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リュシアンの魔法

 やがて夜も更け、見張り以外の生徒はそろそろ就寝という時間になった。

 そんな時、エドガーとマシュー、そしてリュシアンがいるテントへと、ニーナがこっそりとやって来た。エドガーとマシューは驚いた顔をして、ニーナは他に人いたことに、なぜか微妙な顔をしている。


「えと、姫様なにか?」


 マシューの問いかけに、ニーナはリュシアンの顔をみて「ちょっと、ね」と言葉を濁した。外で火の番をしていた男子二人もこちらをチラチラ見ている。


(あちゃー、夜はまずかったか……)


 朝一番にすればよかったと、リュシアンは己の迂闊さを悟った。

 リュシアンは、慌ててみんなに事情を説明するとマシューなどは明らかにホッと息をついた。エドガーとリュシアン、ニーナがもともと仲の良い友人同士と知っていたので、彼は気をきかせてテントを出た。

 どのみち見回りの順番だからと言って、マシューはそのまま行ってしまった。火の番の男子二人も、興味を失って火元へ戻っていく。

 

 三人になると、リュシアンは巻いてない状態の紙を三枚取り出した。普通の巻物のように装飾はなく、芯もない。そしてそれは、まっさらの白紙であった。


「変わった巻物ね……あら、今から写生するの?」

「あ、僕は写生は出来ないよ。スキルないからね」


 ニーナはびっくりしたように、何度も目を瞬かせた。


「そういや前に魔法陣の見学に行ったときに、門前払い食らいそうになってたっけ」


 そして、エドガーは余計なことを言った。トラウマを不用意にほじくり返されて、リュシアンはちょっとだけ拗ねたように恨めしそうな視線を送った。


「え、え? ……じゃあどうやって」

「似たようなスキル持ってるんだ、待っててね」


 真っ白な魔法紙を三枚並べて、何の道具も持っていないリュシアンが、すっと視線を落としただけで、そこには一瞬で魔法陣が現れた。「ええっ!?」とニーナの驚く声がして、エドガーも思わず息を飲む中、リュシアンはあっという間に三枚の魔法陣を書き終えた。


「な、なによ、コレ。聞いたことないわよ、こんなの」


 その魔法陣は、水魔法は水色、火魔法は赤色、風魔法は緑色で描かれていた。そのことに言及されて、初めてリュシアンは普通の巻物がすべて墨の色だったな、と呑気に思い出していた。


「大丈夫! 普通に使えるから」


 そういう問題じゃなくて……、と二人はもれなく思った。


「ともかく、このエルフ魔法なんだけどね、さっきの香りの正体はじつはこの魔法のせいじゃないんだ」

「え、そうなの?」


 いろいろ聞かれる前に、リュシアンは話を強引に戻した。はっきり言ってこのスキルについては、聞かれたって今はろくに説明できないのだ。

 リュシアンは説明の為、とりあえず固形の石鹸をカバンから取り出し、自作であること、これを加工して使ったことを解説した。

 手に取った石鹸に、ニーナは並々ならぬ興味を持ち、とりあえずその石鹸は懇願されて彼女のものになった。

 さて、では改めて今回の本文である実践だ。

 

「……服は脱がなくていいの?」

「脱いじゃダメだよ!ってか、やめてね、ほんと!」


 ニーナはとんでもない事を平然と言って、リュシアンの手にあった粉せっけんを地面にばら撒かせた。


「おいおい、このへん泡だらけにする気かよ。ほら、俺が片付けて外に捨ててきてやるよ」

「ありがとう、エドガー。悪いね」


 ぶちまけた石鹸を手でかき集めて、エドガーは外へと出て行った。


(ああ、びっくりした。ニーナって、ほんと僕のこと子供扱いだよね……)


 すぐに帰って来るかと思われたエドガーは、ついに帰ってこなかった。どうやら逃げたらしいと気が付いて、リュシアンは同時に、このシチュエーションの、マズさに気が付いた。なんだかこの構図は、女の子のシャワーを手伝うようなものではないだろうか、と。


「そ、そっか。これってニーナに発動してもらった方がいいよね」

「え? ……別にいいけど、なんで?」


 粉末石鹸をニーナの手のひらに乗せて、リュシアンは少し落ち着かない様子でそわそわしている。


「なんでって、そりゃあ……」


 言い淀むリュシアンに、ニーナはさっき出て行ったエドガーのことを思い出して、言いたいことがわかって笑いを堪えるような顔をした。


「服を着たままでしょうに、……でも、そうね。ちょっと発動してみたいかも。貸してみて?」

「じゃあ、僕は外に出てるから」


 発動しやすいように三枚並べておいて、リュシアンがテントを出ようとすると、あら? と、すぐさまニーナの不思議そうな声が聞こえてきた。


「なに、どうしたの?」


 ちょっと気を使って振り向かずに答えると、ニーナは不満そうに訴えた。


「発動しないのよ。これ」

「えっ? うそ」


 思わず振り向いたリュシアンは、ニーナが間違いなく並べられた魔法陣に触れているのを確認した。それなのに、彼女の言うようにうんともすんとも反応してない。


(……なんで?)


 欠損してる様子はないし、へんなシワやヨレがあるわけではない。なぜ発動しなかったのかと、リュシアンはニーナが手をどけると、詳しく確認しようと魔法陣に触れた。


「……きゃっ!?」

「わっ……!」


 次の瞬間、いつものように巻物は眩く輝き燃え尽きると、瞬く間に魔法陣が平面に展開した。

 不発だと信じていたリュシアンはもちろん、ニーナは突然現れた魔法陣に驚いて押し出されるように後ずさった。

 そして発動した魔法によって、ターゲットのニーナの身体を余すところなく泡々の水流が走った。


「あっ、……やっ!? ……くすぐったいっ!」


 水流が皮膚を撫でるのがよほどくすぐったかったのか、ニーナは半ば笑いながら身体を捩っていた。


(ちょっと! 変な声出すのやめてください、ニーナさん)

お読みくださりありがとうございました。

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