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「了以?」

「俺が先に入る。お前はここで待っていろ。安全だと確認してから入れ」

「なんだよ! 一緒に行くよ。危ないだろ」

「二人一緒だったら、もっと危ない。俺が、中を見てくるから、ここで身を隠してろ。

10分たっても、俺が戻らなかったら逃げろ。いいな」

「大丈夫だよ。だって、誰も見張ってないだろ?」

「念のためだ」


ぽんぽんっと、直樹の頭にかるくふれて中に入った。

マンションの裏口のドアに鍵はなかった。。

扉を開けて、中に入る。家の入り口が見える。昨夜は暗くて良く分からなかったが、驚いたことに庭の一角にブランコがあった。


「これは?」


俺には見覚えのないものだった。

白くて、小さい子供が使う、かわいらしいブランコ。

近づいて、そっと触れてみた。


「子供が使うものがなんでここに?」


当時、この家にいたのは、兄さんと義姉さん。そして、俺。

喜多はアメリカに住んでいた。


「それは、君がいなくなってから、お姉さんが買ったものだから、見覚えがないんだね」

「だれだ!」

「困った子だね。夕貴といてくれなくちゃ、困るよ」

「トール」

「やあ、了以」

「やあじゃないだろ! こんな所にいていいのか? あんた、追いかけられているんだろ」

「いや、僕は誰にも捕まえられるような事はしてないけどね」

「だって、お前は」


喜多だろう? という言葉が出てこない。

聞きたい、聞いてすっきりしたい。

でも、喜多の体に何が起きたのかを考えると、聞けない。


「了以。帰った方がいいよ。夕貴が心配してる。それに、もうすぐここに網羅が来るよ。君は捕まっちゃうよ」

「いいよ、トール一人を行かせるわけにはいかない。俺も一緒に捕まる」


トールは、肩を竦めてふーっと息を吐いた。


「あのね、了以。君は僕といて、居心地がいいかい?」

「え? 居心地って」

「君と喜多博士は義理の兄弟だが本当の兄弟のようにお互いを思っていたね。博士が君をカプセルで冷凍保存したのは、あの時代では君は臓器移植でしか助かる道がなかったからだ。それだって、すぐに提供者があらわれるわけじゃない。臓器の一部を切り取って、完全な臓器を培養させ、持ち主の病気の臓器と入れ替えるという博士の研究は、まだ完成されてなかった。

しかし、博士のもう一つの人体保存冷却という研究は安全性を検査中で、それは完成も同然だった。博士が君をその中に入れることを決心するのは並々ならない思いがあったと思う。それを、僕から感じるのかい、君は?」


そういわれると、トールには俺に対するそんな感情があるとは思えない。

姿や、顔は似ているが、まるっきり他人だ。


「じゃあ、お前は、」

「夕貴がいっただろ? トールは喜多博士であってそうじゃないって」

「ああ」

「僕の知能や、科学者としての能力は喜多博士と同じだよ。いや、僕の方が上かな。博士の生まれた時代より、さらに科学が発達した時代に生まれたんだからね」

「じゃあ、トールは、正真正銘この時代の人間なんだな」

「ふふ、半分だけあってる」

「?」

「僕はね了以、喜多博士のDNAを元に生まれたんだ」

「クローン人間・・・」

「いいや。了以がいた時代から、クローン人間を制止する考えがあったろう? この時代でも変わらないよ」

「でも、今」


喜多のDNAと同じだって。


「博士がつくったアンドロイドなんだよ。僕は」

「! 喜多がトールを作ったのか?」

「そう、自分の遺伝子情報を僕の中枢回路に入れ込んだ。そして、顔を博士に似せた」


そんなことが喜多に出来るのか?

じゃあ、少なくても、トールを作る時は喜多はいたんだ。


「喜多の居場所を知っているのか?」

「了以の知ってる博士はもう、いないよ」

「俺の、俺の知ってる喜多じゃなくてもいいんだ。喜多なら、喜多が生きているんなら、それでいい」

「それなら、了以はもう、博士に会ってるだろう?」

「え?」


俺が、喜多に会ってる?


「君が今、一番側にいて、安心できる人って誰?」


俺が、側にいて安心できる人?

俺の頭には夕貴の顔が浮かんだ。


ここに来る時に、言われた言葉。


それから、最初に俺に夕貴の記憶がないとわかって、取り乱したようになった夕貴。


「いま、誰を思い出していたんだい?」


トールが俺の顔を覗き込んだ。その時!


「動くな! カムツーのトールだな!」


見ると、白衣を着た青年をぞろぞろと引き連れた、中年のおっさんが手に銃のようなものを持って、立っていた。


「科学庁長官が私に何のご用ですか?」

「お前を庁に連行する。私は君を連行する権限を政府にもらっている。大人しく、従ってもらおう」

「はい、はい。仰せのままにしますよ」


躊躇することなく、自分からその男に歩み寄るトール。

俺はどうしようもなく、ただ、立っていた。


「トール」

「君は家に帰りなさい」

「こっちは誰だ」


男が俺を見る。


「ああ、迷子ですよ。D4に観光に来て、知らないところに入ってきたらしいですね。」

「そうか、他ドームの住民かもしれないな。おい、だれか、丁重に観光地域に御連れしろ」


俺は、半ば強制的に連れ出された。

トールは、俺が連れ出される時ににっこりと微笑んで、手を振った。

出る時にマンションの入り口付近を伺ったが、直樹の姿はなかった。

うまく、逃げていてくれたらいいが。


「ここが、観光者が自由に行動できるエリアです。あちらに案内所があります。マップがないようでしたら、そこでもらってから行動して下さい」

「わかりました」


一体どうなってるいのか。

直樹の喜多に関する情報には俺のことは入ってなかったのか?

どうして、俺も一緒に捕まらなかったんだ。

連れてこられたところは、来たこともない公園。

池や、子供の遊び場がある。

50mほど行った所に案内所らしき建物。

とりあえず、そこへ向かって歩いた。


「すいません。マップをもらえますか?」

「やっと来たわね。もう、待ちくたびれたわよ」


案内所の建物の中にいたのは、美加だった。


「どうして、ここに?」

「バイトよ、バイト。今日一日ここでバイトさせられてるのよ」

「させられてる?」

「まったく、かってに行動するのは止めてよね。おかげで、せっかくの休日なのに緊急出勤よ」

「えっと、俺のせい?」

「当たり前でしょ! さあ、さっさとここを出るのよ」

「でも俺、直樹とはぐれたんだ。探さないと」

「直樹君なら、先に夕貴の所に行かせたわ。さあ、あたし達も出ましょう。網羅に見つかったら大変よ」

「網羅が俺を探しているの?」

「トールと夕貴があんたの情報をすべて処分したのよ。だからトールが捕まっても、あんたは逃げられたでしょ。政府の上の人にはばれてなくても、網羅は仲間だったんだからあんたをよく知ってるわ。どうやっても探し出して引き出すつもりよ。その後、あんたを頂く約束をしてるらしいからね」

「やめろ! 鳥肌立つようなことを言うのは」

「あれえ? もう、なんかされた?」

「う!」

「ちぇっ! 見たかったな」

「冗談、で、ここは簡単に出られるのか?」

「ぬかりはないわよ」


美加についていって、見覚えのある東門に来た。

俺達は、なんの疑いもなく出られた。


「だれか、見張りがいるかと思った」

「もうトールが捕まったから必要ないのよ」

「トールは大丈夫かな」

「心配要らないわ。すぐにでも帰ってこられるわよ。さあ、乗って」


美加のバイクの後ろにのって、D4から飛び立った。


「夕貴の家に行くのか?」

「行くんじゃなくて、帰るんでしょ」

「う・・・ん」

「夕貴が心配してるわよ。元々貧血がすごいんだけど、あんたと直樹が行ってしまってから、真っ青になって倒れたって、真理が言ってた。あんまり心配かけるんじゃないわよ」


夕貴が貧血ぎみ?

喜多も、そうだった。

もともとが少食の上に鉄分の補給がうまくいかないからって、鉄材をいつも飲んでた。


『側にいると一番安心できる人ってだれ?』


「トールの言葉」

「え? なに?」

「いや、何でもない」


ある、一つの結論。

これで、間違いない。

喜多は俺の知ってる喜多じゃない。でも。


「さあ、着いたわよ」


静かに、地下車庫に入った。

誰もいない。

俺は、2階の夕貴の部屋に駆け上がった。早く、確かめなくては。


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