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模擬戦開始

 今回はあくまで武術科の模擬戦なので、魔法を使ったり従魔の魔法やスキルを使うのを禁じている。もちろんリュシアンはチョビを戦わせる気はないのだが、一緒に連れていかないようにと注意を受けた。

 チョビとは魔力リンクでつながっているのだが、物理的に離れても大丈夫なのか不安でもある。なぜなら、前に置いていこうとしたら激しく抵抗されたからだ。

 そのことを相談すると、一人の教師が横合いから入って来た。


「もしかしてその従魔は、幻獣なの?」


 そう聞かれても、リュシアンにはよくわかならなかった。

 質問してきたのは、魔法科召喚魔の教師でクロエ・ル・ブランという銀髪美女だった。瞳は、ブルー。もし緑だったら話に聞く祖母と同じだと、チラリと思った。彼女も間違いなくエルフの血脈だろう。


「あら、貴方……」


 相手も同じことを考えたのか、リュシアンの瞳を食い入るように見つめた。けれど、そのことには特に言及せず、すぐにチョビに視線を移した。興味深そうに上から横から覗き込んで、そっと触れようとしてはチョビに威嚇されていた。

 人混みが苦手な上に、慣れない人にこうも執着されては、過剰反応になってしまうのは仕方がない。


「……武術科の先生には私から話しておくわ。幻獣だとしたら、貴方が魔力を供給しているのよね。幻獣なんて、私でさえ何十年も見てないわよ、どこで従魔にしたのかしら」


 幻獣を養えるなんてさすがはモンフォール出身ね、と感心しつつ彼女は何やらメモを書いている。


(ところで…、何十年って言いました? えっ、先生、いくつなの?……聞いたらダメだよね)


 もちろん空気を読んだリュシアンは、口を開かず大人しく待っていた。

 やがて渡されたメモは、先生のサインと、チョビについての注意事項が記された許可証のようなものだった。

 注意書きを見ると、やはり離れるのはあまりよくないと説明がある。物理的な距離というよりは、主からの魔力供給が切れた状態が続くと、この世界のあらゆるところから魔力を吸収してしまうということだ。


「わかっているとは思うけど、その子を使ってスキルや魔法を発動しちゃだめよ」

「はい、わかってます」


 リュシアン達は、ようやくチョビを連れて会場へと進むことが出来た。

 ところでニーナは、チョビが幻獣だと知ってひどく興奮している。幻獣は、古代竜種と同様、異界に住まうとされる伝説級の魔獣である。ちなみに、小型の竜種なら普通にいるらしい。


 模擬戦はすでに始まっていて、三つあるリングでそれぞれ戦っていた。白い枠が引いてあり、そこから出てはならないというルールだ。

 イベントのような催しだが、当たり前ながらアナウンス中継もなければ、観客もいない。どちらかと言うと厳粛な試験会場のようだ。

 流れ作業のように、次々と始まっては決着がついて終わって、次の対戦が始まり……というふうに淡々と繰り返されている。

 審判らしき上級生や、教師が周りにいて、リング脇には何人かのボードを持った教師がいた。勝ち負けというより、魔力操作や身体の使い方などを逐一観察されている感じである。


「あ、次は私だわ。行ってくるわね」


 やがてニーナが呼ばれて、小走りで走っていった。

 さすがは学園のお姫様、一瞬にして周りがざわっと動いた。それぞれ自分のことでいっぱいっぱいだった生徒たちが、一斉にそちらに視線を集中させたのだ。

 対戦相手は、新入生のようでニーナより少し年下の女の子。武器は、細い長槍だ。実質的に上級生であるニーナと当たったのは少しかわいそうだが、こればかりは運なので仕方がない。

 けれど、ニーナはナイフ。槍のリーチの長さを生かせれば、少しは勝負になるとも思われた。


「始め!」


 掛け声とともに、相手の槍の子が先に動いた。

 ニーナはあえて避けずナイフでいなすと、音もたてずに瞬時に懐に飛び込んだ。そこで武器を使えば勝負はついたが、ニーナはそのまま横に移動して槍を躱すような動きを取った。

 これで勝負がついたのでは、相手の少女の能力はほとんどわからず仕舞いになってしまう。さすがは上級生、この試合の意図をきちんとわかっている。

 少女が何度か攻撃してきたのを、ひたすら受けたり、避けたりした後、小さなナイフで槍を弾き飛ばすと、ほぼ一瞬で無防備になった胸元数センチまで一気に迫った。

 少女は空気に押されたようにバランスを崩して後ろへ転び、ニーナはあっけなくその首にナイフを軽く当てた。


「……ま、参りました」


 彼女は目を伏せて頭を下げた。結論から言うと、槍の女の子は決して弱くはなかった。それでも、ニーナのほうが一枚も二枚も上手だったということだ。

 慣れないナイフでの戦いとは思えないほどのニーナの善戦に、リュシアンは素直に驚いた。もともと体術を取っており、上級生ということを考えても彼女の強さはかなりのものだった。

 一方、エドガーはというと、神速のスキルを持った体術Ⅱの先輩と当たってしまったらしく、ぜんぜん長剣の良さを生かせず、振り回されて場外にされてしまったようだ。

 本人は認めないが、彼は剣術には向いていない。そして、残酷なほど魔法使いに向いていた。

 向き不向きでいったら、彼は決定的に剣を持って戦うのは向いてないのだ。ゲームに置き換えるなら、すこし体力のある白魔法使いっていうステータスなのである。

 こてんぱんにのされて悔しそうだったが、ともかく二人とも怪我もせず一回戦を終えたようだ。


 そして今度は、リュシアン順番だった。相手は、大剣使いの先輩で、背の小さな華奢な女の子であった。

お読みくださりありがとうございました。

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