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きっと19話 ホーンビースト

「いやあああぁぁぁっ!!」


 俺は今、ホーンビーストから絶賛逃走中である。

 せめて剣を構えてから襲ってきて欲しかった!

 まあ無駄話してなかったら余裕で準備出来てたから、完全に自業自得だけどね!


【マ、マスター。確かにホーンビーストの角は脅威ですが、桑を持った農夫でも単独で迎撃できるレベルの魔物ですよ? 攻撃手段も突進くらいしか無いですし……。それに硬質化すれば、万が一攻撃が当たっても痛くありません。

 何より食糧の足しになるのですからやはり討伐しに戻っては?】


「桑を持った農夫でも勝てんの!?……でもちょっと待って、いったん距離を取って体勢を整えてから……」


【はぁ……マスター。走るのに必死すぎです。仮にも逃げているのなら、たまには後ろを振り返ってみてはどうですか。】


 うわっ、溜め息つかれちったよ。


それにしても、後ろ? 後ろってったってホーンビーストしか……


 振り返るとそこには何もいなかった。

 俺は思わず立ち止まり、体ごと振り返って辺りを見回す。


「何で! ホーンビーストは!?」


【ホーンビーストなら、マスターが逃げ始めた直後にとっくに振り切ってました。取り乱し過ぎです。】


「そ、そんなバカな……なら俺は今何から逃げていたんだ……」


【いえ、知りませんけど……。】


 沈黙が重い。


「………そ、そんなことよりもだ! さっきはいきなりでビビったが、今なら大丈夫! 追いかけるぞっ!」


 海音は来た方向を一直線に走り戻って行く。

 行動の早さだけは一人前だ。


【……そうしてください。くどいようですが、初めに遭遇した魔物がホーンビーストなのは本っ当に運が良いんです。

 食糧になるのもそうですし、戦い易さや武器に慣れるという点でも】


「あーもう、分かったって! ちゃんと今追っかけてるだろ! くどいと思うなら言わないで! 惨めになるから。」


 俺は猛スピードで来た道を引き返した。








「……………はぁっ、はぁっ、はぁ……。ーーっくそ! どこ行きやがった?」


 ホーンビーストを探し初めて5分程経った。

 遭遇した場所の周辺を探してみたのだが、なかなか見つからない。


「逃げられたか……」


【逃げたのはマス…】

「シャーラップ! 余計なことは言わなくていい!」


【……逃げたのはマスターです。余計な見栄はみっともないですよ。】


 なんだろう、心が折れそうだ。


「で、でもほら、逃げるが勝ちって言葉があるぐらいだし、俺は別に──」


【そうですね。敵を追い払うのに成功し、最後まで見つからずに逃げ切ったホーンビーストの完全勝利ですね。】


 なるほど、どうやらララは味方では無かったらしい。


【しかし、そんなに気に病む必要はありませんよ。 先程の様子だと、マスターの居た世界には魔物が存在しなかったのでは? 農夫でも倒せると言いましたが、それはホーンビーストに見慣れていて、その特性を知っているからこそです。初めて魔物を見たメガネの小学生もあんな具合に逃げますし。

 だから、マスター。あまり気を落とさないで下さい。】


「……はぁ。そりゃ気も落とすよ。俺は生憎(あいにく)小学生じゃないんでね。」


【それはそうですが。……では次に弱い魔物が出てきた時はお願いしますよ? 今回が駄目だったのなら、次で取り戻せば良いんです。

 大丈夫、兵器化したマスターならあの程度の魔物にやられることはありえません。頼りにしています、マスター。】



 おおっ、意地悪かと思ったら急に優しく……!

 ララさん、ツンデレなんですね分かります!


「当然だ! 訓練の成果、次こそお披露目してやるぜ!」


【外見が変わっただけで…】

「シャーーラッップ!! むしろそこが一番大事だろ!」


【……はぁ、分かりました。程々に期待しています。】


「ふふふっ、俺もかなり兵器を使いこなせて来たからな。

 ドンと任せておいてくれ!」


【……? かなり使いこなせて来たと言うのは言い過ぎかと。まだ兵器の機能の内創造(クリエイト)()()使用したことがないですし。

 それにクリエイトもまだまだ未熟ですよ。】


「クリエイトしか……って、どういうこと?」


【あれ?言ってませんでしたっけ。バイオウェポンには機能が三つありまして、一つ目が創造(クリエイト)です。他の機能は馴れなどを必要としませんし、今まで聞かれることも無かったので黙って】

「あ!……ちょっと待ってくれ。なんか居るぞ。」


 俺はララの言葉を遮り、少し離れた木の影を指差した。

 でもそこには何も居ない。


 今確かに何か動いた気がしたんだけど……


【マスター。話が長いと思ったなら直接言ってください。私はその程度で傷ついたりしませんから。】


「いや、そうじゃなくて!……絶対なんか居たはずなんだって!」


 俺は気配を感じた木陰に駆け寄った。

 が……。


【なにも……居ませんねやっぱり。さっき魔物が出たからと言って、そうポンポン出てくるわけないですよ。】


「あっれー? 絶対居たと思ったんだけどなあー……」


【そんな嘘までついて、往生際が悪いですよマスター。】


「いやそんなつもりじゃ……はぁ、まあいいや。俺の勘違いだったみたいだし、また地道に歩きますか。ーーっと、その前に少し休憩にしよう。」


 精神的にも肉体的にも少し疲れたので、つかの間の休息を取ることにする。歩き続けるだけなら疲労は少ないが、久しぶりに走って息が上がったのもあって、体力の消費が激しかったのだ。

 ぬぅ……侮れんなホーンビースト。


 俺は近くの木の周りに生えている草や枝を切り払う。そして小石をどかし、わりかし快適な空間が出来たところで、ようやく腰を下ろそうとして……


『キュウウゥン……』


 後ろからの鳴き声に妨害された。

 俺は急いで体勢を立て直し、そいつと向き合った。ホーンビーストだ。

 俺はさっき草を切る時にソードを創造(クリエイト)してたから、既に臨戦態勢。


 ……よし、硬質化もオーケー。

 いつでもかかってこいや! この農夫に狩られる低級魔物が

 準備万端でホーンビーストを見やる。……が、おかしなことに気がついた。


「あれ、角が無い……?」


 今回現れたホーンビースト、だいたいの見た目は同じだが、あの特徴的な角が生えていない。

 あと少し小ぶりな気がする。違う個体だから大きさが違うのは当たり前かも知れないが、なんというかこう……全体的に丸っこい気がする。


【ああ、あれはホーンビーストのメスですね。恐らく先程襲ってきたホーンビーストの求愛相手かと。

 ……メスが一匹でいる辺りを考慮すると、どうやらフラれてしまったようです。】


 あー、なるほど。カブトムシみたいなもんか。

 いやでもカブトムシのメスには確かトゲがあるんだっけか。……別に今はどうでもいいけど。


 それにしても……


『キュウウゥーン……』


「なんか、弱いものイジメでもしてる気分だな」


 オスには凶悪な角があったから『戦い』って感じだったが、恐らくメス相手ならただの虐殺になってしまう。

 何があったのか、足を怪我していて逃げる気配もないし。


【マスター、この世は弱肉強食の世の中です。このホーンビーストも無抵抗な草を食べて生きている訳ですし、気にすることはありませんよ。……まあ確かにさっきのオスは不憫(ふびん)ですが。】


 それは分かってる。分かってるんだけど、やっぱり気乗りしない。


【ついでに言いますと、レベルが上がれば上がるほど変形の難易度が下がります。体が強靭になることでバイオウェポンがより体に馴染み、思いのまま操れるようになりますよ。

 この魔物の討伐は、マスターの望みの糧にもなるのです。】


 へぇ、練習を積む以外にもそんな簡単な方法があるのか。


【……しかし、あまり気乗りしないようでしたら無理はなさらぬよう。この世は弱肉強食ですが、何事でも強者に決定権がありますので。見逃すと言うならそれもありかも知れません。】




 そうなのだ。むこうから悪意や敵意を向けてきたり、討伐すれば誰かの為になる場合……、もしくは先に進む時に邪魔になったりどうしても強くならなければならず、その為には討伐するしかない場合。どれか一つでも当てはまれば躊躇いなく戦える自信があるのだが……。

 今回はどれにも当てはまらない。誰もいない森の中で無力、無抵抗で行く先を阻まず、経験値は入るものの今どうしても強くならなければいけないなんてことはない。


「……そうだな、今回は見逃してやるとするか! 強く生きろよホーンビースト!」


 俺は振り向きざまに手をチャッとやり、ちょっとカッコつけてみる。


【はぁ……分かりました。ですがマスター、生き残る為にはある程度の妥協は必要ですよ? 今回はマスターが強者でしたが、次出会う魔物が弱いとは限らないんです。私としては早くマスターにはもっと力を身につけておいて欲しい所です。】


「わーってるって! 今回は手負いの敵に勝っても嬉しくなかったからってだけで──うわっ!?」


 言いながらもう一度振り向くと……オスのホーンビーストがいた。手負いのメスを庇うように俺とメスの間に立ち塞がっている。


 海音を敵と判断したのか、敵対心剥き出しで威嚇してきている。


『キュウウウウッ!!』


「おぉ!? なんだ? やんのかコラ!……かかってこい!」


【いや、どう見てもメスを庇ってるだけです。……なるほど、先程襲って来たのも求愛云々ではなく、このメスを庇う為でしたか。思ったよりしっかりした動機がありましたね。マスター、どうします?】


「はあ? むこうから食糧が歩いて来たんだぜ? 討伐するに決まってんだろ。」


【……言ってることが支離滅裂ですね。あのオスを倒せば、せっかく見逃したメスが野たれ死ぬ可能性が上がりますが?】


「それとこれとは話が別だよ。さっきは可哀想だと思ったが、こいつにはその手の感情が沸いてこない。さっき追い回された恨みもある。だから討伐する!」


【……もう好きにしてください、マスター。】


「おう! 確かに色々思うところはあるけど、難しいことは無視してララの言った通り妥協は必要ってことで……

 結局は感情論だ! ホーンビースト、覚悟ぉー!」



 気乗りしなければ見逃し、気が乗れば討伐する。

 感情に流されてはいけないとはよく言われるが、自由に生きたいと思うなら、感情のままに行動するのも大事だと思う。


 ってなわけで、俺はオスのホーンビーストに向かって駆け出した。

色々思うところがあっても、結局は感情論。

それが私の人生です。


続きます!

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