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多分22話 そして3ヶ月が経った

いつもより~倍長いです。って言おうと思ったけど、いつも字数が安定してないので止めときます。


ただ、いつもより少し長いです。

 

『キュウッ! キュキュキュ!』


 海音を乗せたタマは、スピードを減速させながら左を見つめ、少し気の張った声を上げた。


「よしそっちか。でかしたぞ、タマ! これで今夜は飯が食えるな。パパっと狩って飯にしよう!」


『キュウッ♪』


 背中を叩くと、タマは軌道を変えて走り出した。海音も騎乗に随分馴れ、そう易々と振り落とされることは無い。


 徐々にスピードが上がっていき、それに比例してタマの表情も険しくなっていく。

 海音は兵器の機能の一つであり、唯一の攻撃手段であるクリエイトによって右腕をソードに変形させる。それに加えてクロックを発動させ、集中力を極限まで引き上げた。


 絶対不可侵の未開の地の深層にて。

 一匹の魔物を服従させ、漆黒の剣を構える様は、本物の騎士と言っても誇張では無いだろう。


【マスター、あの辺の木の陰に居ますよ! 構えて下さい。】


「あぁ……、わーってるよ。あのデカい木だよな!」


 そう、タマが感知したのは魔物の気配だ。

 通常なら草食のホーンビーストが自ら魔物に接近するなど自殺行為なのだが、タマは迷うことなく突っ走る。これは海音に寄せる絶大な信頼があるからこそ成せること。

 初めの内は、狩りの間安全な場所に避難して居たのだが、主人である海音が独りで戦っているのを見て『主人の役に立ちたい』という感情が芽生えたのだ。


 そしてその思いが今、タマを突き動かしていた。


『キュウウウーーー!!』


 タマが魔物に急接近する。

 すると、その全容が明らかになった。手長ザルのような魔物だ。体毛は焦げ茶色で、爪が異常に発達している。恐らくこの凶悪な爪で何匹もの獲物を捕らえて来たのだろう。その爪には、時間が経ってすっかり染みになった血痕が大量に付着していた。


 その魔物は急な異常事態に一瞬困惑の色を浮かべるが、相手がホーンビーストだと知るや否や薄ら笑いを浮かべた。そしてその上に乗りながら武器を構えている海音を見て、逃げるのでなくホーンビーストにその長い腕を振り上げる。


 概ねその魔物の判断は正しい。第三者の彼から見れば、海音達は『低級の魔物を補食しようとしている人族』なのだから。二者が争っている間に()()()()()()()自分が一網打尽にする。

 ……うむ、実に効率的かつ効果的だ。だが、それはその仮定が正しかった場合の話である。


「ぅおらああぁっ!!」


 海音はソードをサル科の魔物に向かって突き出し、突進の勢いも利用して一気に横凪ぎにした。


「タマに何する気だこの野郎おおぉー!」


 勢いの乗った必殺の剣は見事に魔物を切り裂き、ついには真っ二つに両断する。

 そして襲撃成功から5,6メートル進んだところでようやく止まった。


「…………ふぅ~、やったな、タマ! 今夜はご馳走だ!」


『キュウゥーン♪』


【一撃ですか。流石マスターですね。】


「はっはッは。……褒めてもなんも出ないぞ?」






 海音がこの世界に転生してから、既に3ヶ月以上が経過していた。



 ~~~~~~~~



 もうすっかり暗くなった森の中で、一人と一匹が焚き火の前で飯を食べていた。


「……まっずっ!? この前食ったサウンドマウスもマズかったけど、それ以上だな!」


 俺はさっき狩った魔物をさっそく火にかけ、皮だけ剥いで肉にかぶりついていた。……が、とにかく不味い。まあ食用の魔物じゃ無いんだから仕方ないって言えばそれまでだけど。


「タマは良いよな~、食い物に困らなくて。」


 言いながら、その辺に生えている草を黙々と食べていたタマの頭を撫でる。しばらく不思議そうにこちらを見つめていたが、やがて顔を擦り寄せてきた。甘えている時の仕草だ。


「……まー、とりあえず次の獲物はもうちょいましな味だといいな。この……え~~と、このサルみたいな……、そういえば名前知らなかったな。これなんて魔物なの?」


【ああ、それはゲテモンキーですね。名前の通りクッソ不味いです。マスター、久し振りに食料確保したと思ったらそれなんですもん。正直、笑いを堪えるのに必死でした。】


「その名前、絶対これ食ったやつが嫌味でつけただろ……」




 この3ヶ月間、色んなことがあった。

胃薬飲んだら兵器化したり、ララと出会ったり、タマを仲間にしたり。


 それからあったことと言えば、まずタマの察知能力の高さを利用することで狩りの頻度が上がった。研究所から持ち出した食料は既に底をついているので、本当にタマには感謝している。水は雨を容器に集めればどうにでもなるけど、食べ物はそうはいかないしからな。


 それと、クリエイトの変形能力の錬度がかなり上がった。

訓練を重ねたのは勿論、食料確保の為に倒した魔物によってレベルが上がったからだ。自分のレベルを確認できる訳ではないが、明らかに変形の難易度が下がっており、それに比例して身体能力が上昇したのを強く感じる。

 まあララが言うにはレベルはそう簡単には上がらないそうなので、たかが知れているかもしれないが。



 最後に、これが一番嬉しい知らせなのだが……、川を見つけた。5日程前に。

 知っているとは思うけど、でかい川の下流には町や集落ができる。これは憶測などではなく、人は水が無いと生きられないからだ。農作物を育てる為には水がいるし、普段生活するだけでも炊事や洗濯で必要になる。それに加えて魚等の食料も確保出来るのだから当然だ。

 ってなわけで、今俺は川に沿って下流に向かっている。今まで闇雲に歩き回っていたが(主にタマが)、ようやく進むべき方向が定まったのだ。これを嬉しい知らせと言わずなんと言うか。……海音さん思わず嬉し泣きしちゃいそう。




 うん、ざっとこんなもんだね。後は別に強力な魔物が出てきて怪我をすることも無かったし、タマが居るお陰で足の疲れとかもあまりない。……強いて言えば、ララの口調がさらに柔らかくなったくらいだ。最近は、ちょっと仲の良い上司と部下みたいなやり取りになっている。


【いやしかし、ここ数日で随分下流まで来られましたね。タマを仲間にしておいて正解でしたね、マスター。】


「ムグッ、ムッ……。そうだろうそうだろう! 俺はちゃんとその事も頭に入れてタマを助けたんだから!」


【はあ……、相変わらずつまらない嘘がお好きなようで。タマに乗り始めたきっかけは、タマが前足でクイクイッってしてきたからだったじゃないですか。マスターも「お前……乗れるのか?」とか言ってましたし。】


「ま、まあとにかくだ。タマが居なかったらどれだけ時間がかかったか見当もつかん。本当にタマには感謝しないとな!」


 俺は既に寝かかっているタマを見やる。

タマの体は、出会った当初よりたくましくなっていた。脚が強靭になり、胴体は少しスマートになって、海音の体を支えられるように、筋肉質。今のタマなら、他の低級魔物と対峙しても引けを取らないだろう。でもそれはタマに苦労をかけている証拠であり、今まで無理強いをしてきた証明でもある。


「……っはー! 食った食った! 不味くてもちゃんと腹が膨れてくれるなら構わんな!」


 俺は言いながら、食べきれなかった分をアイテムボックスに収納する。いくら不味いといっても、貴重な食料なのだ。しっかり保管しておく。

 そしてそのまま地面に寝転がった。


【そりゃお腹は膨れますよ。……それで、マスター。今夜は変形の訓練、やりますか?】


「ああ……一応やるつもりだけど、ちょっと休んでからで……。」


 タマに乗りながら変形を練習するのは無理があるので、近頃は夜にやっている。まあやっていると言っても、小一時間程度だが。でもそのお陰で、目はまだ粗いものの、鎖と認識できるぐらいの物は創れるようになった。単純に長くする、薄くする等のことなら完璧にマスターしたと言っても過言じゃないぐらいだ。


【そうですか。では、退屈しのぎに一つお話でもどうです?】


「おっ、そりゃいいな! ……でも、ララの方から言ってくるなんて珍しいな。いっつも俺が一方的に聞かせてるのに。」


【……正直、うさぎとカメの昔ばなしは聞き飽きました。確か『調子に乗ったイケメン最強うさぎが、チート持ちの最強ガメにぶちのめされる、テンプレ盛り盛りな話』でしたっけ。】


「そうそう! マジでスカッとして最高なんだよな~、あれ。カメがうさぎの渾身の必殺技の蹴りを真似てみせるとこなんか特に。」


【ああ、あれ良いですよね。脚が短いカメがやっても威力出ないんじゃ? なんて思いながら聞くのも昔ばなしの良いところ………って、違います! 今日は私が話をするんですよ。】


「はははっ、分かってるよ。……なら今思い出した猿とカニの話はまた今度だな。」


【なんですかその全く接点のない組み合わせは。……まあ良いです。それはまた今度聞かせてください。】


「はいよ~。で、どんな話なんだ?」


【では……。昔、ある老人がいました。その老人は、いつも町の馬車馬の休憩所にあるベンチに座っていました。老人は人と話すのが大好きだったので、馬に乗って疲れた人達と話したりして毎日を過ごしていました。】


「人が来るまでずっと座って待ってるって、もはや狂気の沙汰だろ。怖いんですけど。」


【……まあそこは昔ばなし特有のガバガバ設定ってことで。

ある日、彼の孫が一緒に来ていました。彼女は退屈そうに人形遊びをしていましたが、老人にピッタリと寄り添っていました。お昼時になると一台の馬車がやって来て、背の高い男が老人に尋ねました。


「引っ越しを考えているんだが、この町は良い町か?」


老人は背の高い男を見て、

「あなたはどんな所からおいでなさったのですか。」

と答えました。


すると男は、

「あぁ! とんでもねぇところさ。どいつもこいつも互いの悪口ばかり言い合って……。長いこと住んでたが、結局心を許せるような奴とは出会えなかったな!」

と答えました。


老人は彼を見て、

「この町もそんな感じですよ。」

と言いました。


すると男はガックリ肩を落として言ってしまいました。


一時間後、休憩所に家族連れの父親がやって来ました。母親が小さな子供を連れて馬車から降り、老人にトイレを場所を尋ねました。場所を教えてやると、次は父親が降りてきて、老人に尋ねました。

「人と会う為に旅をしているのですが、少し疲れてしまいました。しばらくこの町に居ようと思うのですが、ここは良い町ですか?」


老人は、

「あなたの町はどうですか。」

と答えました。


すると父親は微笑みながら、

「わたし達は自分の町がとっても大好きですよ。みんなとても優しくて、親切で……。何か困ったことがあっても、いつも隣人が助けになってくれました。本当は、今回の旅の為に町を出たくなかったくらいです。」

と言いました。


老人は彼に笑いかけ、

「この町も同じような場所ですよ。ええ、この町の人達もとても親切です。」

と言いました。


それからその家族は老人に感謝を伝えて去って行きました。


馬車が遠くに行ってから、孫娘は老人を見上げ問いました。

「おじいさん、あの人達に違うことを言ったよ? どうして?」


すると老人は微笑みながらこう言いました。


「どんなところに行くときでも、わたし達は自分の考え方と一緒に行くことになる。そんな自分の考え方一つで、その場所は素晴らしい場所にも悪い場所にもなるんだよ。」



……というお話です。………マスター? 起きてます?】


「…………あ、あぁ。起きてるぞ?」


【今半分寝てましたね。】


「ね、寝てないけど?!」


 本当だぞ! ちょっとウトウトしてたけど起きてたからな! 寝てないったら寝てないからな!


【今のマスターにピッタリな話だと思いません?】


「……ん?」


【マスターは、最初未開の地に転生された時、早くここから出たいと焦ってましたよね? こんな所さっさと抜け出して町に行くんだ! って。】


「ああ、そうだな。」


【でも、今はそうじゃない。ずっとこの森に居て、タマに出会って、私に出会って……少しずつこの森に愛着も沸いてきている。違いますか?】


「違います。こんなクソみたいな森さっさと抜けるに限ります。」


即答した。


【……そうですか。私はずっとこの森に居ましたから、愛着心といいますか。が少しあるんですよね。でも、ここを出られることにワクワクしている気持ちの方が大きいですけど。】


「俺はこの森に愛着なんて一切無いんですけど。え、待って、ララはずっとこの森に居たから良いとして、なんで俺がここに未練があると思ったの?」


【いやだって、ここに来てから3ヶ月程経ってるんですよ? ここから出れそうなのも、嬉しいけど少し悲しいみたいな感情が芽生えてるんじゃないかと……】


「なんでぇ!? 俺はここに来て! ちっとも! 良い思いしてナーイ! 可愛い子達とお喋りしたいのに? この世界に来てしたことって何? 兵器化して? 取扱い説明書とお喋りして? 魔物を一匹仲間にして? ………それだけやないかいっ! そんな感情、芽生えるわけないです。ここ出られることにワクワクしてる気持ちしかないです!」


【そりゃそーですね。マスター、ここに来てから一つも良いことありませんでしたね。】


「ああ、そうだよ!」


【……なんかすいませんでした、マスター。イライラした時は寝るのが一番です。わりともう夜遅いですし、変形の練習もどうせ毎日やってる訳でも無いんですし。寝て気持ちを落ち着かせましょう。睡眠は精神面にも優しいですよ。】


因みに、魔物が近づくとタマが気づいてくれるので、寝込みを襲われる心配は無い。


「そうだな……なんか叫んだら眠くなってきた。あと喉も乾いた。ちょっと水飲んでくる。」


【いってらっしゃいませ、マスター。】


「おう……って、お前も来るんだけどな。」


【暗いのが怖いので?】


「いや、お前俺の体の中に居んだろ? どーやって置いていけと。」


【ふふっ、すいません。ちょっとしたジョークです。】



俺は近くの川に向かって歩いて行った。

私が一番思っております。

「俺は町に着いてからのことが早く書きたいんじゃ! キビキビ歩け!」と。



続きます!

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