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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
理論編
144/182

歴史の不在証明(31)

 しかし、遭遇する<未知>が重大か希であるかは事後に判明するのであって、事前に知りうるわけではない。ならば、どの<未知>も重大性と希少性が排除できない以上、出会った<未知>の全てを<物語>化し吟味しなくてはならなくなる。ところが、おそらくあなたも私も世の中で知っていることには限りがあり、むしろ知らないことの方が圧倒的に多いはずだ。とすると今後遭遇する<未知>の数は膨大な数になると考えられ、それらを漏れなく<物語>化すれば我々が物理的に処理可能な量を超えることもあるのではないか。


 そのような事態を避けるには、<未知>に出会った際の状況や蓋然性(起こる頻度)によって処理するかスルーするかを決めるという戦略が有効だろう。前述した「知り合いとゴルフに行く」思考実験のケースで考えてみると、起こった事象は「普段の行動圏内で知り合いを見かけた」程度のことであり、そこから発生する<未知>も些事かつありふれたものである可能性が高い。実際、このケースで新たに紡がれた「物語」は「知り合いとゴルフに行く約束をした」といった、まさに些事かつありふれたものだった(この程度のことは「AIに任せておいてもおそらく差し支えあるまい」と述べた通り)。一方、自身や肉親の生き死に、国家間の重要な会議といった、個人または社会にとって重要かつ滅多に起こらない状況に置かれた場合は、そこから発生する<未知>も重大か希、あるいはその両方である可能性が高い。よって、ここで言う「戦略」とは前者の「知り合いとゴルフに行く」のようなケースでは事象を認識した時点で<物語>化の対象外とし、後者のような、生死や社会の行く末がかかった事案では事象を認識したら<未知>かどうかの判定を行い<物語>化できるように事前の構えをとる、ということである。


 なお、今置かれているのが「事前の構えを取る」べき状況かどうかの判断は、ある程度経験則によらざるをえない。上で挙げた「生き死に」や国際会議の例が<物語>化の対象になりうるというのも、自分や社会のこれまでの経験に基づくものだ。しかし経験則である以上、これまで蓄積した経験の中にない、いわゆる「想定外」の事象が起きた場合は判断を誤る。その結果、とるに足らない些事だと思っていた出来事が後に重大な結果をもたらしたことが事後に判明したり、逆に、重大な事案と思っていたことが後に重要視されないことが起こりうる。にも関わらず経験則に頼ろうとしているのは、そのような判断ミスの発生頻度が想定の範囲内に収まっているとみなしているからだ。しかし、その想定は妥当だろうか。この問題は「いかに未来を予測しうるか」とも言い換えることができるが、それに答えるため我々の社会は過去から営々と文明を築いてきたともいえる。その結果生まれたのが、科学、法学、政治学、経済学といった諸学問だ。それらによる予測がまるで当たらないものであるなら我々の社会は体を成さなくなるが、現在、まがりなりにも社会が機能しているところを見ると少なくとも最低限の予測精度は保たれているようだ。したがって、先人が築き上げた叡智(学問)の助けを借りれば、という条件付きではあるが経験則による判断ミスは想定の範囲内と言えそうだ。


 以上のことから、日々遭遇する<未知>にどのように対応すべきかについては、ほとんどのケースで思い悩む必要はないだろう(もちろん、経験則によって<物語>化の必要なしとスルーした<未知>の中にも、よくよく観察すれば個人や社会にとって重大な課題解決へと導くものが隠れている可能性を完全に無視してはならないが)。しかし、ごく希に我々は重大でありながら既存の諸学問(特に自然科学)では解釈不能な<未知>に遭遇することがある。いわゆる「超常現象」と呼ばれる類の事象である。なお、ここでは対象とする「超常現象」が実在するかどうかについては一切関知しない。前に「<物語>化というプロセス自体が真実の探求を目的とするものでない」と述べたが、ここでも同様の立場をとる。それが客観的に存在しようとしまいと、我々の前に「超常現象」として立ち現れた<未知>に対し、どう<物語>化して<既知>の知識とし課題解決に役立てるかだけがここでの関心事である。


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