約2話 遭遇しました
タイトル通り、もはや遭遇するだけという進展の無さが魅力の回です。
「俺、転生したのか?」
だが、あまりに突拍子のない仮説に思わず頭を振る。
「いやいやいや。 流石にそんなわけないだろ……。転生とかハーレムとかはあくまで二次元の話であって、そもそも次元が……」
次元が違う。そう口にしようとしたところで、俺は押し黙ってしまった。その理由は単純明快。
……なにか聞こえてくる?
森を駆け抜ける風の音の中に、何かが地面に叩きつけられているような音が聞こえてきたからだ。
しばらく耳をすましていると、音が大きくなってきた。どうやら何かが近づいて来ているようだ。
ドスン……ズズン……バキバキバキ……
だんだん音が鮮明になってきた。
これは恐らく足音だ。
それも、かなり巨大な何かの。
「なんなんだ……。なんか動物でも出たか? まずいな、野生の生き物はかなり獰猛で危険だし。」
「とりあえず音をたてないように……」
呟きながら、俺は静かに太めの木の影に隠れた。
こっちに来ないよう祈りつつ様子を伺っていると、足音のする方角から、その生物の咆哮が聞こえてきた。
「GRUOOOOOOー!!!!」
空気が、打ち震えた。
「……へ?」
思わず間抜けな声がでた。
と同時に、体から大量の汗が流れ始め、体がガタガタと震え始める。
俺は聞こえた音について理解が追いついていない。
だが、体の異常については嫌でも理解させられた。
心が、体が、本能が。 恐怖に震えているのだ。
心拍数が急激に増加し、同時に今度は全身が硬直する。
……なんか知らんが、今の声は? ……とりあえず、見つかるわけにはいかないことには変わりはないよな……。
「息を整えろ、俺……。」
足音はもうそこまで迫ってきている。
スー…ハー…スー…ハー……よし、完璧だ。
数秒後、反対側の森の木がなぎ倒されると共に、最初自分が目を覚ました場所の付近にその生物は現れた。
そのあまりの様相に、俺は驚きのあまり目玉がとび出し──もちろん例え話だが──、同時に自分の仮説は正しかったのだと確信することになった。
現れたのは全長2~3メートル程の、黒い生き物だった。
四本足で歩行していて、顔は犬っていうより狼のような顔つきだ。眼光はとても鋭く凶悪で、睨まれるだけで戦意を失うのではと思うほど。
体格はガッシリしているが、無駄にゴツゴツしているのではなく、スピードが出せそうな体だ。例えるなら力士ではなくラグビー選手といったところか。
そして……
「顔が三つある、だと。」
そう、その生物の正体は、俺が知る限りでは架空の存在。
──ケルベロスだった。
もう! わかりましたよ! 認めますよ! ここは確かに異世界です! つまり俺は転生したんですね分かりましたありがとうございます?!
軽くパニックになり、俺の中の俺が盛大に頭を下げた。
「……ハッ!」
いかんいかん、今は心を落ち着かせなければ。
慌ててケルベロスに視線を戻す。
よかった。まだ気づかれてないみたいだ。
様子をうかがっていると、ケルベロスは開けた場所のまん中辺りで立ち止まり、そのまま座り込み、丸まった。
どうやらここに来た目的は、日光浴の類いみたいだ。
まじか。早くどっかいけよ……。
そう思うも、下手に逃げ始めてバレでもしたらシャレにならないので、様子を見ることにする。
……それから20分ほど待っていると、ケルベロスは寝息をたて始めた。
「ようやく眠ってくれたか。」
俺はホッと息をついて、これからのことに思考を巡らす。
あいつが居るからあそこに戻るわけにもいかないし……って、いてもいなくても、ずっとここに居るわけにはいかないか。
「つっても、どっちいけばいいんだ? しばらく進んでから逆走してました~とか勘弁なんだけど。」
「せめてなにか目印になるものでも……」
辺りを見回すが、見渡す限り森しかない。
うん、知ってたけどね!さっきこの辺り探索したばっかだしね!
これからのことについてうんうん唸っていると、ヤツの体がピクリと動いた。なんか耳が小刻みに震えている。
あ、あれ? なんか嫌な予感が……。
急いで隠れ直そうとするも、先にケルベロスが目を覚ました。
考えて動いてもバレる時はバレる。
俺はケルベロスとバッチリと目が合った。
続きます!