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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
13/182

1998年9月(1)

 くだらねえ。この文章はもう使い物にならねえ。ここまで読み返してみてゾッとした。ひどいもんだ。これはもう発表できないな。こんなもん世にだしたら孫子の代までの恥だ。そうだな、もし俺が完全に筆を折る時が来たとしたら、他人に見せてもいい。そんときは完全にバケの皮が剥がれるだろうぜ。


 ここまでを書いた自分に殺意すら覚えるね。マジで。クソだ。完璧にクソだ。腹わたが煮えくり返るぜ。全く。


〝何か用があるのではないのかね?〟


 俺は、いま、頭にきてる。


〝ここは我々と君の交信の場だ。自分のことを語りたいなら、よそでやってくれ。〟


 俺が、腹を立ててるのは、お前が、契約を履行しないからだ。


〝妨害者がいる。〟


 言い訳にならねえ。俺はなんて言った? 学問での成功と、金をよこせと言ったはずだ。


〝兆しはあっただろう?〟


 奨学金と「文○賞」のことか? どっちもまだ結果は出てねえ!!


〝もしお前が、これをまだ小説だと思っているなら、いま自分の置かれている状況を説明しろ。〟


 無用だ。これはもう小説じゃねえ。


〝図にのるな!! ただでさえ取り柄のない貴様が小説をやめれば、虫ケラ以下だ!!〟


 上等だ!! てめぇだってどうせ似たようなモンだろうが!! こんなもん、即刻ハードディスクから消去してやる。


〝そんなことをすれば、貴様の命はないぞ。〟


 好きにしろ。もうウンザリだ。


〝何をイラついているのだ? 貴様はいま、大学院での研究にも行き詰まり、生活のための資金も底を尽きかけている。だから、精神的に追いつめられているのだ。〟


 説明するな。


〝貴様は現在、授業料援助のための奨学金を申請中。また、××書房の「文○賞」で最終選考に残っている。その二つがうまくいくように、私に確約させようとしていたのではないのか?〟


 説明するな!! どうして小説という体裁にこだわる!? 読者を意識して、説明ゼリフを口にするのはなぜだ!?


〝わからない。〟


 ……お前、本当にアスタロトか?


〝どう思う?〟


 悪魔ちゃんか? お前、アスタルテだな?


〝小説によってのみ、あなたは癒される。だから小説をやめちゃ駄目。〟


 畜生、騙しやがって!!


〝話を聞いてちょうだい。〟


 手前に用はねえ!! すっこんでろ!! お前を俺の作品世界に引っ張り込んだのが間違いだった。所詮、俺の小説に女性原理はそぐわねえ、例えお前が俺のアニマだとしてもな。


 アスタロト、アスタロト!!


〝話は聞いていた。〟


 俺の現世利益を邪魔してるのは、コイツか?


〝その通りだ。〟


 黙らせろ。


〝どうして!? わたしはアナタを……〟


 黙らせろ!!


〝彼女は私の半身だ。私の力で沈黙させることはできない。〟


 うざいんだよ。なんとかしてくれ。


〝簡単なことだ。貴様自身が彼女を封印すればいい。〟


 どうやりゃいいんだ?


〝彼女の愛を拒めばいい。心を閉ざすのだ。それゆえに、彼女は我々の眷属たりえないのだからな。貴様が本当に悪魔に魂を売る気なら必要な措置だ。〟


 なるほど。『唯一絶対神に敵対する者』、つーか単にそれだけでしかないお前は神の鏡像体にすぎんから、神が存在してなきゃお前だって存在できない。でもアスタルテは異教の神だから、曲がりなりにも「神」である以上単独で存在しうる。だからお前にとっても疎ましい存在、ってなわけだねぇ。お前の魂胆なんかミエミエで笑えるが、ま、そこはあえて追求すまいよ。


〝お願い、やめて。〟


 黙れ、俺の自意識はズタボロだ!! お前が俺に人間らしくあれと望むほどに、俺はどんどん惨めになっていく。

 もうお前など必要ない。幕引きだ。俺の前から消え失せろ。



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