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後半

 二人が目を覚ますと、(ほこり)っぽい部屋に敷かれた布団の上にいた。


「いてて……いったい、なにが。ああ、あなたは私と一緒にプラネタリウムに入ってきた方ですよね。わたしは三河(みかわ)ですけど、あなたのお名前は聞いていなかったような」

「わたしは境田(さかいだ)です。殴りかかってきたのは平良、館長ですか。怪しげな人には見えませんでしたが」

「ですがこうして……(三河PL:ここどこ?)」


 蛍光灯の明かりがついているおかげで、部屋には何があるのかよくわかる。展示用なのだろうか発泡スチロールの木星が転がっていたり、星見探偵団!と(めい)()たれたレクリエーション会のようなポスターが破れたまま置いてあったりされている。不要品の収納場所、といったところだろう。


「この倉庫のような場所に私たちを運んだのもきっと館長でしょう。なんでこんなことをしたのか、確認するために会う必要がありますね」


 周りを見渡した境田は、入口前にこれ見よがしに置かれたしおりを見つける。それは入口に置いてあった七夕宇宙劇場のしおりと同じものだった。

 そして三河はプラネタリウムの投影機を発見した。こんなところにあるのだから既に故障品とみるべきだろう。


「三河さん、このしおり。平良館長がやったかはともかく、明らかに拾わせようとする意図を感じさせますね」

「そうですね。何故こんなことをしたのか不明ですが……おそらく入口にあったものと同じでしょう」

「倉庫……二階部分に“倉庫”という部屋がありますね。ここにいるのでしょうか」

「とりあえずドアが開くか確認してみましょうか」


 三河がドアノブを押して扉を開けようとすると、ドアはすんなりと開いた。


「気をつけてください、この先がどうなっているかわかりませんから。プラネタリウム以外の施設に誘拐された可能性もありますから」

「そうですね。慎重になるべきタイミングでしょう」


 三河が扉の外を見る。蛍光灯の明かりと赤い絨毯(じゅうたん)。そして目の前にはプラネタリウム前に使用したトイレがあった。

 三河と境田は倉庫部屋から二階の通路部分に出た。


「見た感じ、ここは七夕宇宙劇場の二階ですね。トイレに行ったときにチラ見した程度ですが、比較しておかしなところはどこもなさそうです」


 二人は慎重に行動するべきだと直感していた。地図通りに行けば玄関まで行けるが、その前に周囲の部屋の探索を開始した。


 境田が腕時計を確認する。時刻は午前三時。

「ここに来たのが昼過ぎでしたから、大分眠っていたようですね」


 三河がレストランを見る。

 ガラス扉の前にはサンプル食品が陳列している。火星チキンライスや流れ星マカロンなど、宇宙にちなんだ商品が用意されていた。場所柄なのか子供向けのメニューが多そうだった。

 ガラス扉から中を見ると、レストランの電気が点いていた。


「……境田さん、わたしが昼にここを通りかかったとき、明かりはついていませんでした。営業もしていなかったように思います」

「え、それ本当ですか」

「(しおりを見る)営業時間は昼の1時から夜の6時ですか。いま明かりがついているのはおかしいですよね。とりあえず誰かいないか呼びかけてみましょう。(コンコン)、すいません誰かいますか!」


 ノックをした三河だったが、レストランからは誰の応答もなかった。

 先に進むことに躊躇(ためら)いがない気性の三河は、扉の鍵がかかっていないことを確認してから、ゆっくりとレストランへと入った。


 レストランは軽食付き喫茶店という(おもむき)で、店内にはいくつかのテーブルが並べられていた。ロココ調の白亜の調度品に対して場違いな、それこそ侵略ともいうべき頻度で宇宙由来の飾り物がされていた。


 ひとつのテーブルに火星チキンライスが二人分、用意されていた。


「あやしい」

「怪しいですね。中をかき混ぜてみてもいいですか」

「ええ、どうぞ。どうせ食べる気にはなれませんから」


 境田がスプーンでチキンライスをかきわける。目で見た限り、異様な食材が入っているわけではなさそうだった。


「湯気こそありませんが、まだ少し温かいみたいですね」

「誰かが作ったのでしょうか。しおりを人数分用意していたことといい、まるで客人でも扱う態度ですね。不思議です」

「本当に。わたしは奥のキッチンを見てきます」

「私はもう少しここを調べてみます」


 三河がキッチンへ向かい、境田は店内を見まわした。


 いくつかの机には埃がつまっているのが見て取れる。使っていない机が多いようだ。

 境田は火星チキンライスの皿の下や机の天板の裏側を一通り確認した。異常はなさそうだ。


「時計……腕時計と同じ時間を指していますね。殴られたときに壊されて、時計が止まっていたという可能性は消えましたか」


 キッチンの奥では三河がシンクや冷蔵庫を眺めていた。

 シンクには洗われて間もない皿や鍋があった。三河はステンレス製の小鍋に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。


 三河は目を見開いた。


「……これは、血か」


 小鍋の裏底からは血の匂いがした。よく見れば少しへこんでいる。三河は自分の後頭部に手をやる。動転していて注意しなかったことに後悔した。触れた後頭部はたんこぶになっていて、カサブタになっていない程度の怪我をしていた。


「平良館長がわたしを殴ったのはこれだな。証拠を隠すには驚くほど杜撰(ずさん)だが」


 キッチンの奥をみやると、白い不透明のビニール袋が口を縛られておいてあった。三河が中を確認すると、そこには小鍋が五,六個入っていた。小鍋はどれも底がかなりへこんでいる。


「三河さん、何かありましたか。店内には何もなさそうです」

「……境田さんは後頭部の傷、確認しましたか。凶器はシンクに並べられたその鍋だったんでしょう。頭が割れていないのは加減なのか幸運なのか」

「今気づきました。大きなたんこぶですね」

「へこんだ鍋がいくつもありました。おそらく、わたしたちみたいにさらわれた人が結構いたんでしょう」

「……実は、私の研究室に勤めている助教授がひとり行方不明になっていましてね。天文学者のはしくれみたいな人間ですから、どこの野山で天体観測をして消息を数日絶つくらいは不思議でもない男ですが、プラネタリウムで足取りが消えるのはおかしいと思って私はここへ来たんです」

「そうだったんですか。それを先に知っていれば私も部下たちと共に……いえ、過ぎたことでしょう。今はここから出る方法を考えなければいけませんね」

「そうですね。廊下の方へ戻りましょうか」


 廊下から出た二人は、二階のプラネタリウムホール前にやってきた。プラネタリウムの扉の前には赤いロープフェンスが敷かれており、立ち入って欲しくなさそうに見える。


 三河がドアノブを捻るも、鍵がかかっているみたいだ。


「少し離れていてください」

「どうするんですか三河さん」

「こう――するんです!」


 がたいのいい三河がその筋力を持って扉に当て身タックルをした! しかし防音や遮光の整った設備の重たい扉が開くことはなかった。


「……想像以上に堅いですね。鍵がないと開けるのは難しそうです」

「まあ、玄関に向かうだけなら階段を使えばいいですから。一階に向かいませんか」

「そうですね。あ、そのまえにトイレをもう一度だけ確認してきます」


 そう言って、三河だけ男子トイレへ入った。


 少し古臭いトイレだ。手入れがしっかりしているのか汚くはない。窓はなく小さな換気扇があるだけだった。


「確認のため、女子トイレにも入っておきますか。いえ、ほんと、探索のために」


 少し古臭いトイレだ。手入れがしっかりしているのか汚くはない。窓はなく小さな換気扇があるだけだった。生臭い匂いが蔓延(まんえん)している。


「………………戻りますか」


 境田のもとへ戻った三河は「なにもなさそうです。さ、玄関に向かいましょう」と呼びかけた。


 階段を降りた二人は、一階にやってきた。

 地図通りなら階段を降りて突き当たりを右に直進すれば玄関だ。

 二人が玄関を目に出来る距離までやってきたとき、視線にそれを入れた。

 扉の前に男が立っている。黒いセーターと黒いチノパンに黒縁眼鏡をかけた白髪の男は、二人がやってきたときと同じように笑みを浮かべている。


「平良さん! 平良さんですよね? いったいどうしてこんなことを」

「ああ、三河さんに、それに境田さん。起きましたか」

「……起きましたか? あなたが気絶させたんですよね?」

「手荒な真似をして申し訳ありません。しかしこれも必要なことなんです。あなたがたが宇宙に迎えられるためには、正しい(トキ)にいるべき場所にいなければ」

「新興宗教にでもはまっているんですか? 私たちを巻き込まないで欲しいのですが」

「宗教、ですか。わたしがスコーピオン平良という名前の写真家として活動していたことはご存じでしょうか」

「存じ上げませんが」

「星を見るために多くの土地に赴きました。もちろん、文化、生態系の違う人や動物も多く見ました。が、どこへ行ったところで神という存在を信じることはありませんでした。だというのに、故郷の片田舎に帰って」

「埼玉は田舎じゃない」

「埼玉は田舎じゃない」

「故郷の! 片田舎に! 帰ってきて、初めてその存在を拝むことになったのですから、巡り合わせとは奇妙なモノです」

「つまりあなたは神を見たと?」

「あなたがたも見たでしょう。神を」


 三河と境田は互いに顔を見合わせて首を横に振る。


「話になりませんね。境田さん、さっさとこんなところ出てしまいましょう」

「ええ、そうですね。警察には通報します。しかるべき処置を受けてください」

「覚悟の準備をしておいてください。いいですね?」


 と、付き合ってられないとばかりに二人が歩み出したそのとき――平良館長は持っていた弓をつがえて、三河に射ち始めた。


「げっ!」

「なんですって!」


 三河PL:おれ回避振ってないけど

 KP:え?! 推奨技能! ちょちょちょ、待って、死んじゃう死んじゃう。回避って初期値いくつだっけ? DEXの半分!

 三河PL:80の半分。勝ったなガハハ!


 三河は平良館長の放った弓を腕にもらう。左腕を赤く濡らすほど血が溢れる。

 とっさに左腕は玄関から見えない壁の後ろに隠れた。境田は手近な部屋、チャイルドルームの中に入った。


「大丈夫ですか三河さん」

「ええ、かすり傷です。にしても弓ですか。平良のところまでも時間がかかりそうです。とりあえず近づいてみます」

「わたしはチャイルドルームから投擲(とうてき)できそうなものを探してきます」


 境田がチャイルドルームで辞書や地球儀など投げられそうなモノを漁っている。三河は無手のまま玄関に立つ平良へと近づいた。


「宇宙を知り、宇宙とひとつになるのです!」


 平良館長が弓矢を放つ。回避できずに三河は腹部から多量の血を流す。


 境田PL:4ダメは草。これ気絶判定入る?

 KP:残体力の半分以上で気絶だから今回はまだ。でも三河は死にかけ

 三河PL:DEX80とはいったい。死んだらオルフェンズ流してくれよな!(ゲーム時の立ち絵が『鉄血のオルフェンズ』の昭弘・アルトランド)


 三河は受けたダメージの大きさから死を予感して通路から壁に戻った。


「ぐうぅ……。応急処置をします」

「わかりました。私はその間に地球儀をなげておきます!」


 境田が地球儀を平良館長に投げつける。地球儀はあらぬ方向に飛んでかち割れる。


「君たちは最後の晩餐を取るといい。そして宇宙のことを知るといい。チャイルドルームでも季節の展示でも。満足に知ったら、君たちを迎え入れてくれる神の御許にゆけばいい。プラネタリウムホールはそのために開いている」


 平良が弓矢を放つことはなかった。


「何がしたいのか、まったくわからない」

「ええ、まったく」


 三河が応急処置を行う。

 しかし失敗した。

 境田が地球儀を投げた。

 しかし失敗した。

 三河が応急処置を行う。

 しかし失敗した。

 境田が星座大辞典を投げた。

 しかし失敗した。


「……泥沼ですねぇ」

「……ええ、まったく。こうなれば」


 境田がチャイルドルームのドアに手をかける。そして、蝶番(ちょうつがい)を踵で蹴り落とした。


「このドアを盾にして平良館長のところまで行きましょう」

「なるほど。わたしはもう少し体力を回復させます」

「おねがいします」


 境田がドアを手に平良館長に向き直る。平良は――激高した。


「私の大事なプラネタリウムに何をするんだああああああ!!!!」


 平良館長のつがえた弓が境田に向かう。空を切る音はそれまでと威力の違いを見せつける。ダッ、と突き刺さった音は、しかし、ドアを超えることはなかった。


「有用みたいですね。少し俊敏性は落ちてしまいますが、これでようやく進めます」


 平良館長が続々と弓を放つ。

 しかし境田が一歩を進む。また一歩。


「応急処置を終えました」


 三河が境田の後ろに着く。


「お待たせしました。わたしのほうが筋力がありますから、ドアを持ちます」

「わかりました。では私が背中を押します」


 ダッ、ダッ、ダッ。

 また一歩、一歩、一歩。


「あっ」


 弓の威力にドアを持つ握力が耐えられず、三河がドアを落とした。しかし、その先には恐ろしいまでに強い眼光の平良が立っていた。


「組み付く!」


 三河PL:いまクリティカル出すんかーい


 三河が平良館長の腕をひねり弓をはたき落とす。そのまま体重を乗せて床へと組み伏せた。平良館長を無力化することに成功しました。


「くそっ……くそっ……ふんっ、貴様らは宇宙に溶けることもできない命ということだ。神に迎え入れられることもなく、地から跳ねることもできないスッポンのように精々(せいぜい)野垂れ死ねばいい」


 三河は平良館長を無視して玄関の扉を確認する。


「開きますね。外に出られますよ」

「そうですか。午前三時で真っ暗ですが、近くの民家で電話を貸してもらいましょう」


 玄関を出ようとする二人に、平良館長が待てと声をかける。


「君たちの電話機と財布を預かっている」


 境田PL:預かってるんじゃなくて奪ったんだろw

 三河PL:ちゃっかりすんなw


「これは事務室の鍵だ。机にあるから持って行けばいい。わたしはいらない」


 三河は土産屋からガムテープを持ち出し、平良館長をこれ以上なくぐるぐる巻きにした。


 事務室に向かい、二人は手渡されたキーカードを通す。ドアを開けた先の部屋は小さい間取りながら美術館のようだった。一面に星の写真が張られており、壁だけでは飽き足らず床や天井にいくつもの星雲が並んでいる。

 中央には機能的な事務机があり、銀色らしい机は大量の紙の資料に埋もれて地の色が判別できない。


 二人は事務机のほうに向かう。


 デスクには大量の資料がある。学術的な文献や施設の経営資料などがあるようだ。その一番上には茶色いカバーの手帳がある。

 机の三段引き出しの一番下は少しだけ開いている。境田が引き出しの取っ手を引くと、そこには破壊されたスマートフォンがうず高く積まれていた。およそ百にものぼる徹底的に破壊されたスマートフォンの一番上には半分に割れた探索者のスマホとハンマーと財布が置かれていた。


「スマートフォンの数からして、やはり他の人にも同じようなことをしていたみたいですね。前科何犯になるのか」

「後は警察に任せるしかないですね。さあ、帰りましょう」

「ええ、そうですね。帰りましょう」



 KP:…………あ、帰る?

 三河KP:え、帰るけど。玄関開いてるし

 境田KP:帰っちゃダメなの? あ、そういえば謎解きシナリオて言ってたよね。謎解きどこ?

 KP:いや、まあ。なんか区切りいいし(プレイ開始から三時間。丁度ご飯前)、帰る空気出してるし。いいと思う。

 三河KP:でも他に探索する場所ある?

 境田KP:あー、手帳があるんだっけ。まあ、でも、そういうの警察に渡せばいいし。

 KP:おうふ。じゃあエンディング描写いきます

 三河KP:あ、これで終わりなのか


 二人はガムテープで縛った平良館長を引き摺りながら近くの家に入りました。夜更け過ぎにやってきた突然の来訪者に家主は驚きましたが、事情を聞くとすぐさま警察に連絡を入れてくれました。


 ほどなくしてやってきた警察官が七夕宇宙劇場の前に到着し、捜査が開始されました。

 二人は警察車両に乗って警察署で調書を受ける。


 事件の続きを二人が知ることはないでしょう。

 境田研究室の文野助教授も、帰ってくることはありませんでした。


『カラフルアステリズム』 ビターエンド


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