なんと13話 うっそだろお前
文章を読み返す時間が無かったので、誤字脱字や会話文の支離滅裂さが目立つかもしれません(苦笑)
「そんなこととはなんだ!!」
俺の叫び声がドルクの部屋に木霊した。
これ以上は時間の無駄だと判断した俺は、今度こそ部屋を出ようとする。すると、ドルクが掴みかかってきた。
【おい! マジでこのまま行く気なのか!? ……大丈夫だ、好かれる事が目的なら、兵器化したらむしろ『強くて素敵っ!』ってなるぞ! そんで女なんて向こうからやってくる! だから! な?】
「あーもう! さっきから何なんだよお前! 俺は兵器にはならないっつってんだろ! 悪いけど諦めてくれ!……ってあんたとうとう実体化したな! 実体化して俺に掴みかかって来てんな! やっぱ映像記録とか絶対嘘だろ!」
【なんでだよぉ~、なんでダメなんだよ~……そうだ、そんなに嫌なら俺が納得できるような理由を言ってみろ! 俺は女に怖がられるからとか、そんな理由じゃ納得できないんだ! もし俺を納得させられたら、兵器化せずに帰っていいぞ!】
ドルクが【やれるもんならやってみな!】って顔をして言ってくる。
「なんでそうなるんだ!? 普通、あんたが俺を納得させる側だろう! 自分の立場分かってんのか?」
【そんなん知らねーし~。俺はこんな結末、絶対認めないしぃ~。てか俺の認証が無いとこの部屋から出られないようにしてあるしぃ~。だから君は俺を納得させるしか無いんだしぃ~(笑)】
うわ、ウザッ! なんてウザさだ! そしてやることが卑怯だ! んで言ってることがガキくさい……なんだろう、急に小学校の時に妙に絡んできたガリ勉眼鏡君を思い出したぞ。
……でもドルクのウザさ加減がどうであれ、ドルクを納得させない限りはここから出られないようだ。まったく、面倒くさいことこの上ない。
「……はぁ、分かったよ。なんで俺がお前の頼みを受け入れないか、あんたの視点に変えて教えてやるよ。」
ドルクは相変わらず【出来るもんならな!】って感じで頷いた。
「あんたはある日、知らない科学者に出会いました。」
俺は俺の経験の主人公をドルクに変換して、仮定の話を始めた。
「その科学者は人体実験を繰り返し、その中で何人も犠牲を出していました。そしてその科学者はこう言うのです。【丁度良い、新薬が出来たから被験者になってくれないか】と。」
俺はドルクの肩に手を置き、質問する。
「お前ならこの頼み、受けるか?」
【いや、受けるわけないだろう。これで自分の頼みを受け入れて貰おうなんて都合が良すぎってもんだ。……こんなもの受け入れるやつはよっぽどのバカだな。】
即答した。
「だろ? そういうわけだ、納得したか?……さっさと部屋から出してくれ。」
俺は親指で出口のドアをクイクイっと指差してみせる。
だがドルクは、
【は? なんでだ。今の話と君が帰れることに何の関係が?】
俺は思わずため息をついた。
なんでこう、科学者ってやつは頭のネジがひとつ外れたのが多いんだろう。……いや、本当に会ったのは初めてだけどね。あくまで漫画やアニメでの話ですけどね。
「お前、マジで言ってんのか? 俺の中で、あんたはこの都合の良すぎる怪しい科学者だって言ってるんだよ。……はぁ、いや、もういい。取り敢えずここから出してくれ。俺はそれだけで十分だ。」
ドルクはしばらく怪訝そうな顔で考え込んでいたが、やがて怒ったようにこっちを向いて言ってきた。
【お、おい! この例え話は無いだろう!? この兵器の安全は絶対に保証するし】
「一回も試して無いのになんでそんなこと言い切れるんだ?」
【……俺は別に怪しい科学者じゃ無いだろ? ここに来た経緯も全部話したじゃないか!】
「うん、話されたな。あんたが魔法に負けたくないってだけの理由で多くの犠牲者が出たことも。」
【……実験の中で犠牲者が出たのも科学の進歩には必要だったことで】
「でもあんたの兵器の被験者になって死んだことには変わり無いんだろ? 生憎俺は被験者兼犠牲者に名前を連ねたくないんでな。」
【この兵器があれば圧倒的な力を得られるかも知れないんだぞ!? それも魔法を越えられるような! なのになんで。】
「魔法を越えたいと願うのはお前の勝手だ。そしてお前はそれに仲間を巻き込み、俺も巻き込もうとしている。それに気づいた方がいい。」
【………でも兵器化すれば力が】
「また言わなきゃダメか? 俺は兵器化を望まない。」
【…………どうしても、嫌なのか。】
「ああ、あんたには悪いけどな。」
沈黙が流れる。……少し強く言い過ぎたかも知れないが、俺は兵器化する気が一切無いのだ。このままドルクに希望を持たせながらズルズル口論するというのも酷だろう。
なら今きっぱりと諦めてもらう。そうした方が双方共に少しでも傷が浅くて済むはずだから。
(これで分かっただろう?ドルクさん……。俺は兵器になんて絶対になりたく無いんだ。だから、お願いだ。諦めて俺をここから出してくれ。)
俺はドルクにまっすぐ向き直る。
そして、もう一度謝罪の言葉を言った。
「本当にすまない、ドルクさん。俺は兵器にはならない。」
……すると、ドルクは肩を震わせ始めた。泣いているみたいだ。
しばらくの間、顔に腕を当てて必死に涙を拭っていた。
感傷に浸ってしまうのも仕方のないことだろう。彼の努力は、野望は、ここで終わってしまうのだから。そして終わらせてしまうのは俺自身だ。
……少し、心が痛む。
ドルクはやがてこっちに向き直ると、最後のお願いだと机を指差して言う。
【……なら、せめて、バイオウェポンを処分してくれないか? どうせこのまま誰の手にも渡らないのなら、今少しでも関わりのある君に処分して貰いたいんだ。】
正直、驚いた。処分するのではなくて、『偶然誰かが発見する』という万に一つの可能性にかけるものだと思っていた。
なるほど、全く見ず知らずのやつには渡したくないってことか。俺はドルクのことが少し気に入った。
「ああ……それはいいんだが……。肝心の兵器はどこにあるんだ?」
さっきからちょくちょく部屋を見回していたものの、それらしい物は見当たらなかった。ドルクと会話するのに兵器化が必要だったのなら、分かりやすい場所に置いてあると思ったんだけど。
【……? ……ああ、そういえば言ってなかったか。そこの机の上に置いてあるんだ。よくどこに物を置いたか忘れるからな、大事な物は大抵分かりやすいところに置きっぱなしだよ。】
ドルクは机に手を伸ばしながら言ってくる。
それと、忘れっぽいのは本当のようだ。俺は既に机を確認したが、変な薬剤や軟膏や胃薬くらいしか乗っていなかったからね。
【……それよりも、俺は君の今後が心配だよ。勝手にこの世界に転生させておいてなんだけど、この未開の地を抜けるのは簡単じゃない。……現在地も分からない上に、生息しているモンスターの種類もはっきりしないんだ。正直ここに置いてある重火器だけでは、とてもここを抜けられるとは…………あれ?】
それは俺も懸念していた。兵器化するのは絶対に嫌だが、国に向かう途中で魔物に襲われて死ぬのも、その辺で野垂れ死ぬのもまっぴらごめんである。
食料や水もここには腐るほどあるが、持ち運んで長時間歩くとなると持っていける量が限られてくる。
手榴弾や重火器もあるが、正直あの魔物たちに通用するとは思えないし、そもそも扱える気がしない。
……でも俺はこれより悪い状態でここまで辿り着けたんだ! 今回も大丈夫だ! ……大丈夫な、はずだ! 多分。
それよりも、ドルクの言葉の最後で気になる声が聞こえたんだけど。
嫌な予感がしてドルクを見ると、ひとつのビンを手にとって中を確認していた。
「どうかしたの? ドルクさん。」
神妙な顔つきでビンとにらめっこしているので、何があったのか聞いてみる。
すると、妙なことを言ってきた。
【……いや、バイオウェポンが無くなってるんだ。君が飲んでなかったとしたら、無くなる筈がない……ハッ! まさか、やっぱり君がこの兵器を飲んで】
「飲んでない!」
俺は食い気味に即答した。
「……はあ、まさか無くしてるとはな。これじゃ、俺が兵器化するかしないか以前の問題だな。」
俺は小さくため息を突きながら言う。
【そ、そんなわけ無いだろう! 俺が自分の最高傑作を紛失するなんて、あるはずがない!……おい、さては君が隠したな!? そうなんだろ? そうだと言ってくれっ……!】
「はっ!? なんでそんなことしなきゃならないんだ! 俺は知らないぞ! また訳の分からんこと言いやがって……ちょっと見せてみろ!」
俺はとんでもない濡れ衣を着せられかけながらも、ドルクの手から半ば強引にビンを奪い取った。
「……うん、何も入ってないな。……ドルクさんよ、物の管理はしっかりな。」
俺は優しく微笑みながら言ってみせた。
そしてドルクにビンを返そうとして……
「ん? おいこれ、胃薬が入ってたビンだぞ。良かったな、無くしたんじゃなくてビンを間違えてただけみたいだぞ?」
ビンの蓋には、『ドルクお手製胃薬』と書いてあった。
これは俺が飲んだ胃薬だ。……もしかして、俺が飲んだときに机の上を弄ったから間違えちゃったのかな?
そう思っていると。
【え?……あ、いや、バイオウェポンを作った時にもう空きビンが無くてな。ちょうど使い切っていた胃薬のビンに入れておいたんだよ。】
「………え?」
空いた口が塞がらないとはこのことか。俺はドルクを指差しながら、しかしあまりの衝撃の大きさに声を出せずにプルプル震えていた。
【いやまあ、バイオウェポンには自己修復機能もついてるからな。胃の痛みも治るから、胃薬ってのもあながち間違っちゃいないぜ?】
ドルクは片眉を上げながら言ってくる。軽いジョークのつもりなのだろうが、俺は未だに頭の中がサプライズパーティー状態だ。
【……まさか紛失するとはな。ま、間抜けな俺らしい最後かもしれんな!……おっと、そろそろ本当に魔法陣の魔力が切れそうだ。君、短い間だったが、久しぶりに人と話せて楽しかったぞ! では、達者でな──】
ドルクはそう言い残して消えてしまった。
言いたいことが腐るほどあるのに、怒りも文句もぶつけられないまま消えてしまった……。
──俺は部屋でひとり、さっきまでドルクがいた場所を未だに指差していた。
そしてようやく止まった時間が動き出し、何もかもが手遅れすぎる絶叫を上げた。
「──な……っ、なんじゃそりゃああぁぁーー!!??」
俺の声は部屋中に虚しく木霊し、やがて消えていった。
続きます!




