ラッキーなんとか
本格的な冬が訪れる前に、武術科新入生行事として屋外での合同演習がある。
ガチのサバイバル満載の、あえて例えるならデンジャラス林間学校といった行事だ。およそ三泊四日のキャンプである。
新入生は基本的に強制参加、あとは武術科Ⅲクラスまでの行事だ。
いわゆる新入生対象のサバイバル初級編というところだろう。実際、Ⅳクラス以上が参加できるという厳しい真冬の屋外訓練もある。この辺はかなりの積雪量だというから、その過酷さは想像に難くない
今日は朝から、その林間学校のオリエンテーションがある。参加する生徒は、もれなく講堂に集まっていた。リュシアンも、エドガーとニーナと共に会場へと向かっていた。
「ニーナは、もう体術の方で参加してるよね?」
「ええ、強制ですもの。でも一回でも出席すればあとは任意になるのよ」
エドガーはパンフレットを落ち着きなく開いたり閉じたりしながら、リュシアンとニーナの会話を聞いていた。
「なあ……、モンスターと戦ったりするのか?」
ちょっとだけ口ごもってから、エドガーが少し遠慮気味にそう聞いた。
「そういうこともあるかもしれないわね。でも、初級のキャンプではモンスターとは出会わなかったわよ。ほら、その辺はまだ結界の中ですもの」
新入生を対象とした初級キャンプの主な趣旨は、野宿の際のキャンプ体験や、グループ活動におけるチームワークの向上などが目的だ。そのため、基本は安全な区域での活動になる。
行事として模擬戦闘や訓練などもあるけれど、屋外だということを除けば学校で行う授業とあまり変わりない。
「そうそう、去年初めて参加した真冬のキャンプは、結界外だったから二回ほどモンスターと遭遇したわよ」
「あの時はびっくりしたわね」と、エドガーがほっと息をついたところで、ニーナが思い出したように付け足した。もちろん、エドガーには笑いごとではなかったらしく黙り込んでしまった。
相変わらず見かけを裏切るニーナの豪胆さには、リュシアンも思わず舌を巻いた。
巨大な学校の両脇には広大な森が広がっており、ある程度の距離を過ぎると学園側が施した結界から出てしまう。もちろん危険ではあるけれど、そこは冒険者たちも狩場にしている豊かな森なのだ。薬草も、素材も、動物も、そしてモンスターも、なんでも豊富に揃う猟場といえる。
上級生ともなれば、その辺りまで進出してより本格的な活動をするということだ。
そして今回のキャンプの場所は、学園からほんの少し外へと移動しただけの森の入り口あたり、ぎりぎり結界の範囲である。ただ、凶暴な動物は結界に関係なく入ってくるので油断はできない。こっちにもイノシシや、オオカミのような普通の動物も存在するのだ。
「リュシアン、見つけたっ!」
「っわ!? あっ、……わぷ」
オリエンテーションの始まりを告げるアナウンスが講堂に流れたその時、リュシアンはいきなり後ろからどんっと突き飛ばされて、勢い余って前にいたニーナに突っ込んだ。その身長差のせいで、リュシアンは思いっきりニーナの胸に飛び込む形になってしまった。
「……っ!? ……!」
まさに言葉にならないとこはこのことである。
しかも頭に乗っていたチョビは反動でお姫様の胸にバウンドしたあげく、落ちまいとしてそのまま胸元にガシッと張り付いたのだ。エドガーを始め、周りの生徒たち全員が凍り付いたように、一瞬で静まり返った。
リュシアンは、危うい態勢で必死にバランスを保とうとしていた。
(手、前に出して大丈夫? 身体を起こすためとはいえ、掴むところを間違えたら大変なことになっちゃうぞ)
ほとんどつま先立ちのまま、リュシアンは硬直したように動けなくなってしまった。
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