ギルドアルバス支部
「復讐はギルドにお任せ」
そんな言葉がいつからか使われるようになった。もちろんギルドはそんな事実は無いと否定する。
しかし、ここバダルタ王国の王都近郊にあるアルバスに訪れる人は皆その言葉を信じてやってくる。藁にもすがる思いで。
◇◆◇◆
「お願いだぁ!!アイツを殺してくれぇ!!」
泣きながら喚く男にギルドの受付嬢は完全に引いていた。
「えっと…どうしましたか。ご依頼ですか?」
「復讐だ!復讐をして欲しいッ!金ならいくらでも用意する。だから頼む‼︎」
男の顔は真剣だった。
「困りますお客様。ギルドでは個人的報復などの依頼は出来ません」
受付嬢の声は含みを持たせない明確な拒否だった。
「なんでだよ!話が違うじゃないか!ここなら引き受けてくれるんだろう!」
男はなおも食い下がる。受付嬢が困りはて奥から人を呼ぼうとした時だった。
「どうしましたか、声が響いてますよ。ここは私のギルドです、品のない方はご遠慮願いますよ」
「ギルマスッ!」
声のする方を見ると高身長だが細身の眼鏡を掛けた男がいた。
「おや、依頼者さんでしたか。失礼、てっきり態度のなってない新人傭人かと」
傭人、少し前までは冒険者と呼ばれた職業だ。ここアルバスでは最近になりギルドマスターが変わった。
それによる改革で冒険者という名称は傭人とされ、古くの荒っぽい印象を徹底的に消している。
ギルドとしての役割は変わらず町のもしくは国の何でも屋だ。広く仕事を受け付けて人を斡旋する。それがギルドの仕事だ。
◇◆◇◆
「それで、どうなさいました?」
「えっと…」
窓口で喚いでた男はその後奥の部屋に通され、現在はこうして何故かギルドマスターと対面していた。
「復讐…と言っていましたね。あなたの復讐、それに正義はあるのですか」
しばらく押し黙った後に男は喋り始めた。
「ある…正義はあるんだ!」
事の始まりは3日前。
依頼人である男の娘が拐われた。幸いにして目撃者がいた事から犯人達と居場所は直ぐに特定された。犯人は町でも有名な不良集団だった。
しかし、問題があったのはそれから。事情を町の衛兵に話しても一向に助けてくれないのだ。
そこである噂を耳にした。犯人の青年の1人が町の衛兵隊の隊長の息子だという。今までも息子を庇い数々の犯罪を見逃してきたらしいのだ。
「衛兵達に一日中お願いしましたが、彼らは一切助けてくれませんでした…娘はそれから1日後に帰ってきましたよ」
男は歯を食いしばり、帰ってきた娘の無残な様子を語った。
事情を知ったギルマス一度頷いた。
「なるほど。ですが、それなら王都まで行き司法に話をつければよろしいのではないですか?」
「それじゃあダメなんだ…俺はそんなんじゃ許せない。犯人達、それに一切を無視した衛兵ども奴等を皆殺しにしなければ俺は、、俺と娘はもう生きていけないんだ‼︎」
話の後半になるにつれ男の声は激しさと悔しさを増していき、ついには叫んだ。
思案の末ギルマスが決断を下す。
「悪とそれに加担する全ての抹殺。なるほど、確かに正義です」
–––わかりました。貴方の成し得ないその正義私どもが引き受けましょう。