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もう27話 開放

長らくお待たせしました!

連載再開します。

……とは言っても、今時期的に執筆に取れる時間が絶望的にないので、更新はまちまちかつ空き空きになるとは思いますが。

 そこのところはご了承くださいませ!


 ……毎日机に手をつくみたいに、気がつけば執筆してる──みたいな道具が欲しい今日この頃です。

 釣りを始めて小一時間。俺は眠気に押し潰されまいと、必死に竿を握っている。というのも、意気揚々と竿を振るってから今まで、全くアタリが来ない。

 まあ肝心の釣り道具が即興品だから、大漁大漁……っていうのは期待してなかったけど、流石に一匹も釣れないとは思わなかった。それに加えて、さっきから魚の影がチラついてるのが妙に腹立だしい。明らかにそこにいるのに全然釣れない……。これほど人をイライラさせる現象はそうそう無いんじゃないだろうか?


「あ~、なんでこんなに釣れないんだろ……。ララ、何かしら釣りの知識持ってたりしない? このままやっててもダメな気がしてきた。」


 釣竿を作る時にはてんで役に立たなかったので特に期待はしてないけど、一応聞いてみる。もう一工夫あれば釣れるかもしれない。


【う~ん、そうですね。実用的な事は分かりませんが、豆知識のような物ならいくつか知ってますよ。】


「え、教えて教えて。」


【例えば、釣りをする時に梅干しを持っていったらダメ。とかですね。】


「なんで。」


 梅干し……? なんでダメなのか見当もつかない。匂いとかがダメなのかな?


【梅干しって、時折(ときおり)防腐剤として使われますよね。昔の人がよくおにぎりに梅干しを入れた理由は、味が半分、腐らないようにするのが半分だったとか。つまり、梅干しは『食あたりしない』食べ物なわけです。】


「ふんふん、それで?」


【そして、今のマスターのように全く釣れない状況を『アタらない』って言いますよね。そこで漁師達は思いました。『あたらない食べ物を持ってたら、アタリが来なくなるかも……。』】


「ララさん、それ豆知識じゃない。ジンクスです。」


 期待した俺がバカだった。俺が今聞きたかったのはそんなギャグじみたまじないじゃない。この魚との冷戦を打破する一工夫だ。


「ララ、それは『受験生に向かって落ちるって言わない』ってのとおんなじだよ。そして俺は具体的な解決策が欲しかったの。そんなこと聞きたかったんじゃ無いんだ。」


【……とか言いながらアイテムボックスに梅干しが無いか確認するところ、私は好きですよ、マスター。】


「うるさいよ! そんなこと言われたら誰でも気になるだろ!」


【それで、梅干しはあったんですか?】


「なかった!」


【それは良かったです。】


 結果を伝えると、なぜか微笑ましい物を見るような声色で言ってくる。なんでだ。俺はむしろ怒ったはずなのに。

 


 ララはいくつか知識があるって言ってたけど、この分だと他のも役に立たなさそうだ。

 半ば諦めて川に視線を戻すと──妙な物を見つけた。釣糸からちょっと離れた所に、少し大きめの影があるのだ。30センチぐらいの。そして浮かんで来ているのか、影は徐々に大きくなってきている。


「ララ、あれ何かなあ?」


【うーん、何でしょうか。嫌にゆっくり浮かんできますね。】


 しばらく観察していると、それはようやく水面まで上がってきた。

 あれは多分……


「長靴……?」


 浮かんできた物は、どこからどうみても長靴だった。黒い色合いに、水に揺られて微妙にひしゃげたフォルム。水に濡れているおかげで日光を反射し、微妙に神々しくなっている。長靴のクセに。


【長靴ですね。】


「長靴って浮くもんだったっけ?」


【いやー、どうでしょう。少なくとも沈んでた物が急に浮いたりはしないんじゃないですか?】


 ですよね。一回沈んだら浮いてこないよね、普通。いや、長靴に限定しなくても。


「だよな。俺の住んでた世界では、長靴は釣るものだったし。」


【バカですね。長靴がエサに食い付くわけ無いじゃないですか。】


 それくらい自分でも分かる、といった風に言ってくる。いや、別に食い付くわけじゃないんだけど……面倒なので言わないでおく。


【それにしても、一安心ですね。マスター。】


「……なにが?」


 一安心? 魚が釣れたでもなく、解決策が見つかったでもない。この状況の何が一安心なのだろうか?


【長靴が捨てられてるってことは、ここに人が訪れた証拠です。そして人が訪れるということは、町が近くにある証拠にもなります。……数日前に川を見つけてから方向は決まったものの、距離が未知数でした。町に近づけていて、町が近くにあると確信できて、一安心です。】


 おお! そういうことか。確かにそれは一安心だ。いや、一安心とかいうレベルじゃない。大発見だ。……今まで長靴は釣りの邪魔者だと思っていた事を、心の底から謝罪する。そして、神々しく見えていたのは思い違いじゃ無かった! そう。今の俺にとって、この長靴はまさに神の道しるべ! 


「嗚呼、神よ。感謝します。」


 気がつけば俺は長靴に向かって祈りを捧げていた。別に熱烈な宗教家では無いけど。


【……シュールな絵面ですね。】


 ララがポツリと呟いたが、俺は聞こえないフリをした。



 さて、長靴が見付かったのは良いものの肝心の魚が釣れていないので、俺は釣りに意識を戻す。

 

(……しかし、近くに長靴が浮いてるというのも気が散るな。場所変えようか……。)


 そう思って立ち上がろうとすると、またまた妙な物を見つけた。いや、見つけたというより、さっきの長靴が変な動きをしていた。ゆっくりとだが、右に行ったり左に行ったり。ほとんど流れの無い場所で釣りをしてるので、別に荒波に晒されているわけではない。


(いや……本当になんだアレ。)


 浮いてきた時もそうだったが、この長靴は何故か目を引く動きをする。最初は材質が特殊なのかな、とか思ったけど、どうにもそうでは無いらしい。証拠として、今度はこっちに向かってゆらりゆらりと進んでくる。まるで長靴が泳いでるみたいだ。


【こんな長靴初めて見ました。マスターの世界では長靴が釣れるって話、まさか本当でしたか?】


「釣れるのは本当だよ。……少なくとも、俺の世界の長靴は泳がないけど。」


【あの、マスター? 泳がないのに釣れるって、マスターの知る長靴は食肉性の海草か何かですか。】


「……そんな長靴絶対嫌だ。そもそも、長靴が肉食ってなんなんだ。想像力豊かだな!」


【いや、釣れるなら大抵肉食だと思うんですけど……っと、マスター、もう目と鼻の先まで近づいて来てますよ。もしかしなくても手が届くんじゃないですか?】


 川に視線を戻すと、長靴がすぐそこまで流れて来ていた。確かに手が届きそうだ。いや、別に届かなくても水に入って取れば良いだけなんだけど。なのにわざわざこんな事言ってくる辺り、ララもあの長靴が気になってるんだろう。


「あっ、ほんとだ。なんか気味悪いけど、せっかくだし確認してみよっか。」


 言いながら長靴の元に歩みより、長靴をつまむ。……が、重くてなかなか持ち上がらない。俺は仕方なく長靴を鷲掴みにする。


「汚なっ!」


 案の定、長靴はヌメヌメしていた。だから掴みたくなかったんだよ。……まあ、何ヵ月も風呂に入らずに水浴みだけしてるクセに今更何を?って感じだけど。


 俺は長靴をじっくり見るものの、特に変わった素材である様子もない。次に長靴の中を覗いてみる。

 すると──


【魚、ですかね。】


中にぶっちょい魚がすっぽりハマっていた。頭から突っ込んだようでほとんど尾ビレしか見えないが、確かに魚だ。

 俺は無言で魚を引っ張り出そうとする。が、ヌメヌメしてるのもあってなかなか取り出せない。なので靴底を叩いて衝撃を与えることにする。


『バシッ、バシッ、バシッ……ッポン!』


 何回か叩いていると、ようやく取り出せた。……三十センチはあるだろうか。色は、銀色が少し青がかっているような色合いだ。そして一応魔物のようで、目が真っ赤に染まっている。


「…………。」


 俺はもの悲しそうに魚の魔物を持ち上げる。


【やりましたね、マスター。なかなかの大物ですよ! ……? あまり嬉しそうじゃありませんね。どうしたんです?】


 ララが喜びの声を上げるものの、俺は素直に喜べないでいた。

 ……だってそうだろ? 確かに俺は魚が食いたくて釣りを始めて、大物を手に入れた。ここで喜ばずしてどこで喜ぶの?って状況だよ。でも入手方法が残念すぎる。いや、クソだ。正直言って。手間暇かけて手作りした釣り道具が、こともあろうに長靴に負けたのだ。魚を手に入れた嬉しさと、自分の知恵を小バカにするような出来事とのサンドイッチ。反応も微妙になるってもんだ。


「いや、まあ、魚は嬉しいんだけどさ。これは無いわぁ~……、流石に。釣竿作った俺がバカみたいじゃん。そうだなー、──例えば、祭りで金魚すくいってあるじゃん?」


【無いです。】


「それで金魚すくおうと試行錯誤してる時に屋台のおっちゃんに金魚入りのビニールをプレゼントされたみたいな。嬉しいけどちょっとやりきれない的な……。今、そんな気持ち。」


【はあ、そうですか……】


 とはいえ念願の魚を手に入れたのは確かなので、手の中でヌメヌメ動いているコイツを捌くことにする。

 まあ捌くと言ってもやり方とか知らないから、血抜きくらいしかやらないけど。


 俺は右腕をソードに変形させ、地面に置いた魚に突き刺した。そしてそのまま川の水で洗い流そうとし──


【ピコーン。一定値のレベル蓄積を確認しました。新しい部位への侵食が可能と判断。左腕の開放を実行します。】


──頭の中に、そんな無機質な声が響いた。


【「えっ。」】


 俺は思わず間抜けな声を漏らした。あと、ララも。

続きます!

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