からチャットで会話できるけど、なんせ人見知りだからいつも最低限の挨拶しかしなかった。だからそん時も、俺が開設した部屋に相手が入ってきたとき“よろ”とだけタイプした。相手も“よろ”と返してきたけど……いつまで経ってもゲームが始まらない。こっちは「ゲーム開始しますか?」に「はい」を押してるのに相手が押してないからだ。イライラしながら待ってると、


“オレ、強いぜ?”


と、いきなりかましてきた。えーマジかー、って思ったよ。こーゆー自己アピール過多なのは相手するのが面倒くさいタイプが多い。安い挑発に乗れば図に乗るし、乗らなきゃ乗らないで突っかかってくる。要はヤンキーデビューした厨房(男子中学生)みたいなもんだ。そういう相手にはどうするかというと、接戦に持ち込んで、でも最後は相手に少しだけ勝たせてサヨナラする。なぜかっていうと、こっちが勝ちすぎれば自分が勝つまで粘着してくるし、負けすぎるとカモだと思ってやっぱ粘着してくるから。でも接戦で辛勝すれば、次は勝てるかどうかわからないし負けると悔しいからだいたい挑んでこない。ってことで消化試合っぽくなるけど、早く解放されたいから「接戦作戦」でいくことにした。


“お手柔らかに”

“おう”


で、やっとゲームスタート。ところがコイツ、始まったらよく喋るんだ。


“ただ順番に球を落としてくだけじゃダメなんだよ。わざと落とさずに相手がファールしやすくなる配置に追い込むことだってできるんだぜ?”

“なるほど”

“ホラ、こんな風にな。あ!これはちょっと違うか。いいよ、次の球はやるよ”


 ああ、厨房な上に「教え魔」かよ……。メンドくせーな。でもさして強くないから「接戦作戦」に持ち込むのは楽だわ。適当なトコで意図的にこっちがミスショットすればいいし、っと。


“あー外すなよwwwせっかく譲ってやったのに”

“いや難しいよ”

“そうか?こっちの角度から打てば入るよ。ホラ”

“ホントだ”

“~(o `▽´ )oΨ ケケケ♪”


とまあ、そんな感じで順調に2勝2敗に持ち込んだところで腹が減ってきた。真夜中だけどコンビニはやってるだろうし、次で負けて部屋をログアウトすることにした。ところが、そもそも9ボールって運の要素デカいじゃん? 負けるつもりの初手でうっかり9番のボールを落としちまった。


“ああー!!”

“あー、普段はこんなこと起きないんだけどなあ。これは完全に運だね。ごめん、俺ちょっと今日は時間なくて落ちなきゃ。また遊んでください。乙です”


ってログアウトして、近くのコンビニに弁当買いに行った。まあ最後はちょっとだけ目論見がはずれたけど5試合もやったんだしもう十分でしょって感じで。それぐらい腹が減っていた。で、買ってきた弁当は飲食禁止のコンピュータ室では食えないから、自販機とかテーブルがいくつか置いてる共用ルームで食った。一息ついたあとコンピュータ室に戻ってきてまた論文書きながら9ボールの部屋を開設すると、入室してきた奴がいきなり、


“勝ち逃げすんな。ゴルァ!!!!”


って言った。さっきの厨房だった。


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