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「夕貴!」


ドアを開けると、夕貴がベッドに寝ていた。側には真里と直樹がいた。


「夕貴?」


声を掛けて近づく。

薄らと、夕貴の目が開いた。


「ああ、帰ったのか」

「うん。大丈夫か? その、貧血だってトールが」

「ああ、いろいろとあって、鉄剤を飲むのをサボったせいだな」

「やっぱり、」


俺を見て、にっこりと笑う


「やっと、わかったか? 相変わらず鈍いなお前は」

「なんだよ! 俺が鈍いってわかってるなら、さっさと自分から言えよ!」

「そうはいかなかったんだ。周りが騒ぎ始めたからな」

「カプセルのことか?」

「あれがあんなに複製されていたことを知らなかったんだ。参ったよ。じっさいあれには」


その顔には苦渋の表情。俺がもっと早くに気づいてあげていたら、静神的なことで支えてやれたかもしれない。顔や形でしか判断できなかった自分が情けない。


「ねえ。了以。おれ、さっぱり会話に着いていけないんだけど。そもそも、トールが捕まったのになんで了以は捕まらなかったの?」


ほうけた調子で、直樹が聞いてきた。

それには夕貴が答えた。


「俺とトールとで昨夜から、予防線のために了以のあらゆる情報を全てのエリアから削除したからだ。直樹のファイルはトールが昨夜のうちに手を加えておいた」

「じゃあ、網羅は操作されたファイルをもって、長官の所にいったの?」

「そういうことだ。トールが捕まっても別に支障はない。彼は喜多博士ではないからな。だが、カプセルからの生還者である了以が調べられたらどんな手も使えない」

「俺が捕まったら、お前も来てしまうもんな。本物が」

「ほんもの?」

「そうだよ、直樹。夕貴は喜多なんだ」

「だって、トールだろ。喜多博士は」

「あれはアンドロイドだ」

「そんな、・・・信じられない」


直樹は目を丸くして、夕貴を見た。


「全部はなしてくれるか、喜多」

「そうだな、お前には知る権利がある」

「2017年5月の第3日曜日。俺は五月山でお前と半年ぶりに会った。

驚いたよ。心臓の疾患で後半年といわれたお前は、痩せ細って憔悴しきっいてた。側にいてやれなかったのをあの時ほど悔やんだことはなかった。絶対死なせるものかと思った。その日のうちに、お前をアメリカに連れていった。心臓に負担を掛けたくなかったから眠らせたままで」

「五月山からの記憶がないのは眠ってしまったからか?」

「ああ、そうだ」

「兄さんにはなんて?」

「義兄さんには、アメリカで手術が出来そうだとうそを言った。ちょうど、姉さんの妊娠がわかって、義兄さんがアメリカに来たくても離れられなかった。それが幸いしたよ。その後は、ごめん。俺も半年後にはカプセルに入ったから、知らない。姉さんと幸せでいてくれたと思うしかない。あの家に残っていたアルバムを見ると、3人の子供と一緒に暮らしていたようだね」

「そうか、よかった。」

「―本当は、この時代ではなく2020年にカプセルから出す予定だった。俺の研究の臓器培養は、もう後一歩の所で完成する予定だったから。そうなれば、お前の心臓から細胞を取り出して、正常な心臓を作れる。そうすれば、お前は生きることができるはずだった。でも、」

「でも?」

「培養には重大な欠点が見つかった。培養された心臓にはかならず、一個だけ遺伝子情報が伝わらないんだ。それでは、またいつか同じような病気になる。何度も実験したがその原因は解明できなかった。

使っていた培養機は限界だったんだ。

俺は、未来をシュミレーションして、そう遠くない未来に、俺の研究が完成できる環境があることを確信した。そして、カプセルをタイムマシン代わりに使った。俺のは、了以の目覚めより2年早く出られるように、タイマーを入れておいた。了以のは手動でしか開けられない様にしておいた。俺が何かのアクシデントで目覚められない時にお前だけ目覚めて、孤独のまま死なせたくなかった。幸い、俺は先に目覚めることが出来、お前も見つけられた」

「どこで? 目覚めた時、どこにいた? 海中の中でってのはうそなんだろ?」

「うん。お前をここに足止めする為にとっさについたうそだ。俺達がいたのはD4の地下だ。

信じ難いことだったが、俺やお前のほかに数えられないくらいのカプセルが横たわっていた。俺は人体を冷却する方法など全ての研究を暗号化していたし、カプセルに入る前に全ての資料を焼き払っていた。でも、目覚めてみて、俺の研究があの時代にすでに盗まれていたことが分かった。カプセルに記された年号は俺達とそんなに変わらなかったからな」

「そうだよ。博士の研究は半端な形で模造されたんだ。だって、暗号の解読は100%じゃなかったんだ。カプセルの中に入ったはいいけど、出る方法が分からないままなんだ」

「うん、そうだな。つくった順に解除コードが自然に出来る仕組みだ。出来た時に最後にコンピューター上にあらわれる記号が大事なんだ」

「じゃあ、もう、開けられないのか? あの地下のカプセルは」

「開けられないんじゃなくて、開けるべきじゃないんだよ、了以。眠らせたままがいい。目覚めれば、その瞬間から何かを背負うことになる」

「それは、俺の場合はアレルギーだったんだな」

「そうだ。でも、それは軽い症状だ。お前は幸運だった」

「じゃあ、―お前は?」

「俺は、科学者としての能力だ」

「え?」

「すぐにはあらわれなかったが、俺の科学者としての知識は、だんだんと無くなっていった。それが分かるとすぐに、この時代のアンドロイドを作った。そして、俺の脳のDNAをコンピューター言語化してそれのブレインとしたんだ」

「それが、トール?」

「ああ、そうだ。顔は今日のような日がいつか来るような気がしていたからね、自分の顔をベースにして造った。それから、医療用アンドロイドを使って、了以の心臓の手術をして、正常に動く事を確認してからお前を目覚めさせた。俺が目覚めてからすでに3年が立っていた」

「その時、俺は、お前のことを忘れていたんだな」

「そう、お前はすべてのの記憶を無くしていた。でも、それは俺にとっては都合が良かったんだ。直樹が俺のことを調べていて、いつ喜多という名前が世間に露見するか、瀬戸際にあったからね。俺はお前にすべての記憶が無いことをいいことに、自分の顔を変えた」

「そんなに簡単に変えるなよ!」

「別に、自分の顔に執着があったわけじゃないし、直樹の言うように俺が捕まってあのカプセルを開けさせられることの方が避けるべき最優先事項だった。そうだろ、直樹」

「うん。俺があんたでも、そうしたと思う」

「記憶を無くしたお前と、顔を変えた俺の生活は順調に動いた。俺達は、同じ仕事をすることで信頼しあえた。俺は、この生活がずっと続くことを願ったよ」

「でも、・・・俺はまた、忘れたんだ」

「ああ、何かの刺激でお前の記憶の回路が開いたんだ。三日前の夜、真里の目の前で、頭を抱えながら倒れたんだ。そして、次の日の朝、お前の記憶は21世紀に戻った。夕貴という人間を忘れて、喜多を思い出した。でも、お前の思い出の中の喜多はもういない。喜多として、お前の許しなく、勝手なことをしたことに謝罪をしたかった。でも、昔の喜多を捜し求めるお前に、俺がそうだとは、すぐには言えなかったよ」


夕貴は淡々とそこまで話してきた。

謝罪するのは俺の方だ。俺はいっぱい傷つけてきたんだから。


「喜多。一人で、何もかもさせて悪かった。お前はどんな顔をしていても、俺より、少し年を取っていたとしても、俺の親友で大事な兄弟であることに変わりはないよ。すぐに気づいてやれなくてごめん。おれ、きっとこの2年間も思い出すから、待っていてくれ」

「いや、無理して思い出すことはないよ。これから、また作っていけばいいさ。そうだろ」


「おーい、みんないるかい?」


廊下からトールの声がした。

いそいで廊下に出て出迎えた。


「トール、おかえり! でも、どうしてこんなに早く?」

「だって、俺は喜多博士じゃないだろ? 喜多博士は生身の人間だからね。服を脱いで、胸にある回路を見せたら連中はぐうの音も出なかったよ」

「おかげで、俺は首にされたぞ!」

「網羅!」


トールの後ろで、壁にもたれて網羅が立っていた。


「仕事を無くして、かわいそうだったから拾ってきたんだ」


にっこりと微笑んで、まるで、捨てられた犬を拾ってきたかのような言い方。

でも、拾われた方もんざらではない顔だ。

二人で夕貴の部屋に入っていく。

ほどなくして、直樹が部屋から出てきた。


「あきれるよな、あの二人」

「どうした?」


直樹は納得の行かない顔である。


「だってさ、網羅の裏切りで俺達は右往左往したんだ。俺だって、大事な資料が入ったデータを持っていかれちゃうしさ。それなのに、あっちを首になったからって、平気な顔してじゃあ、こっちで宜しくってのはないだろう? それなのに、トールも博士もすんなり、まあ、これからも宜しく。ってことになってるんだぞ。俺、わかんないよ」

「うーん、網羅もこうなってみたら、夕貴たちの駒の一つみたいだろ。夕貴たちは、少しばかり責任を感じているのさ。そう、かりかりするなよ。それより、お前はどうするんだ? もう、D4には戻れないだろ?」

「うん、まあね。でも、それより俺は謝りに行かなきゃいけないところがあるから」

「両親の所か。そこは安全なのか?」

「うん。昨夜のうちにちゃんと、安全なところに移動させといたから」

「そうか、がんばれよ。」

「うん。またね。了以」


またね?

また、ここに来るってことか?


「了以」


夕貴が廊下まで出て来た。


「直樹は帰ったのか?」

「ああ、親に直海としてうそをついていたことを謝りに行くんだってさ」

「そうか、彼は、親はそんなにばかじゃないということを知るだろうな」

「え?」

「カムツーに来ていたあの子の母親は、トールに言ったそうだ。いつか、あの子がすべてを打ち明けてくれる日を待っているって。本当の親子になりたいとね」

「そうか、そうだよな。わかるよな。親だもんな」


ん、よかったな、直樹。


「これからどうする?」


やっぱり、そうきたか。お前がそう聞くだろうって事はわかってたよ。


「お前は自由だ。心臓も直っている。カムツーで働く義務はないし、何かしたいことがあるんならした方がいい」

「うん」


俺は、夕貴をじっと見た。


「了以?」

「とりあえず、早く仕事をしたい、かな。せっかく、走り回れる体があるだろう。これを利用できるってんだから最高だよ。俺たちがいるんだから、カムツーはこれからも安泰だよな」

「しょってるな。お前」


 夕貴はにっこりと微笑んだ。


「なあ、俺。お前のこと夕貴って呼ぶぞ」

「ああ。俺は、もう喜多じゃない」

「そうじゃないだろ。喜多もお前。夕貴は喜多で、喜多は夕貴だ。一つなんだよお前らは。まあ、喜多よりは感情が自由かもな。俺、喜多に殴られたことはないけど、お前には殴られたしな」

「俺も、昔の、まだ天才だって騒がれる前の俺が、そのまま成長していたら夕貴になっていたんだと思う」

「お前が騒がれたのって、小学生だろ。という事は園児時代? お前の幼稚園時代って想像できない」

「想像しなくても、見たことあるだろ。」

「そんなことある訳ないだろ。兄貴が結婚したのが俺達が14歳の時なんだから」

「俺は知ってるぞ。お前の幼少時代を」

「なんで?」

「俺にむかって、『俺の顔に何かついてるのか!』って向かってきただろう? 俺は只、足が速いなって、見てただけだったんだが」

「!!」


思い出した・・・。

運動会で、一等章を総なめにした俺を、じっといつまでも見ていた不敵な顔。

後にも先にも、ちびのときに思いっきけんかしたのはそのときだけ。

でも、そいつは、その後、園にはこなかった。


「ええっ! お前があの時のかわいくないガキ?」

 

夕貴の目がぴくりと動いた。俺はまた、余計なことを。


「そうか、そう思っていたわけか」

「だって、お前、あん時『目と鼻と口がついてるだけだ』って云っただろ?」

「正解だろう?」

「そういう問題じゃない。それはへ理屈っていうんだ」

「そうか? そう言えば、あの時のお前は勝ち逃げだったな。今、リターンマッチするか?」

「冗談! なんでいまさら」


伸びてくる手を払って、逃げる。

なにが、俺は夕貴だよ。このしつこさは、喜多そのものだよ!


「あ~あ、謝ろうと思ったのに、いないじゃないの」

「美加? 何かやったのかい?」

「あ、トール。3日前に夕貴が別件で出ていたから、あたしが了以と組んでD4で仕事したでしょ。その時に、間違って了以にスタンガンの電磁波を流しちゃったのよ。微弱だったから了以は気付かなかったけど。あれさ、昨日見たら壊れてたから、なんか後遺症がなかったと思って」

「ふーん。三日前ねえ。」

「なるほど、それが原因か」

「あら、網羅。まだ帰ってなかったの?」

「だから、俺はどこにも帰るところがないんだよ。それより、そのスタンガンは?」

「ええ、ここにあるわよ」

「美加、網羅に見せちゃだめだよ。また、了以に使おうって思ってるからね」

「どういうこと?」

「了以にショックを与えて、また記憶が抜けたところで隙を突こうと思ってるんだよ」

「まあだ、諦めてないの? あんたも、諦めの悪い男よね」

「夕貴ほどじゃないけどね」

「それは、言えてるわね」

「ああ、あれは、世界一諦めの悪い男だな」 


この3人の会話は後日、真理が会話を拾っていたことで、また、更なる問題を引き起こすことになるんだけど、今はまだ、霞がかった真実がはっきりと明けた喜びを俺はゆっくりと噛み締めていた。


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