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遭遇戦2

 大きな嘴が、リュシアンの身体を弾いた。

 踏ん張る暇などなく、軽い身体はそれこそ木の葉のように吹っ飛んだ。叩きつけられた大木が、メキリッと音を立てひび割れる。衝撃に息が止まったが、なんとか転倒はせずにそのままずり落ちるように足をついた。


「いっ、痛ったぁ……」


 嘴がみぞおちに入った痛みに身体を縮こませ、ぶつけた頭はしばらくグラグラして視野が一瞬暗転した。

 無属性の防御がなかったら、ひびが入ったのは間違いなく背骨だっただろう。大木の中央部に亀裂が入ってへこんでいる様に、リュシアンは思わずゾッとした。


 弾みで転げ落ちたチョビを、リュシアンは拾い上げようとして「うっ?!」と呻く。


(あ、コレ、肋骨いっちゃってる?)


 屈んだ状態でしばし固まったリュシアンに、魔物は更なる追い打ちをかけようと、再び上空から滑空してきた。

 とっさにチョビを手に抱え、身を丸めて意識を集中する。無属性で身体能力を意識的に急上昇させた。たとえ弾かれても、これだけ防御力を高めれば大怪我はしないだろう。

 来るだろう衝撃に身を固くしていたリュシアンに、しかし衝撃は来なかった。

 その代り、ズシャッ! という何か重量のあるものが落ちた轟音が響き、地面が大きく揺れたのである。

 びっくりして顔を上げたリュシアンの目の前には、巨大な鳥のバケモノが重力に押しつぶされたように大地に張り付いていた。

 チョビの仕業だと気が付いたリュシアンは、はっと我に返ったようにすぐにチョビを止めにかかった。


「チョビッ、やめて! ダメだ」


 叱責するような大声に、びくっと身体を揺らしたチョビはすぐに能力を収め、戸惑ったようにリュシアンを見上げた。


「ごめん、怒っているわけじゃないんだ……でも」


 のしかかる重力の下、魔物の足に捕らわれていた生徒が、身を捩って苦しそうに呻き声を上げたのに気が付いたのだ。

 チョビの魔法はどうやら個別魔法ではなく、ターゲット付近全体にかかる範囲魔法のようだ。あのまま魔物を潰してたら、生徒もぺちゃんこだっただろう。

 火炎放射もダメだ、生徒も真っ黒コゲだ。絶対零度も同じ、全員カッチンコッチンの瞬間冷凍だ。全部が全体魔法か範囲魔法のうえ、おそらくチョビの魔法は指向性魔法ではない。その場にあるものを「すべて薙ぎ払え!」状態なのだ。もちろん威力はとんでもないだろう。


「……き、気持ちだけ貰っておくね」


 チョビの攻撃により地面に足をついたモンスターは、すでに魔力を絞り尽くした生徒を手放し、気を失っているアリスとエドガーの方へと移動した。とにかく魔力を吸収したい魔物は、すでに手あたり次第状態だ。

 それに気が付いたリュシアンは、痛む胸を押さえつつ足を踏ん張り投擲用のナイフを抜いた。狙いをつけ、無属性魔法の力を借りて、連続で数本を魔物に投げつける。

 投擲用のナイフはそれほど上等の物ではないが、無属性を乗せたそれは普通なら硬い木ですら深く突き刺さるほどの威力なのだ。

 けれど、そのナイフは刺さりもせず分厚い羽根によって防がれ、ぽとりと地面に落ちたのである。


「なにそれっ!? つか、硬い! いや、柔らかいの?」


 バウンドして落ちた感じだったので、直接攻撃は効きにくいのかもしれない。目や、急所などを狙わないと、投擲くらいの攻撃力ではダメージが通らないようだ。


「アリス! エドガー! 起きてっ」


 仕方がなく、本人たちをたたき起こすことに専念した。そんな必死な声に反応したのか、アリスがようやく目を覚まし、咄嗟に大剣を取った。エドガーも意識を取り戻し、頭を振っている。どうやら持っていたエストックはどさくさで見失ったらしく、カバンから例のミスリル製のロッドを取り出した。


(よし、とりあえずは無抵抗でやられることはなくなった)


 リュシアンはチョビを頭に戻して、すぐさまぐったりと横たわる生徒のもとへと駆け寄った。遠目でわからなかったが、どうやら女の子のようだ。大きな傷こそないが、あちこち擦過傷だらけだ。

 素早く脈を診ると少し弱いが、ちゃんと生きていた。傷に触らないように彼女を抱き上げると、近くの大木の根元へ座らせるように寄りかからせた。

 かわいそうだけれど、今は治療は後回しである。


「とにかくこの場を何とかしないとね」

お読みくださりありがとうございました。

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