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二十話


 かくして、俺は再び飛び立つことが決まった。セレーネに頼んで乗せて行ってもらう計画だ。前回は二月ごろに来たから、恐らく数か月後――まあ、夏までには来るだろう。なんだか何もかもセレーネ頼りで情けなくなってきたので、彼女の好きそうなものを用意することにした。

 セレーネへの贈り物は何が良いだろうか。セレーネの感覚は一般の淑女の物から大分外れている。順当な――例えば花とか手紙とか、詩とかランプとかドレスとかを貰って喜ぶとは思えなかった。

 良さそうなものといえば本だが、彼女の持っていない本というのが思いつかなかった。ここはやはり、同性に聞くのが良いかもしれない。


「シアンは何がいいと思う?」


「ラクトル子爵はどういう人なの? 趣味は?」


「転移魔法」


「へ?」


「転移魔法が趣味だ。転移以外の魔法も好きだけど」


 シアンは理解できないものに触れた時の表情を浮かべていた。お手上げらしい。かといって学者連中に聞くのも躊躇われる。悩んでいると、シアンが呆れたような声を出した。


「無難なのでいいでしょ。ラクトル子爵はジャックに好意を持ってるんでしょ?」


「まぁ、多分、そうだと信じたい」


「好きでもない男を抱き枕にする人なんていないわよ」


「でもセレーネだからな」


「……ま、まぁ。とにかくね、憎からず思う相手からのプレゼントなら、何貰っても嬉しいと思うわよ」


 一理ある。とすると、やはり土の上級魔法を用いての銅細工だろうか。

 ただ、土の上級と言っても幅が広く、俺は下手な方だ。鉄は延べ棒に出来ても、上手く加工できる自信がない。やるとしたら火魔法で溶かして、液体化した金属を土魔法と水魔法で操作――いや無理だ。諦めよう。


 真鍮や青銅などの合金も作れないことはないが、やはり純銅細工の方が弄りやすい。

 材料が決まったところで、何を作るろうか。シアンに尋ねたところ、彼女は呆れて自室に戻ってしまった。その日は政務をほっぽり出して、ひたすら案を考え続けた。


 結局、書見台を作ることにした。もう持っている気もするが、他に案がなかった。

 素材を用意するため、さっそく土を一握りほど持ってきた。


「土魔法、上級。変成」


 掌に載せていた土の色が徐々に変わり、光沢を帯びてくる。三十分ほどひたすら魔法をかけ続けて、ようやく中まで銅になった。ただ、これだけでは足りないので、追加でもう一度変成を始める。壊れたら嫌なので、あまり薄くするつもりはない。もう一度。三度目の変成の途中で魔力切れを起こし、初日は素材の作成すら終わらなかった。


 結局のところ、土魔法とは土や鉱物を操作して形を変えるのが目的で、性質を変えるのは専門外なのだ。本来の挙動とは別のことをしているから、莫大な量の魔力が必要になる。


 この国で贋金が流行らないのはそれが原因だ。銅貨を白金貨にできるのは魔王くらいだ。

 それに、偽装は土魔法を使えば一発で判別できる。操作の前段階の抵抗が違うからだ。これは貨幣の高価な順に応じている。土や石が操作しやすく、白金は操作が難しい。銅も割合難しい方である。


 魔力切れのため、俺はひどく苦しむことになった。操作に失敗してもやり直せるとはいえ、失った魔力は戻らない。

 その上、一日の魔力をすべて銅細工には投じられない事情があった。

 

 今回セレーネの世話になるのは、職人を連れてくるためである。

 だが、仮に連れてきたとしても、今は居住区も作業場もない。倉庫も恐らく足りない。だから拡張しなくてはならない。明解な論法によって導かれた必要性によって、俺は工事に駆り出されていた。三階の拡張と地下四階の倉庫はどちらも非常に大規模で、どう考えても一人でやるものではないが、やれと言われたらやるしかなかった。結局工事は終わらなかった。


 かろうじて書見台が完成したのは、七月の下旬ごろだった。


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