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見なければ良かった・・・。

 

筋肉隆隆の男が、うつ伏せになって、パンツ一丁で寝そべっていた。

これは見なかったことにしよう。

ケットを元に戻し、そーっとベッドから出ようと右足を一歩を踏み出した時、左足の足首をぐっと掴まれた。


「うわああっ!」


ひき蛙のような格好でベッド下に落ちた。

左足だけは捕まれたままである。


「おはようも言わずに行くのか? 冷たいなぁ」


左足の甲に生暖かくざらついたものがあたった。

見たくないが、顔だけひねって、足を見た。

やっぱり、俺の足を舐めている。


「俺はおいしくないぞ!」

「そうか、良い味してるけどな。朝飯の代わりに、食べてもいいか?」

「ぬかせ! いい加減に足をはなせ」

「昨日は、モテモテだったようだな」

「え?」

「お嬢ちゃんとのデートはよかったか?」

「っ最高だったよ!」


よせば良いのに、いい様にされている屈辱感が挑発するようなことを言ってしまう。


「そういう時は、俺も誘えよ」

「あんたは、直海の趣味じゃなかったらしいな」

「そうか、昨日の女はやっぱり直海だったんだな」


にやりと笑って、網羅が足を離す。


「あんた、それを知りたくて?」

「俺は、もうD4に帰らなくちゃな。また、次の仕事で会おうぜ了以。それまでには俺のことぐらいは思い出して置けよ」

「網羅!」


何を考えているか不安になって、呼び止めたら、

同時に机上の画面に真理が出た。


「了以、おはよう。あら、網羅もいたのね。部屋にいないから、もう帰ったと思っていたのよ。まあ、いいわ。朝食の用意が出来たわよ。二人とも早く顔を洗って降りていらっしゃい」

「夕貴は?」

「もう、降りて来ているわよ」


真理が、少し画面からずれると、ダイニングテーブルに座って、本を読んでいる夕貴の姿が見えた。


「ああ、レディ。俺はもう帰るよ。世話になったな。」

「そう、じゃあ、朝食はテイクアウトね。地下で待っていて」

「サンキュー」


画面がアウトする。

網羅が、じゃあなといって出ていった。

俺は、見事に手形が着いている足首をさすりながら、網羅がなぜ昨日の女が直海だということを確認したのかが、気になって仕方なかった。

夕貴は、網羅は俺に気があるんだといった。

しかし、網羅の行動はいつも何かが裏にある気がする。

昨夜の直海のように。

彼女は俺を騙した。

直海は直樹だった。

直海は直樹が作り出したもう一人の自分。

直樹として、俺を監禁した後、直海になって勇気の前に再び現われ俺を助けた。

俺は何で、直樹と直海が同一人物だと気づかなかったんだろう。


「直樹は、おそらく、ホルモン調整をしていたんだろう」


振り向くと、開いたままのドアをノックする仕草をした夕貴が立っていた。


「おはよう」

「おはよう。良く眠れたか」

「ああ、目覚めは悪かったけどね。夕貴、ホルモンのバランスって簡単に変えられるのか」

「さあ俺は医者じゃないからな。だが、トールが言うには錠剤一個で、半日ぐらいは見た目が変われるということだ。直樹はそれを使っていたんだろう」

「それは、いつ聞いた?」

「お前が、昨日カムツーで直海と話している時。俺とトールは直海の輪郭をデータにとって、直樹の輪郭のデータと比較した。二つは、一分の狂いもなく一致した。双子といえども、100%の一致は考えられない。つまり、二人は同一人物と考えるしかない」

「何で、それを俺にいわなかった?」

「直樹の目的を知る必要があったからだ。二人が同一人物だと分かっていたら、お前は昨夜、直海の誘いを受けなかっただろ。」

「それは、そうだけど」


なんか、符に落ちない。おとりとして使われただけなんだが。


「さあ、もういいだろう。話の続きがしたいんなら、まず朝食を食べてからだ。直ぐに降りてこないから、真里の機嫌が悪い。」

「わかった。じゃあ降りる」

「ん? お前、昨日の服のままじゃないか、着替えろ。」

「ああ、着替える気がしない」

「どうして? 疲れているからか」

「いや、なんか・・・」


いろいろと複雑で、喜多の服を見たくなかったからだ。


「俺のを貸してやる。待ってろ」


すぐに、白いTシャツとこげ茶のチノパンをもってきてくれた。

急いで着替えて、下に降りた。


真里の機嫌は俺が豪快に食べまくり、料理を誉めちぎった後ようやく直った。

食後にはコーヒーではなく、日本茶が出た。


「お茶にも、カフェインがあるんじゃなかった?」

「これはカフェインレス茶よ」

「覚えてないでしょうけど、あなたが夜眠れなくなるっていうから、わざわざD8まで買いに行っているのよ」

「そのD8にしかないの?」

「D8はこの世界の冷蔵庫だ。食べられるものはすべてここで生産される。」

「D8以外では、作れないのか?」

「作れないんじゃない。作る必要がないんだ」

「そんなに大きいドームなのか」

「いや、ドームの大きさはすべて同じだ」

「それじゃ、D4と同じ広さの土地で作るのか、ドームはいくつある?」

「人が住んでいるドームは全部で100個だ」

「それじゃ、D8だけの生産では間に合わないだろう?。」

「十分だ。D8は完全ハウス栽培だ。人工太陽で各ハウスごとに日照時間を制御してある。通常の生育時間の十倍の速さで食物が出来るんだ。つまり、収穫が毎日行われるという具合だ」

「なんか、すべてが機械じみていて味気ないな。じゃあ、このりんごもハウス栽培か。俺、そのハウス栽培してるところをみてみたいな」

「あら、似た者同士だから興味があるのね」

「似た者同士? どういう意味?」

「だって、了以もハウス生まれでしょう。しかも、頑丈なかぎ付き」

「真里!」


夕貴の声が遠い。

俺の瞳孔は大きく開いたままだろう。

ハウス生まれ。ハウスをカプセルだとすると?

俺は喜多の用意したカプセルに入っていた。

見つけたのは夕貴。

かぎ付きの冷却装置。鍵は開いてなかった。

開いてない状態だったんだ。開けることが出来るのは喜多だけ。

喜多が開けた。

俺は、喜多の手で目覚めた?


「了以! 真っ青だぞお前。そこのソファーに横になれ」

「いや、いい。おれ、ちょっと、」


心が急いて仕方ない。 

早く行かなくては、行ってしまう。

行ってしまう。

喜多が、行ってしまう。

地下に転げるような勢いで下り、MOに飛び乗った。

メットをかぶってMOが作動するのを待つ。


『・・・』


インカムからはなにも聞こえない。

MOが動く様子もない。


「どうしたんだ! 動けよ! 何とか言ってくれMO!」


俺にはこれを、自由に動かしていた時の記憶がない。

なんてもどかしい!

思い出せ!

思い出せ!

自分の頭をバンバン叩く。


「よせ! 何をやっているんだ」


夕貴に頭を叩いていた手を取られる。


「思い出そうとしてるんだよ、こいつの作動の仕方を! だから、手を放してくれ」

「むだだ。たとえ思い出せたとしても、MOは動かない」

「なんで!お前がやったのか!」

「了以。・・・いや、俺には無理だ。MOは元々はトールが作ったトール専用のものだ。解除コードはトールしか知らない」

「トールがここに来たのか?」

「ここには来てない。昨日、カムツーの地下に入れた時にでも、解除コードをタイマー式で入れたんだろう」


唇をかんだ。鉄の味がした。


「了以」


呼びかける声はやさいしい。多分今までの中で一番。


「お前は、知ってたんだろう? トールが喜多だって事に」


夕貴は顔色一つ変えなかった。

やっぱり知ってたんだ。


「何で、隠していたんだ。俺は喜多に言いたいことが山ほどあったんだ!」


夕貴は一度、ふーっと長い息を吐くと、話し出した。


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