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故郷へ

「あら……、そうなの?」


 意外そうにニーナは、大きな瞳を何度も瞬いた。ニーナにとって、里帰りは嬉しいことなのだろう、憂鬱そうなエドガーを不思議そうに見ている。

 リュシアンも、カバンに教科書などを仕舞いながら二人のやり取りを聞いていた。

 エドガーは母親のことはどういう風に聞いているか、気にはなったが、さすがにその辺の事情をズケズケと聞く勇気はなかった。


「リュシアンは? 王都には来るのか」

「え? なんで、行かないよ。家に帰るよ」


 バッサリ答えたリュシアンに、見るからにがっくりとエドガーが頭を垂れる。


「なんでだよぉ、お前が一緒なら、まだ気が楽なのに」


(いやいや、余計にややこしいことになるからね、やめたほうがいいよ)

 リュシアンは心の中で力いっぱい否定した。

 この様子からして、エドガーは詳しい事情は知らないと思えた。単純に父親、すなわち王様が苦手なのだろう。


 以前ならいざ知らず、今となっては母親のやっていたことをエドガーには知ってもらいたくない。ちょっと素直じゃなかったり、悪びれたところはあるけれど、エドガーは基本的に根が善良な人間だ。

 彼には、無用な罪悪感など感じて欲しくなかった。

 そしてもう一つ、彼女の罪が暴かれ、いざ贖われるその時、エドガーがどのような感情を抱くのか、不安がないと言えば嘘になる。

 恨むのは筋違いとはいえ、母親を断罪するきっかけとなった原因はリュシアンである。それを期に関係がギクシャクするのは、望むところではないのだ。

 同級生として接していたせいか、いまさら兄などと照れくさくて呼べないけれど、血の繋がった兄弟であることには変わりない。

 肉親としても友人としても、リュシアンにとって、エドガーはすでにかけがえのない存在になっていたのである。


 短い春が終わり、季節はやがて夏の訪れを迎えた。

 学園は長期休暇に入り、エドガーとリュシアンは、帰省の為、海を越えてモンフォール王国へと数日かけての船旅だ。エドガーは、そこからさらに一週間以上もの間、馬車に揺られることになる。帰り道の事を考えると、故郷に滞在できるのはリュシアンは三週間、エドガーは二週間ほどだろう。最後までゴネていたエドガーだったが、王都への旅の途中でリュシアンの家へと休憩を兼ねて泊まることになり、少しは機嫌が直っていた。

 ニーナとアリスは、二人そろってドリスタンの王都への道のりとなる。彼女たちは実家が近い分、夏休みの旅行を計画しているらしい。

 こうして学園都市をあとにして、彼らはそれぞれの故郷へと旅立っていったのである。

お読みくださりありがとうございました。本日はもう一話投稿します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後までゴネていたエドガーだったが、王都への旅の途中でリュシアンの家へと休憩を兼ねて泊まることになり、少しは機嫌が直っていた。 以前 リュシアン家から王都まで 普通馬車で2週間との記載…
[気になる点] 学園は長期休暇に入り、エドガーとリュシアンは、帰省の為、海を越えてモンフォール王国へと数日かけての船旅だ。エドガーは、そこからさらに一週間以上もの間、馬車に揺られることになる。帰り道の…
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