恐らく5話 軽くトラウマ級
疲れきった体にムチ打ちさらに進んでいくと──いや、本当に進めているのかも不安になって来つつあるけど──小さな生き物に遭遇した。
小さなフォルムを真っ白な毛が全身を覆っていて、その体毛の隙間からは赤くてくりくりした可愛らしい目が覗いている。体は丸みを帯びていて、とても愛嬌のある姿だ。全体的な見た目は少しロン毛のウサギだった。
だがもう限界の近い俺は、無意識の内に目のフィルターが入れ替わった。
自分でも捕らえやすそうな小さなフォルム。食べても毒などはなさそうな色合い。肉付きがよさように丸々としている体……。
もはや俺のの目にはただの食料としか写らなかった。
「肉だっ!!」
さっきまでの疲れが嘘のように吹き飛び、俺はそいつに向かって勢いよく飛び出した。
徐々に距離が迫っていくが、そいつはこっちに気がついていないようで、背を向けたまま動かない。
──捕ったっ!
そいつとの距離があと数歩のところまできて、食料を確保できることを確信する。
そしていざ手を伸ばそうとしたところで……ヤツはこっちを向いた。
自然に目が合い、そいつは可愛らしい顔で俺を見つめてくる。一瞬手を出すのを躊躇うも、今の俺は人間性より生存本能が勝っている状態だ。
すまない、ウサギよ! 俺は止まるわけにはいかないんだ! この世界は弱肉強食。許してくれ!
そのまま勢いよく飛びかかろうとしたところで……
「え"?」
そいつの口が、大きく開いた。直後に口の周りに6つの亀裂が入り、触手のようにうねうねとうねりだす。
そして亀裂が裂け、俺を出迎えるように開いた。即座に展開された口もどきの大きさは、ご丁寧に俺がすっぽりと収まる大きさにまで広がっている。6つに裂けた口にはびっしりと鋭い歯が生えていて、飛び込もうものなら一瞬のうちに噛み砕かれるだろう。
丸見えになった口内は、ギシュギシュと意味不明な音を出していた。
「ちょっ……す、ストップ、ストォーップ!!」
全力でブレーキを掛けようとするも、到底間に合わない。
あんなに可愛らしかった生き物が、狩られるのを待ち伏せていたなど誰が思うだろうか。
〝こんなグロいヤツに殺されるなんて冗談じゃねえ!〞
俺はそのまま口の中に突っ込……む寸前で、わざと自分の足をもう片方の足に引っかけてバランスを崩した。その際に体をひねり出来るだけ体を横に向けた後、崩れた足で力いっぱいジャンプする。
その結果、走る勢いはそのままに、モ○ハンの緊急回避ばりの素晴らしい跳躍をしてみせた。それに加えて体を横に向けるよう仕向けた甲斐あって軌道が変わり、口への直通コースをかろうじてズラすことに成功する。
よしっ、いける……!
そのまま華麗にウサギモドキの横を通り過ぎた……と思ったのだが。
「……」
一本の触手が足に巻きついてきた。
そのまま無数の歯が足に突き刺さり……
「せいっ!」
……突き刺さる前に足を一気に引き寄せ、靴を脱いでエスケープした。
そして勢いよく地面に落下し、『ドシャッ!』と痛々しい音が鳴る。そのまま地面を滑っていき、数メートル程転がったところでようやく止まった。
俺は体の痛みを無視して急いで立ち上がり、フルダッシュで逃走を始める。
死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思っ……
あまりの衝撃と恐怖から、俺は半泣きになりながら逃走を図った。
可愛いと思ってたものが実は怖かったって、マジで泣きたくなると思う…思いません?
続きます!




