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やっと23話 ハコバクちゃん

投稿遅くなりました、すいません!

 

 未開の地の森の中、俺は水を飲むために川に来ていた。

川幅は10メートル程で、深いところでも膝くらいまでしか無い浅瀬だ。


「……っはー! キンッキンに冷えてやがる! 美味すぎるぞ!」


 俺は手で水をすくい、一気に煽った。月明かりしか無いので少し不気味だが、とりあえず水が美味いから良しとしよう。


【喉は潤いましたか? それじゃ、戻りましょう……か…………】


 水を飲んだらちょっと目が覚めたが、ララの言う通りタマの居る所に戻ろうとすると、ララが言葉を押し込めた。

因みに川沿いで寝ない理由は、肌寒いから。ただそれだけ。


「ん? なに? ……おい、返事しろって。……なんだよ、そんなことしても驚かないぞ?」


【いえ、そうではなくてですね。あれ見てください、あれ。】


「ならなんなんだよ……。ってかあれって言われても全然分からないんですケド。指差して言えるようになってから言ってもらえます~?」


【そんな無茶な。あれです、向こう岸の川辺に……】


「だから何……って、おっ?」


 向こう岸に生えている草の上に、数匹のホタルが飛んでいた。

あの時の神秘的な光景には遠く及ばないが、暗闇に浮く小さな光と言うのも案外悪くない。


「ホタルか……。そういや、あん時魔法陣が発動したのはあいつらのお陰だったんだよな。あいつらには感謝しなきゃな。」


 俺はとりあえず手を合わせて感謝の念を送る。

あの魔法陣は周りの魔力を吸いとって発動するのだ。ということは、周りに集まっていたホタルのお陰だったということになる。


(ありがとう、ホタル。まさかホタルに助けられるなんて……。いやまてよ。よくよく考えてみれば、ホタルに命救われたヤツって俺が初めてなんじゃないか? ヤバイ。かなりレアな体験したかも。)


 おっと、少し雑念が入ってしまった。これはイケナイ。


【……転生よりレアな経験など、そうそう無いと思いますが。】


「んじゃあ、転生はスーパーレアだな! ──っと。そんなことより、見てみろよ! 良く見たら森の奥の方にもいっぱいいるぞ。」


【本当ですね。確かにとっても綺麗です。……でも光ってるのを見る分には綺麗ですけど、いざ捕まえて手に取ってみると気持ち悪く無いですか? 水に濡れてブヨブヨした個体なんか特に。】


「うわっ! お前なんでそんなこと言うの!?……湿ってるのとか確かにゴキブリみたいだけどさ。っていうか、素手で捕まえたことあんのかよ。意外と……ってか、ずっと思ってたけど、子供っぽいとこあるよな~ドルクさん。」


【フフフッ、確かにそうかも知れませんね。……では、そろそろ戻りますか? ()()がこっちに来たら洒落になりませんし。】


「いやいや、洒落にならんは言いすぎだろ。俺は別に来たら来たで大歓迎だけどな。」


【いやいや、マスターこそ大した自信じゃないですか。随分とたくましくなられて。】


「……虫が大丈夫ってだけでたくましいって言うのはどうかと思うけど。」


【いやいやいや、ご冗談を。あれをただの虫とは。自信の現れで?】


「いや、なんで冗談だと思うんだよ。」


【だってあれは───】

「所詮あんなの───」





【───発光爆弾じゃないですか~。】

「───ただのホタルだろ。」






「…………は?」


 今聞き慣れないワードが聞こえたんだけど。

発光……なんだって? え? あれ? さっきから俺が眺めてるのはただのホタルだよね? それ以上でも以下でもないよね?


 俺が思わず黙りこんでいると、ララが声をかけてきた。


【……えっ? いえ、ですから、マスターがこの3ヶ月で自信をつけられたのを嬉しく思っているという】


「ちっがーーう! 俺がチキンかどうかなんてどうでも良いんだよ! 俺が聞きたいのはそんなことじゃないの!」


【な、なんですか急に。……それで、聞きたいこと、と言うのは?】


「発光爆弾って何!」


【はぁ…………何を言ってるんですか? 発光爆弾は発光爆弾です。マスターも以前遭遇したことがありましたよね? ……というより、マスターの世界にも居るって言ってたじゃないですか。】


「うん、言ったね。確かに言った。さっきも見た目がどうとか気持ち悪さがどうとかいう話もしたよ。」


【ですよね! いや~、安心しました。私が記憶力を失うなんてことがあれば一大事だったところです。】


 ララが、額の汗を拭いながら──言っているのが想像できる声色で言う。


「でも、多分全然違うっ……!」


【何がですか。少し落ち着いてくださいよ。】


「いや、だから! あの発光爆弾とかいうヤツ。俺が思ってた生き物と違う! もう名前からして全然違うの!」


【はぁ………つまり、マスターは発光爆弾を何か違う生き物と勘違いしていたということですか?】


「そうですけど? 何か問題でも?」


【いやもう……どうしたんですか、マスター。何をそんなに取り乱しているので?】


「名前からしてロクでもないから! あと、発光爆弾って何なの?」


 俺はウサギの魔物(トラウマ)を思い出していた。

無害そうな物が実は物凄く怖かった……なんて経験、もうたくさんなのだ。


【そうですね……まず一般知識を言いますと、発光爆弾は『死の宣告』と呼ばれている魔物です。】


「死の宣告。」

俺は無意識に生唾を飲み込む。


【強さは最低クラスとされていますが、その特性が結構えげつないです。発光爆弾……略してハコバクは、夜になると活動を開始します。ハコバクは魔力を餌にする魔物なので、魔力濃度が高い……つまりは強力な魔物のもとに集まる習性があります。

 そして魔力を餌にする強力な魔物も当然いる訳で、その場合ハコバクはその魔物に食べられてしまいます。

 ……そこでハコバクが生み出した必殺技が、『死に際に強く発光する物質を出す』です。

 ハコバクを食べた魔物は体内に、殺傷した場合は皮膚に物質が付着して、膨大な量の光を放出します。】


「ふんふん。それで?」


【この物質を浴びた魔物は暗闇で煌々と光輝く訳ですから、当然他の魔物に見つかりやすくなります。勿論その中には天敵となる魔物も含まれるわけで、補食される可能性がグーンと上がります。

 ……つまりハコバクは、他の魔物の力を借りて天敵となる魔物を抹殺する訳です。こうして天敵の数を減らし、種としての繁栄を有利にする為の手段を身に付けた生物。それがハコバク……もとい発光爆弾なのです。】


「へえぇ~」


【へえぇ~って……。あの、理解できましたか? 今までにも数々の魔物を絶滅に追い込んだ発光爆弾のことは。】


「はいはい、理解できましたよ。絶滅うんぬんは初耳だけど。つまり、発光爆弾マジヤベえってことでしょ?」


【あー、はい。まあそうです。……ですが、意外と落ち着いてるんですね? さっきまであんなに取り乱していたのに。】


「いやだってさ。よーするに、あいつらを殺さなきゃ良いんだろ? なら全然焦ることないじゃん。」


【はあ……。マスター、人の話は良く聞くべきですよ。】


「はあ? だから、刺激しなきゃ良いんでしょって。」


【もう一度言いますよ? 発光爆弾は強力な魔物に集まりますよね。】


「うん。」


【そして先ほどマスターが言ったように、森の奥にたくさん居て、川に居る個体も量を増やしてます。】


「うん。」


 そういえば、さっきより飛んでる量が増えてる気がする。……いや、明らかに増えている。


【つまり…………】


「つまり………?」


【強大な力を持った何かが接近して来ています。】


「…………え?」


【そうですね……この量ですと、ざっと最上級クラスの魔物だと思います。マスターにはリジェネ100%もありますし、負けることはないと思いますが………厳しい戦いになるのは間違いないでしょう。】


「………またまたぁ~。そ、そんなこと言ったって、魔物なんて何処にも──」


 海音は森の奥を凝視する。

 目に映るのは、不自然に大きい光彩の塊。それが、木々の影から影へ。後ろから前へと少しずつ前進してくる。それに伴い、その姿がハッキリしてきた。幾百もの発光体を纏い、目が眩むほどのスパークを放ちながら迫り来るそれは、紛うことなく()()だった。

 そして俺を襲うのは、今まで狩ってきた魔物がただの愛玩動物とさえ思えてしまうまでの、圧倒的なプレッシャー。


「や、やばいやばい。あれはどーみても関わったらあかんヤツだろ!………は、早く逃げて……」


【あれはプリズムベアーですね。あんなに大きな個体は見たことがありませんが。……それより、マスター。逃げて、どうするんです?】


 ララが呆れたように言ってくる。


「ど……どうするってそりゃあ、タマのところに戻って」


【戻ってどうするんです? あの魔物は明らかにこちらに向かってきているのに?】


「今から行けば余裕で間に合うと思うんだけど。」


【ええ、確かに全然間に合いますね。結構余裕で。】


「え? うん、だからタマと一緒に逃げるんだけど。」


 コイツは何が言いたいのだろうか?


【逃げる……ですか。今までマスターの勇姿を見てきたタマに、そんな情けない姿を晒して良いんですか? 幻滅されるかも知れませんよ?】


「う“っ。ま、まあ大丈夫だって! タマも分かってくれるさ。なんせ、俺の愛獣だからな。……それにこんな危ない戦い、わざわざしなくて良いだろ。タマのお陰で今んとこ食べ物にも困ってないんだし、一回ぐらい狩損ねても問題ない。」


【し、しかし。でもですよ? ここでひと狩りしておけば、当分狩りの必要が無くなるわけですし……】


「だから、食べ物には困ってないんだって。それに、あの魔物って食えるのか?」


【……さあ? 知りませんけど。】


「いや知らないの!? ……ま、いいや。取りあえず戻るぞ。話はそれからだ。」


【ちょっ、ま、待ってください! あっ、無視しないで頂けます? ほ、本当に待っ……待ってくださいってば!】


 俺が無視して歩き出そうとすると、ララが全力で止めてくる。


「え、何!? なんでそんなに俺を死地に追いやろうとするわけ!?」


【死地だなんてそんな! マスターなら絶対勝てますよ!】


「え、そう? そ、そうかな~。それは流石に買い被りすぎじゃ……って、違う! 何で俺が戦わなきゃなんないのって聞いてんの!」


【…………ですか】


「え?」


【このシチュエーションで戦わないとかあり得ないじゃないですか!】


「そんなことで!?」


【そんなこととは何ですか! 今までずっと退屈しながら森を練り歩いてましたよね? そしてようやく訪れた胸アツな展開。なのに、逃げるってっ……。そんなの……そんなのっ……! ……ないじゃないですかぁ!!】


「お前あれだな! だんだんドルクに似てきてんな!」


 つまりあれか!? ララは、【退屈だからちょっと戦って来て~】って言ってんのか? 鬼か!


【そんな、創造主と瓜二つだなんて……。マスターもたまには良いこと言いますね。えへへ……】


「いや誉めてないんですけど? ……もういいよ! 話聞いて損したわ! 俺はさっさと退散するからな。」


 俺は川に背を向け、今度こそ戻り始める。


【ああー。待ってください、マスター。ひどいですー。今さら逃げても遅いですよー。】


 ……ん? 何だろう。さっきまで必死だったのに、やけに棒読みだな。何だろう。すごく嫌な予感がする。


【だってもう───】


『グルオオオオオォォ!!』


 瞬間、ララの言葉を遮るように咆哮が響いてきた。


「な、なんだぁ!?」


 振り返ると、プリズムベアーが川の対岸からこっちを見ているではありませんか。


「う“ぇ“」


 うわっ、なんか変な声でた。人間、驚きすぎるとこんな声でるんだ。たまげたなぁ。


『グルアアアアアアッ!!』


 呆然としていると、大熊がもう一度吠えた。すると、纏まりついていた発光爆弾が一斉に舞い上がる。

空気の振動に巻き込まれた個体が、虚空にスパークを走らせながら命を落とす。

それはまさに『死の宣告』と言うべき光景。強者が弱者の蹂躙を開始する、始まりの合図。


【──時間切れです、マスター。】

暗闇でスパーク纏ってるって、格好いい……え?格好よくない?



続きます!

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