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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
理論編
135/182

要約:歴史の不在証明(1)~(5)

 ここで本論の結論部に入る前に、議論の流れを最初からおさらいしておこう。


 歴史(過去)というのが巷間言われるように現在から独立している、つまり「現在をいかように改変しようとも影響を受けず、確定したものとしてすでにある」と定義するなら、そんなものは存在しない。我々が歴史(過去)と呼ぶモノの物理的実体は、過去の遺物(文書や出土品、遺跡など)や伝承(過去の出来事を伝える言い伝えなど)しかない。この物理的実体をカッコ付きで「歴史」と表記するなら、当然ながら「歴史」は現在存在する物理的実体に余すことなく全て含まれる。つまり、「歴史」とは現在の一部でしかないのだ。そのため、現在存在する物理的実体を変化させることで「歴史」をいかようにも改変することが可能である。それに対し、「現在から独立している(=現在からは改変することができない)」と我々が信じているのは抽象的な概念でしかなく、この概念を<歴史>と表記するなら、<歴史>は物理的実体を持たない。物理的実体を持つことを「実在する」と定義するなら、巷間言われる<歴史>が実在しないことは明らかである。本論の冒頭でも述べたように、ここで歴史の不在証明は完了である。ただし、「では、一体何が存在している/存在していないのか」まで考察すると単純な話ではなくなるため、その後に長大な注釈が付くこととなった。本論を構成する大部分はこの注釈である。


 概念としての<歴史>では因果律(原因によって結果が生じるとする仮説)が前提とされる。その際、原因は結果よりも前に起きると定義されるため、<歴史>上で起きる物事の順序は、時間で串刺しされた1通りの道筋しかたどらない。一方、遺物や伝承などの物理的実体の「歴史」は、明らかに編纂者の立場や思想、感性、誤解、入手した情報の誤り等によって幾通りもの道筋が存在する。したがって、「歴史」は因果律の制約を受けないことがわかる。しかし因果律の制約がない「歴史」は雑多かつ無秩序で解釈するのが困難であり、そこから概念化した<歴史>を抽出するのはとても困難に思える。しかし、<歴史>の概念化は現になされているわけであり、ならば「一体どうやって?」という疑問が生じる。


 その疑問に対し本論では、映画(動画と音声)から人々がいとも簡単にストーリーを読み取るという現象に注目する。映画から取り出されたストーリーは通常「物語」であり、文章によって表現される。物理的実体としての「文章」は文字が1直線上に並んだ<1次元>状の構造物である。しかし、子細に眺めると、「文章」中の「文字」は集まって<語>という概念を作っている。つまり、物理的実体としては「文字」であるが、それが特定の順列で結合されることで、現実に存在する特定の事物を指し示すという意味で<概念化>されるのである(概念化は、あくまで指し示すだけで事物そのものになるわけではないことに注意)。さらに、<語>の概念同士は集まって<文>という、より大きな(構成要素の多い)概念を作る。「より大きな概念」というのを<上位概念>と読み替えると、結局、「文章」は下位から順に、<語>→<文>→<文節>→<段落>→<章>→<物語>と、多段階かつ階層的な上位概念を構成していることがわかる。この関係性は、1つの<物語>に多くの<章>が木の葉のように集まり、またそれぞれの<章>に多くの<段落>の葉が集まり、さらに各々の<段落>に<文節>=葉が集まり……といった<樹形図>のような「概念図」として描くことができる。したがって、物理的実体としては直線状(<1次元>)の構造物(「文字」)ではあるが、人々がストーリー読み取る時、<樹形図>のような平面(<2次元>)の多次元構造を心に思い浮かべていることになる。


 ところで我々は“考える葦”の例え通り、心に思い浮かべた概念こそ“真の存在だ”という強い確信を抱いている(決定的な根拠がないにもかかわらず)。しかし真の存在でありながら,物理的実体がないため見ることも触ることもできない(前述の樹形図は概念を図示したものであり概念そのものではない)。結果、他者とそれを共有することができない。“真の概念”なのに各人がバラバラに別のものを思い浮かべるのは明らかに論理矛盾なので、なんとか概念を現実に具現化したいという根源的な欲求が生まれる。そこで、現実と欲求との折衷案として採用されたのが、「文字」(<1次元>)から「物語」(<多次元>)への対応規則(何が何を指し示すかのルール)を共有することだった(間にある<語>→<文>→<文節>→<段落>→<章>の対応規則は、万人が国文法を習得して共有済みであることが前提)。これによって、物理的実体のある<1次元>を読み解くことで“真の存在”である多次元構造を各人の心中に再現できるようになった。この読み解き方の共通の了解を<プロトコル>と呼ぶことにする。また、概念化された“真の○○”のことは、今後も< >付きで表記することにしよう。


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