武器
「うん、ミスリルだと思うよ」
錬金術の鉱石・金属なども齧っているリュシアンにはもちろんわかっていた。
ニーナは手になじむそれを念入りに眺めて、リュシアンの腰ベルトにもう一つある同じモノに目を向けた。
「これは対の武器なの?」
「そうだね、二本で貰った。家では二刀流の型を教えてくれた人がいたんだけど、学校ではほとんど使わないんだよね」
だから二刀流的な指導はロランからしか受けてない。だけど、普通のナイフ術もそれはそれで面白いので今はそちらを覚えつつ、ロランから教わった型も自主練習はしているのだ。
ニーナはナイフをリュシアンに返しつつ、いささか呆れたような溜息をついた。オリハルコンほど伝説級ではないにしろ、ミスリルはそう簡単に手に入れることのできない希少金属だ。それをまだ子供にポンと二本も与える人物と言えば、おのずと想像がついた。
「で、エドガーは?貰ってるんでしょう、何か」
ニーナは二人が兄弟だと知っているので、リュシアンが貰っているなら当然エドガーもなにか受け取っていると考えたのだ。
矛先を向けられて、エドガーはなぜか急に不機嫌そうに唇を尖らせた。
え、まさか貰ってないとかじゃないよね?
リュシアンは不安に駆られた。そんな面倒くさい感じの事態は勘弁してほしい、とちょっと逃げ腰になった時、エドガーは肩にぶら下げていたフリーバッグに手を突っ込んだ。
すっと引くとその手には白銀の輝きを放つ長物がカバンから現れた。材質は同じミスリル、そしてかなり長い……
おお、まさかの長剣なの?エドガーは剣士希望だもんね。
けれど、最後まで引き抜かれたその先端には赤い石がついていた。
んん??
「…………」
「……………………」
全員が、静まり返った。
「………い、いいスタッフね、いいえワンドかしら」
どちらにしても魔法使いが使う武器である。様式により呼び方は様々だが、つまるところ魔法使いが使う杖状の武器だ。ホント陛下の押しつけがましい愛って、くそ重いよね。
リュシアンは、ますますエドガーに親近感を持った。図らずも、王様の思惑通りに兄弟は親睦を深めているようである。
「どっちでもいいよ、使う気ないし。俺は今日、剣を買いに来たんだ」
武器屋や魔法道具屋に見せたら卒倒しそうな品ではあるが、エドガーはとにかく気に入らないらしい。あれだね、少し反抗期も来てるよね。
父の愛はあっけなくカバンの中に押し込まれ、息子は新たに手に入れるであろう武器に思いを馳せていた。
「エドガーには向いてないと思うけど」
ズバッと!…遠慮なくズバッといったね、アリス。
リュシアンを始め、ニーナとそして思わず口をパクパクさせるエドガーに、一斉に注目を浴びたアリスは、己の大剣をこちらもフリーバッグから引き抜いた。
「別に意地悪で言ってるんじゃないわよ、ほらコレ持って」
アリスが片手で振り回した大剣をひょいっとエドガーに手渡した。
「え…、わっ…!な、んとおーっ…ぐ!」
両手で受け取ったが、あっというまにバランスを崩して倒れそうになったところを、リュシアンが支えたたものの覆いかぶさったエドガーに視界を塞がれ、もんどりうって二人して地面につっぷした。
「お、重…いっ、どいてよエドガー」
一番下になってしまったリュシアンは大剣とエドガーに押しつぶされてジタバタしている。
「スキルも無属性もない人は、よっぽど身体を鍛えないと剣士になどなれない。護身や嗜みで覚えるのはかまわないけれど、エドガーが言ってるのはそういうことじゃないでしょ?」
もしそれでも本気でやるというのなら、身体づくりから入らないとダメだとアリスはアドバイスした。
「そ、そうね。なにを目指すのも自由だけど、まずは出来ることからやらないとね。エドガーはどんな剣を望んでいるの?」
エドガーは拗ねたように少女たちの話を聞き、ぷいっとそっぽを向いた。
あー…、たぶん大剣が使いたかったんだね。でも、それは今ものの見事に無理!って言われたも同然だもんね。実際は投擲可能なナイフ術か、間合いが取れる長めのメイスとかがお勧めだと思うけど、嫌なんだろうな。リュシアンは、なんとか折衷案はないものかと頭を悩ました。
軽くて間合いが取れる武器と、足りない防御力を補えるもの……
「エストックとバックラーがいいんじゃないかしら」
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