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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
本編
11/182

1997年12月(1)

 よお、久しぶり。


〝アンタいい度胸ね。5ケ月ぶりぐらいかしら?〟


 あれ、怒ってないの?


〝怒ってないわけないでしょう!! ヒトほっ放らかして何してたのよ!?〟


 ヒトじゃないだろー? 悪魔だろー。


〝で、何の用!?〟


 いや、大学院の方が忙しくてさ。


〝アンタしばらく会わない間に、文章にヘンな癖つけてきたわね。〟


 そうかなあ。


〝ラブコメとか、ヘタレた文章の臭いがするわよ。いままで、いったい何書いてたのよ?〟 


 おかしい?


〝吐き気がするわ。〟


 いいだろう、本題に入るぞ。で、大学院のことだけどさ、


〝で?〟


 落ちこぼれちゃった。


〝それで?〟


 なんとかしてくれ。


〝あのねえ、学校に入れたのだって自分の力じゃないでしょう? 自分一人でなんとかなるとでも思ってたの?〟


 いや、そういうわけじゃないんだけど。で、なんとかしてくれんの?


〝前にも言ったと思うけど、契約の範囲外ね。〟


 その契約っての、変更できないの?


〝あまりナメた口きかないほうがいいわよ。悪魔と納得ずくで交わした契約を反故にするなんて、アンタ死ぬわよ。〟


 いいよ、お前じゃ話にならん。アスタロト、おーい。


〝何か都合のよいことを考えているようだが、我々がそれに応じるいわれはない。もっとも、そちらが何か条件を出せば考えんでもない。〟


 例えばどんな?


〝いいかね、現在の君との契約は非常にゆるやかなものだ。君は以前、精神の安寧のみを望んでいた。それは文章を通じてのみ実現されるもので、よって、我々が介入できる範囲は作中世界のみに狭く限定されている。だから君は小説に限らず、君のポテンシャルを越えたインスピレーションを発揮できるのだよ。しかしそれと引き替えに、現実世界での君の効用は低い水準に留め置かれる。モーツァルトやゲーテが我々と交わした契約はこれに相当する。ところで、君がここに至って要求しているのは、現実世界に我々が介入することだね?〟


 そうだ。


〝では、契約の更新にあたって、君は我々に新たな供物(くもつ)を差し出さねばならない。〟


 何を?


〝サクリファイス、犠牲だ。つまり、君の肉親や友人の魂を差し出してもらう。〟


 そいつはキビシいな。俺自身ならどうしてもいいが、他人に迷惑を掛けるのは気が進まん。


〝都合のいいことを言ってもらっては困るね。言っておくが、君はすでに契約更改の交渉に入っている。悪魔との取引は常に命掛けだということを忘れんようにな。もし君の我儘で契約が不成立に終わったなら、それは一方的に君の責任だ。その対価はきっちりと支払ってもらうよ。もっとも、君自身が代償を払うとは限らないがね。〟


 なんと言われようと、他人を犠牲にするのだけは断る。


〝では対価をいただくまでだ。たしか、君の母親は健在だったね?〟


 まあ、まてよ。前の契約より好ましい条件を出せば契約には応じるんだろ?


〝君ごとき、卑小な人間にこれ以上差し出すものがあるというのかね?〟


 先手を打ちやがったか。すこし待て、ちょっと考える。


 もし、もしだ。将来俺に子供が生まれたら、その子を差し出すといったらどうする?


〝魂をいただく。〟


 殺すのか?


〝殺すとすれば、出産前か新生児の段階だ。赤子の魂は、我々が力を発揮する際のよい触媒になるからな。他には、その子を我々と現実世界とのパイプ役として使うことも考えられる。〟


 オーメンのダミアンみたいなもんか?


〝そのような通俗的な理解しかできぬなら、そう考えてもよい。〟


 いいだろう、俺の子を差し出す。ただし、これは担保だ。


〝なにか面白いことを考えたな。〟


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