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悪魔ちゃん  作者: 神保 知己夫
理論編
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幽霊の存在可能性の証明(3)

 話をまとめよう。本来生物が生命活動を行うには、行動命令を出す遺伝子と「体(細胞)」の両方が必要。でもウイルスには遺伝子しかない。だから他者の細胞を乗っ取る。乗っ取りを繰り返しながら、他者の間を渡り歩く。ここで遺伝子を「精神」、「体(細胞)」を「肉体」だと考えれば、「肉体から独立した精神など存在しない」を前提としつつも、肉体が滅んだ後でも精神は存在し続けられる。「寄生」という形で。


 そんなウイルスみたいな「精神」を、前にオレはソフトウェア(スマホのアプリ)に例えたわけだけど、世間一般ではそれらをコンピュータ・ウイルスと呼ぶ。オレが考える幽霊のイメージは、自然界に存在するウイルスそのものよりは、むしろコンピュータ・ウイルスの方が近い。


 コンピュータ・ウイルスが持つのも、遺伝子と同じく行動命令を出すプログラムだけ。プログラム自体はアルファベットや数字の記号の集まりにすぎないので、動作するにはコンピュータ本体が必要になってくるわけだけど、コンピュータ・ウイルスは本体がないから他人のコンピュータを乗っ取る。名前が示す通り自然界のウイルスとかなり似た挙動をする。さらに、乗っ取った相手に誤動作を起こさせるところも似ている。自然界のウイルスは乗っ取った細胞を使って有害な毒素を作ったり免疫機能を刺激して健康な細胞を攻撃させたりする。感染前の細胞は決してそんな行動をしないので、これは誤動作だ。コンピュータ・ウイルスも大事なデータを破壊したり改ざんしたりするし、機密データを外部に流出させたりもする。これも歴然とした誤動作だ。(この辺になるとウイルス、ワーム、トロイの木馬、マルウェアを区別して語らないと怒る人いるけど、ここではざっくり全部「ウイルス」でいく。怒ったって知らん。)


 幽霊が精神的な寄生体だとすると、我々の肉体にも何らかの誤動作をさせるはずだ。でも一体どんな? それはやっぱり、オレらの肉体の機能を無断使用して、幻覚を見せたり幻聴を聞かせたりするんじゃないかね。例えば、誰もいないのに声が聞こえてきたり、誰もいないのに白い女の姿が見えたり、とか。


 幽霊を否定する説の系統としては、おおまかに「偽証説」と「幻覚説」があると思う。前者は、本当は何も見えていないのに、目立ちたいとか、愉快犯的な動機で「見た」と嘘をついているという説。うん……まあそういう愉快な人は実際におるよな。そっちはまあ、上手くやれば有名人になって成功するけど嘘がバレれば全てを失うっていうスリリングな人生を勝手に送ればよい。後者は、認知機能が何らかの誤動作を起こして、本当はいもしない人物やら光やらが(当人にとっては)実際に見えているという説。こっちの説も、これまではあまり深刻に考えられてこなかった。その理由は「何らかの誤動作」が偶発的に、たまたま起こるものだと考えられてきたから。「たまたま」なんだから、その時は確かに変な言動をするだろうけど、正気にさえ戻れば幻覚なんて見なくなるっていう。でもオレの考えてるような、精神的な寄生体が引き起こす誤動作なんだとすれば、そんな簡単な話じゃなくなってくる。


 その場合の幻覚は、自然界のウイルスが起こす誤動作と同じように、極めて戦略的に「仕組まれた」ものだってことだ。それらは決して、偶発的でも「たまたま」でもなく、むしろ継続的かつエスカレートする性質を持ちうる。幻覚を日常的に見せられ続け、その頻度もだんだん高くなっていけば、その先に待っているのはおそらく精神的な疾患だ。これは明らかな実害であり、自分の身に起きたらと考えると怖い。そう、幽霊っていうのはやっぱり怖いもんなんだよ。


 あ、そういえば、否定説の一派に「自然現象説」ってのもあるな。可燃性のガス(メタンとか)、リン、プラズマ(球電)を誤認したとか……とにかく、偽証でも幻覚でもなく、「幽霊」と見間違われるような自然現象が実際に存在しているという説だ。まあ、これも有りっちゃ有りかな。ただ、「自然現象説」と「幻覚説」のハイブリッドとして、「電磁波が人間の脳に作用して幻覚を見せる」って説が一時期流行ったことがある。いわく、トンネルや墓場で幽霊を見やすいのは岩盤や墓石が発する磁場のせい、心霊スポットは空中を飛ぶ電波が偶然にも交錯する場所だから等々。でもオレの個人的見解としては、これはどう考えても疑似科学として否定されるべきものだ。この説は、脳の生理活動が神経細胞を走る「電流」から成り立っているので、電磁誘導のように、電磁波によって影響を受けるはずだという発想がもとになっている。電磁誘導っていうのは、電球につながったコイルの中に磁石を出し入れするだけで電源がないのに明かりが点くってアレ。しかし、電磁誘導で生じる電流の実体って金属原子間を流れる自由電子だけど、神経細胞の「電流」の実体って、細胞内を物理的に移動するイオン(電荷を帯びた分子)だからね。分子に比べたら電子の質量なんて計算上0で扱われるくらい小さいから磁石の磁気程度でも動くんですよ。でも、分子はそれよりも天文学的にバカデカい質量を持ってるからね。移動させるにはやっぱり天文学的にバカデカいエネルギーが必要になるよ。そんなもの、今のところ物理学の大規模な実験施設の中にしか存在していません。ましてや、岩盤の磁気とか電波の交錯のエネルギーなんて極々微弱なものでしかないんだから……もしそんな極超低出力の電磁波で幽霊を見るっていうんなら、それよりも断然大きい出力の電子レンジとか、電車の線路の横を通る人はいつも幽霊見てないとおかしいでしょって話。普段「非科学的」なんて理由で幽霊を否定するような人ほど、この手の疑似科学に引っかかりやすい。って、まあ一時期のオレなんだけど……自戒を込めてここに記す。


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