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第28話 ありがとう

 【「えっ。」】

 

 俺は突然の脳内アナウンスに間抜けな声を返した。あと、何故かララも。どうやら、アナウンスはララの意思とは関係無しに流れるみたいだ。

 数瞬の間の後、俺は取りあえず状況を飲み込もうと頭を働かせる。

 えっと、まずは何が起きたか整理する為にさっき起こったことを思い返してみよう。まず、魚が食いたくて釣りを始めた。次に、変な動きをする長靴を見つけたから拾った。そして、長靴の中の魚を血抜きした。──最後に、ずっと待ち望んでいた左腕の開放が達成された。


「いや、おかしいよ。やっぱり。」


 どのみちワケがわからない。何なのこれ? ……いや、本当は何が起きたか薄々勘づいている。ただ、もしそうなら嫌すぎるから考えたくないのだ。こんな間抜けなヤツを倒して強くなるなんて、ちょっと嫌な気分なんてものじゃない。すんごく嫌だ。

 ……そうだ。決めつけるのはまだ早い。兵器の事はララに聞いてからじゃないと。


「ララ、今のアナウンスどういう意味か分かる?」


【前に言っていた、レベルの上昇による部位開放ですよ。恐らく、さっきの魚の魔物を倒してレベルが上がったんです。

 ──いやはや、それにしてもマスター……】


 ララの言葉がいったん途切れる。そして一拍開けて興奮気味に言葉を投げてくる。


【──こんなに早く部位の開放が出来るだなんて! 創造主の兵器の成長を見届けるのも私の役目と、何年でも待ち続ける気概でしたが……! 創造主よ、見ていますか? あなたが死に際に残した産物、今度こそ失敗作では無かった! 記憶を引き継いだ時から少し不安に思ってましたが、これなら問題無さそうです!】


 なんだろう、ララがちょっと怖い。あれだろうか。興奮したら性格変わるタイプなんだろうか。ドルクさんも必死になって性格変わってたし、記憶を引き継ぐついでにそういうとこも似たのかもしれない。……っていうか、記憶引き継いだ時不安になったって何? 後で詳しく教えて貰おう……、いや、止めとこう。聞けば聞くほど後悔する未来しか見えない。不良品じゃ無かったんなら安心だし。

 ……それにしても、ララがこんなに喜ぶとは思わなかった。てっきり【良かったですね、マスター。】くらいの反応だと思っていた。


「ははっ、そんなに喜んでくれるとはね。……まあ、そりゃドルクさんの研究が報われたんだから喜ぶか。その対象の俺が言うのもなんだが、良かったな、ララ。」


【当たり前です! 嬉しくないわけ無いじゃないですか。私は説明書であると同時に、創造主の代わりにマスターの成長を見届ける為の媒体でもあります。マスターが成長してくれるのは、とても嬉しいですよ。……それに、それだけじゃありませんよ。マスターにはこの森を生きて出て欲しい。心の底からそう思っています。私もこの世界のことを色々知りたいですし、マスターの生き方は見ていて面白そうです。私とマスターはまさに一心同体。マスターが森を抜ける事を望むなら、その為の力を更に得た今の状況を嬉しく思わないはずがありませんよ。共に森を抜け、町で夢を叶えてやりましょう! 今までバカにしてきた奴等を見返してやりましょう!】


 俺は心の奥が熱くなるのを感じる。牧野に自分の夢をぶちまけたあの日感じたソレが、心の中を支配していく。この感情は胸が苦しくなるが、本当に心地良い。牧野と話した時にはこの感情が何なのか分からなかったけど、今なら分かる気がする。


 この感情は嬉しい。妙に肌がむず痒くなって、思わず顔が綻んでしまうように。

 この感情は寂しい。なぜか今までの関係が他の物に変わったように感じて、少し胸が苦しくなるように。

 この感情は満足感。心の中に新しい場所が増えたような清々しさがあって、生きていて良かったと感じるように。

 ──そして、この感情は、きっと感謝の気持ちだ。自分を理解してくれようとしてくれた人に、そして自分を肯定してくれる人に向けた、いくつもの感情の贈り物。

 ……でも、この感情は俺一人が持つには難解すぎる。だから、伝える。いや、伝える為にある感情なのかもしれない。なにせ、『感謝の感情』なのだから。


「当たり前だ。俺はこの世界でハーレムを築くまでくたばるつもりは微塵も無い。……それと、ありがとう、ララ。喜んでくれて。応援してくれて。」


 俺は少し気恥ずかしくなって空を仰いだ。川辺なだけあって、枝に邪魔される事なく太陽が顔を覗かせている。少し、眩しい。


【はっはっは。マスター、私はずっと応援してましたよ。何を今更。マスターの夢をバカにする事もないですし、何より信頼しています。】


 俺は自分の体が震えるのを感じた。別に何かにビビってるわけじゃないし、武者震いでもない。


「まったく、お前は最高だよ。」


 ”最高の感情”による、体の喜びの体現だった


「ララ、俺は叶えたい夢が増えたぞ。」


 こんな素晴らしい感情を知らない人がいる。それはちょっぴり可哀想だ。


【ほう、それはどんなことで?】


 だから、自分も誰かにこの感情を与える人になりたくなった。


「今のこの状況を、俺が誰かにプレゼントすることだ。」


 きっと、ララなら意味を察してくれるだろう。そう思った。


【ははっ、何ですかそれ。誰かに三ヶ月の森の旅をプレゼントですか。やはりマスターは面白い思考をお持ちですね。】


 ……どうやら思い違いだったようだ。それどころか、俺が意味不明な夢を持ってしまったことになってしまった。早く正さねば。


「あほか、そんなわけないだろ。俺が言いたいのはだな──」


 そこまで言って、俺はララが思考を読めることを思い出す。そして続きを口に出すのをやめた。多分、ララも気恥ずかしいんだろう。俺と同じように。


【ふふっ、マスター。それで、今出来たという夢と、ハーレムを築く夢。優先するのはどっちですか?】


「ハーレム。比率は1:99だ。」


 言いながら、地面に転がっている魚の血抜きを再開した。

ありがとう、読んでくれて。

ありがとう、感想をくれて。

これはきっと、誰もが与えられる感情です。

ハーレムの方が大事ですけど。

ありがとうの感情は、色づいたビー玉のように綺麗です。

ハーレムは最高峰クラスのダイヤモンドですけど。

そして私はこの感情をみんなに伝えていきたいです。

断然ハーレムを優先するけど。



続きます!

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