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武術科

「ところで、召喚魔は取らないのか?」


 次の日、それぞれ違う学科を見学に行くのでエドガーとは別行動になった。その別れ際、チョビを指さしながら不思議そうに聞いてきた。

 リュシアンはチョビを戦力に数えてなかったが、確かに魔物に対する知識だとか、そういうのはあってもいいかもしれない。エドガーには考え中とだけ答えてとりあえず保留にした。


 今日は、武術科の短剣と体術の二つを見学することにした。どうせ隣り合わせでやっているので、両方いっぺんに済ませてしまおうと思ったのだ。

 魔法科はちょっとトラウマになりそうなほど門外漢扱いされたが、無属性の適性はあるしナイフ術も体術も少しは習っている。とにかく、今度こそ悪目立ちしないようにしなくてはならない。


「あ、いたいた!リュシアン」


 そう思った矢先に、いきなり目立つ人が走り寄って来た。全力で逃げたかったが、そうもいかずがっくりと肩を落とす。

 普通に目立たず、は今日も無理そうだった。


「やっぱりね、短剣取ると思ったんだ。私、今まで取ってなかったから一緒に見学しようね」


 やってきたのは言わずと知れた、この国のお姫様である。ニーナ・リュド・ドリスタン、今年十三才になったらしい。

 見かけは日本人形のように淑やかな印象だが、その性格はさばさばしていて、非常に活発である。魔法属性は、火の一つ。無属性はないが、身体強化と神速のスキルを持っている。

 ちなみにニーナは、教養科Ⅴで、武術科体術Ⅴ、魔法科攻撃魔Ⅲ、魔法研究科呪文Ⅳ、薬草学科Ⅴなど他にも二つ三つ取っているらしい。

 正直なところ、かなり先を行っている上級生である。そのため一緒に授業を受けることはないと高を括っていたわけだが、それをあっさり覆した先ほどの台詞だった。

 今学期から、新しくナイフと魔法研究科魔法陣を取ったらしい。

 なぜこんなにかかわってくるのか、リュシアンには不思議で仕方がない。唯一、思いつくのは王太子、エルマンの弟だから、ということくらいだけどいささか動機が弱い気もする。

 とはいえ、快活なこの少女と仲良くするのは、まったく異存がないのであまり気にしないことにした。

 

 武術科体験の初日は、ろくな説明もないままさっそく実力テストをするという段取りだった。魔法科のように、オリエンテーションしておしまいだと思っていたリュシアンは驚いた。

 平然としているニーナを見ると、これが恒例行事らしい。さすが脳筋の科である、やることが体育会系だ。


「おっと、君は見学かな? テストは受けないよね」


 エントリーしようと指定の場所へ移動すると、いきなりそんなことを尋ねられた。きょとんとするリュシアンに、筋肉ムキムキの教師が、テストの組み合わせのくじを持って差し出すのを躊躇っている。


「やります。僕は無属性持ってますし、武術指導も受けてました」


 周りの人達に比べれば貧弱極まりないリュシアンだが、無属性で補えばおそらく常人以上には動けるはずである。まだ平均を知らないリュシアンは、すこし自信を失いながらも教師にはその旨をしっかり伝えた。無属性の特性、有用性は、パッシブによる身体強化などなのだ。

 それでもこんな反応をされてしまうのは、のように魔力を巡らせて一時的に筋力を上げたり、防御を上げたりもできるとはいえ、スキルによる各種強化(パッシブ効果はない)には敵わないことも多いのも事実だからだ。

 魔力量が少なければたいして能力を発揮できず、実のところ無属性の評価は、人によってまちまちなのである。


 リュシアンを見て、武術向きじゃないと思われても無理はないし、加えてリーチの短さ、身体の軽さなどのデメリットは、無属性の助けがあっても補うのは難しいと思われてしまうのだろう。

 ここへきて、リュシアンはちょっと不安になってきた。

 ナイフ術はロランにも教えてもらったけれど、ほとんど魔力操作と簡単な型くらいだ。何度お願いしても、弟子にしてくれなかったのだから仕方がない。

 そのため手取足取り懇切丁寧に教えを受けたわけではない。兄の反復練習を一緒にやったり、ちょっとコツを教えてもらったりとつまみ食いのようなものなのだ。


(もしかして、みんなはもっとスゴイとか?)


 にょきにょきと立ち並ぶ、軒並み大きな体躯を持つ生徒たちに囲まれて、リュシアンはちょっと途方に暮れていた。

 それでもリュシアンは教師の持つくじ箱に、勢いよく手を突っ込んだ。ダメならダメでそれを知るのも大切だ、当たって砕けろという気分だったのだ。

お読みくださりありがとうございました。

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[一言] 「ちなみにニーナは、教養科Ⅴで、」 教養科ってⅣまでじゃなかったの?
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