表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/446

通貨と買い物

 この世界での通貨は、主要都市やほとんどの国においてほぼ共通である。

 なぜなら、その通貨の材質そのままが、ほぼ同じ価値だからだ。信用手形のようなものはあるが、あくまでそれはその国、領地など限られた場所でしか使えない。

 

 リュシアンは、生まれて初めて『お金』を手にしていた。

 今までは、領地で使える手形でしか買い物をしたことがないし、一人で行動することがほとんどなかったのでお金を使う機会がなかったのだ。ちなみに学園内の購買や、飲食店は学生証代わりのカードで支払いをする形である。


「あまり見えるところに出すものじゃないわよ」 


 小さな巾着袋を広げてお金を眺めていると、そうニーナが注意した。この辺は、それほど治安が悪いわけではないが、それでもスラム街のようなものはやはり存在し、たびたびスリなどの騒ぎを起こすらしい。


「あ、ごめん」

「なによ、そんなにお金が珍しいの?」


 リュシアンが慌てて腰ベルトのカバンに巾着袋をしまうと、ニーナはちょっと噴き出して小さく笑った。その横でこっそりお金を眺めていたエドガーも、素知らぬ風を装ってポケットにねじ込んでいる。


「そういうニーナだって、そうなんじゃないの?」

「あら、私が親元を離れて何年ここにいると思ってるの?こうして街に降りての買い物だって、何度もしてるのよ」


 人の事は言えないんじゃないかと、リュシアンが指摘をするとニーナは胸をそらすようにして、すこしお姉さんぶった口調で答えた。

 

 その会話を呆れたような顔で聞いていたのはアリスである。

 この三人の素性はもちろん知っていたし、貴族なんてものは普通自分では買い物などしない。わかってはいたがこうして目の当たりにすると、なんだか開いた口がふさがらなかった。

 アリスはドリスタンの城下町でそこそこ繁盛している商会の娘だった。爵位こそないが、それこそ下位の名ばかりの貴族に比べたらよっぽど裕福だったかもしれない。そんな彼女からみても、彼らの箱入りさ加減は驚きを通り越してバカバカしいとさえ思える。

 王族ってみんなそうなのかしら? アリスは、あたりを確認して溜息をつく。

 リュシアンに付いている隠密の存在はともかく、おそらくエドガーとニーナの護衛だろうか、何人かこちらを伺う人物が周りを囲んでいるのを、アリスはとっくに気が付いていた。

 防犯のためか、あえて隠れてはおらず、つかず離れず彼らについてきている。

 護衛や付き人の存在に慣れ切っているリュシアンたちは、とくに気にした様子はなかったのだが、アリスはなんだか落ち着かない気分になって仕方がない。


 ちなみに学園内では、護衛は表立ってはつかないのが慣例である。そこは学園の各種防犯システムを信頼してのことだ。さすがに学園内でもトラブルが皆無とは言えないが、それが学生間で起こったものなら個々の責任となる旨、あらかじめ入学時に了承済みというわけだ。


「リュシアンたちはちゃんとした防具もってる?」


 いろいろな商店が立ち並ぶ通りに出ると、ニーナは新入生の二人に確認した。

 リュシアンとエドガーは顔を見合わせて首をかしげる。


「学校で一応、一揃えしたけど?」

「ああ、訓練用のではなくて、個人の防具や武器よ。持参したものとかある?」


 リュシアンは、例の短剣を差出した。

 ただし柄の紋章は、今は見えないようになっていた。このナイフは刀身から柄まで一つながりの特殊金属でできているが、そのグリップに火蜥蜴の革を巻いて加工してもらったのだ。使い勝手がいいように滑り止めと、余計な騒ぎを起こさないための処置と、一石二鳥の仕様である。仮にも父親にもらったものだし、この短剣がいいものであるのは間違いないので一応身に着けてはいるのだ。


「あと、この籠手。わりと気に入ってるんだよね」


 差し出されたナイフを受け取り、リュシアンが得意げに籠手を見せるのに頷いて、ニーナは手にしたそれを興味深そうに観察した。


「…すごく、いいナイフね。というかこの素材…、まさか」

お読みくださりありがとうございました。


違うお話も書いております。よろしければそちらも覗いてくださいね。

「憑依で最強!?その能力チートお借りします!」

https://ncode.syosetu.com/n7361eb/

キーワード:異世界 転移 不幸体質 ケモ耳兄弟 他力本願チート

剣と魔法の世界なのにステータスほぼ1! 頼みの魔力も0……あるのは、もともと持ってた霊能力のみ。主人公で二十歳の有栖川 真人マヒトは、理不尽に連れて来られた異世界で、いきなりイケメンケモ耳の奴隷になったり、次々と出会う霊のお願いや依頼を解決したり、冒険者になったり、だけどなんだかんだとのんびり旅しちゃう感じの話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「あまり見えるところに出すものじゃないわよ」  小さな巾着袋を広げてお金を眺めていると、そうニーナが注意した。 初めて手にしたのが外だったと言うことなの?よく分からない状況、巾着袋を手渡さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ