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尋問そして訪問

 あの後、ギルドへ生き残りの刺客を運び込んで事情を説明すると、夜勤のギルド職員は「少し待っていてください」と言って併設のバーカウンターへ向かう。


 しばらくすると職員は一人の大柄な男を連れてきた。


 年の頃は40代後半くらいだろうか。


 鍛え込まれた筋肉と、所々に見える傷跡からして只者ではなさそうだ。


「ほほう、お前がジアンさんを救った男か」


 生い茂った口ひげの奥から低い声がする。


 一筋の線の様に細められた目が相棒を睨める。


「今度は暗殺者アサシンに襲われたそうだな。俺もこの街のギルド長をそれなりにやっているがこんな騒ぎは初めてだ」


「そうなのか?」


「こんな田舎の街じゃ、権力争いすら起こらないからな。暗殺者アサシンを使う抗争なんて起きやしない」


 ギルド長は豊富な髭とは対象的に一本の毛さえ無い禿頭を撫でつつ、相棒が運んできた暗殺者アサシンを見やる。


 未だ気絶したままのソレをギルド長に預けると「そんな平和なギルドじゃあ尋問とかは無理か?」と相棒は尋ねる。


 ギルド長は髭に埋もれた口を少し歪めて、人の悪そうな笑いを浮かべながら「こちらには王都帰りのプロも居るから大丈夫だ」と胸を叩いた。


「それじゃまかせた」


 それだけ言ってギルド長に背を向けて外へ向かって歩き出そうとした。


『相棒、一つ言い忘れている事があるのではないか?』


「ん? ああ、そう言えばそうだな」


 外へ向けていた足を止めギルド長に振り返る。


「なんだ? まだ用があるのか?」


「そう言えば今思い出したんだけどよ、この前ジアンのオッサンを襲った盗賊共はどうなった?」


「あいつらならまだギルドの奥にある牢屋にいるが、それがどうかしたか?」


「もしかしてこの暗殺者アサシンと何か関係があるんじゃないかと思ってさ」


 何時もは居るはずのない盗賊団の襲撃。


 それを助けた相棒に対する暗殺者を使っての攻撃。


 普段この街ではありえない二つの連続した出来事が無関係とは思えなかった。


「そいつは口を割らねぇかもしんねぇが、俺如きにビビってた盗賊共なら簡単に口を割りそうだとおもってな」


「ふむ、たしかに。では並行して奴らへの尋問もその方向でやり直すことにしよう」


 相棒はギルド長のその言葉を聞いてもう一度踵を返しギルドを出た。


 ギルドから宿屋へ向かう道すがら我は相棒に声をかける。


『尋問で何かわかると良いがな』


「わからなかったらまた次に襲ってきた獲物を捕まえて同じようにするだけさ」


『今度はもう少し手加減するのだぞ』


「へいへい」


『大体お前は何時もやりすぎる。少しは反省するのだな』


「反省はいっつもしてるんだけどねぇ」


『反省したら学習しろと何度も……』


 そんな我らの何時ものやり取りは宿屋に付くまで繰り広げられるのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 翌朝我らは早速機能の尋問の結果を聞きにギルドへ向かった。


 受付の男に用件を告げると我らは奥の応接室へ通された。


 しばらくするとギルド長ではなく少し小柄な眼鏡を掛けた優男が書類を持って部屋に入ってきた。


 どうやらギルド長は夜通し尋問に付き合ったせいで今は自室で爆睡しているらしい。


 とにかく結果さえ聞ければいいので、あの髭達磨が居ても居なくても我らにとってはどうでもいいことだ。




 結論から言えばあの刺客の男は口を割らなかったらしい。


 最終的には精神系の魔法が使えるギルド職員の力で自白させようとしたが、その精神にも罠が掛けられていたようで一瞬にして男は廃人と化したそうだ。


「えげつねぇな」


『プロの暗殺者とはそういうものだ』


 相棒はその報告を聞いた後、次に先日捕まえた盗賊団の事を聞いてみた。


 こっちは暗殺者アサシンどもと違って簡単に自白ゲロしたそうだ。


 彼らはこの街から少し離れた王都からの街道をシマにしていた連中だったそうだが、あの襲撃をした日にジアン達の馬車を襲うように依頼をされたらしい。


 結構な額の前金を貰い、ほとんど護衛のいない馬車を襲う簡単な仕事のはずだった。


 我らというイレギュラーがあの場所にいなければだが。


 依頼人はジェイドと名乗っり、ねずみ色のフードを目深に被ったまま一度としてその顔は見せなかったそうだ。


 多分その名前も偽名だろう。


 盗賊団と暗殺者アサシンとの間には特に面識はないそうだが、多分そのジェイドとやらは暗殺者アサシンの一人だったのではないだろうか?


 暗殺者アサシンを私兵に持つほどの黒幕か……面白い。


「盗賊どもはその依頼内容について他になにか言ってなかったか?」


「依頼者からの依頼内容は『馬車を襲い、ジアンという商人とそいつの荷物を手に入れてくれ。それ以外の物や人は好きにして構わない』というものだったそうで」


「荷物ねぇ」


「商人の荷物の中身は結構な財産になるものも多いですからね」


「まぁ確かに金貨はけっこう持ち歩いていたようだが」


「現金もですが商談帰りだとすると、その取引の証文辺りが目的だったんじゃないでしょうか?」


「証文?」


「ええ、普通の人達にはただの紙切れですが商売人にとって証文は命ですから」


「へぇ~、あんた詳しいね」


「私も昔は商売人をやってましてね。向いてなかったんでしょうが店を潰しちまって、今はこのギルドに雇われの身なんですよ」


「コッチのほうが天職だったってことだ。とにかくありがとよ、いい情報貰ったぜ」


 我らはその職員に礼を言ってギルドを出る。


「証文ねぇ、こりゃジアンのオッサンにも話聞かなきゃなんねぇな」


 我ら足はそのまま自然と昨日訪れたジアン邸へ向かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ジアン邸の前に来ると昨日と違う違和感に気がついた。


『ほぅ、こりゃ『結界』か?』


「みてぇだな」


 屋敷を敷地ごと薄っすらと魔力が包み込んでいるのが見える。


「結界石を使った結界とは、さすが金持ちだな。まぁ金持ちだからこそ、ここまで用心しなきゃなんねぇんだろうけど」


 昨日我らが訪れたときに気が付かなかったのは、客人の到着を迎えるために結界を解除でもしていたせいだろう。


「別に入る時と出る時だけ解除してくれりゃかまわねぇのにいる間ずっと解除してくれてたのか」


『ペン使いのお主なら結界に気がついて嫌な思いをするかもしれないとでも思ったのかも知れぬな』


「そこまで気ぃつかってもらわなくてもいいのによ」


 結界について喋りながら我らは大きな門まで歩いていき、そこにある呼び出しボタンを押した。


 この魔道具も普通の家には必要無いが、これぐらいの大邸宅だと必要なのだろう。




 しばらくすると屋敷の方から昨日の執事……ラドクといったか、あの男がやってきた。




「これはこれはバールレイ様」


 我ら前で軽く礼をするラドクに「ジアンのオッサンに聞きたいことがあって来たんだけど居るかい?」と来訪理由を伝える。


「はい、主人は在宅中でございます。今門を開けますのでしばしお待ち下さい」


「いいよいいよ門なんて、そこの通用口でかまわんよ。けっこう結界の操作って大変だろ?」


 俺がそう言うとラドクは一瞬驚いた顔を見せたがすぐに納得がいったような顔になった。


「では失礼ながらお言葉に甘えさせていただいて、通用口の結界のみ解除させていただきます」


 ラドクはそう言って門から少し離れた所にある小屋に入っていった。


 あそこが結界の制御部屋なのだろう。


 しばらくすると通用口あたりにだけぽっかりと結界の穴が空いたのがえた。


 やがてラドクが帰ってきた。


 その足で通用口の鍵を開け俺を中に迎え入れると、結界をもとに戻した後、我らを昨日と同じく屋敷まで案内する。


「昨夜はこの屋敷には何も問題は起きなかったか?」


「昨夜ですか?」


「ああ、昨日俺は帰り道に族に襲われてな」


 相棒のその言葉にラドクは驚いた顔をして


「やはり馬車でお送りさせていただいたほうがよろしかったのではありませんか?」


 と言う。


「いや、あの程度のやつらなんざ軽い食後の運動にもならなかったから気にすんな」


「ですが」


 なおも食い下がるラドクを手で制す。


「いいっていいって。そんな事よりこっちには被害はなかったか、そのほうが心配でな」


「そうですか。お屋敷の方には賊も何も現れませんでした。御存知の通り結界もありますのでそう簡単に侵入される事はないでしょう」


「それにアンタもいるしな」


 相棒が少しカマをかけてみる。


「私などバールレイ様の足元にも及びませんよ」


 一瞬の間があった後、ラドクは歩みを止めずそう答えた。


「俺の見る限りただの執事とはおもえねぇんだがなぁ」


「買いかぶりすぎですよ」


「そうかねぇ」


 ラドクは曖昧な笑みを浮かべるだけで、それ以上その話を続ける気がないようだ。




 やがて屋敷の入口で後の案内をメイドにまかせ、彼は主人であるジアンを呼びに奥へ入っていった。




「んじゃ、案内よろしくお嬢ちゃん」

 

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