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刺客2

「リュシアン様」


 しばらくすると、ゾラが部屋に入って来た。


「……さっきの誰かわかった?」

「申し訳ありません、実は……」


 報告によると、逃げていったボーイはあの後すぐに甲板から海に飛び込んだらしい。ゾラも後を追おうと船縁に足をかけたが、周りの人々に羽交い絞めにされ止められてしまったようだ。さすがに一般人を蹴散らすわけにいかず、後を追うのを断念したと無念そうに頭を下げた。


「ええっ!? いやいや、まじでやめてね」


 こんな大海原に飛び込むとか、はっきり言って自殺行為に他ならない。そうなると、その逃げた男はどうなったのか、リュシアンは途中まで考えて首を振った。


「リュシアン様?」

「な、なんでもない……、報告ありがとう」


 その時、軽いノックの後に扉のノブが小さな音を立てて回った。ゾラが、音もたてずさっと姿を消す。


「リュシアン? 明かりもつけないで、なにしてんだ」


 エドガーが、そうっと覗き込むように扉から顔を出して、ベットの脇で座り込んでいるリュシアンを確認すると、扉を大きく開けてランプのつまみを捻った。ちなみにこの世界での明かりは、魔石による疑似魔力を使った電気のようなものと、ふつうに油を使った火のランプとがある。

 エドガーは、詳細こそ聞かされてないようだが、待機していた護衛にリュシアンが部屋に帰ったことを聞いて、心配して様子を見に来たのだ。


「……ちょっと、船酔いして。なんでもないよ」


 とっさにさっきと同じ言い訳をした。おそらく、どこかでゾラが眉を顰めているに違いないが、今のところ、エドガーに知らせるつもりはなかった。

 どちらにしろ王様には連絡が行くだろう。かろうじて立場を守られていたイザベラに、果たしてどのような采配が下されるのか気が重くなる。

(――よりにもよって、エドガーが帰郷するって時に、何やってんだ)

 イザベラに憎しみは覚えても、腹立たしい思いを抱いたのは初めてだった。


「大丈夫かよ……、なんか顔色悪いぞ」


 知らず知らずに怖い顔になっていたリュシアンに、少しだけ怯んだようにエドガーが声をかける。


「平気平気……ホント、なんでもないから」


 釣り上がった眉尻はそのままで、ニッコリと笑顔を浮かべたらエドガーにちょっと引かれた。


「僕は大丈夫だから、お昼でも食べておいでよ」


 苦笑しつつ立ち上がろうとすると、エドガーがさりげなく手を出したので、その手に掴まって引き上げられるようにして身体を起こした。


「具合が悪いお前を置いていけるかよ、魔法って船酔いに効かないのか?」

「どうかな? 怪我でもないし、たぶんキュアも違うし、薬だったら万能薬がいいんじゃない」


 リュシアンといえど、流石に万能薬は持ってない。あれは材料が普通ではないのだ。それこそ船酔いなんかに使ったら怒られるレベルの代物だ。

 本当のところは、船酔いには普通にハーブがいいと思うけど、リュシアンはあえて訂正しなかった。船酔いじゃないのだから、そんな議論に意味はない。


「とにかく、大丈夫だから! 僕も少ししたら食堂にいくよ」


 リュシアンは、ゴネるエドガーをなんとか宥めすまして部屋から押し出した。

 背中で扉を閉めると、小さくため息をついた。


「ねえ、ゾラ……」


 しぃんと静まり返った空間に、リュシアンが腰かけたベットの軋む音だけがやけに大きく響いた。

お読みくださりありがとうございました。

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