魔法科の落ちこぼれ
過去に遡れば属性が無く、魔法陣を自作できる生徒はいた。
けれど、どうしても巻物を選ぶ、開く、発動する、と魔法を放つまでのアクションが多い分、呪文との差がついてしまうのだ。加えて、事前に巻物を作っておかなくてはならないというハンデもある。
つまり授業についていけなくなってしまうのだ。
抜き打ちで魔法の課題を出されれば、その場でアウト。模擬戦なら尚更、スピードの差でまともに勝負にならない。そういう意味で、魔法科攻撃魔の授業には向いてないという現実がある。
それでも、やりたいと情熱をもってきた生徒を門前払いは違うのかもしれない。
女性教師は、いささか困った顔で熱心なその生徒を見下ろした。
まだまだ幼い身体つき、坊ちゃん坊ちゃんした育ちのよさそうな雰囲気。とてもではないが、実戦を模した攻撃魔の授業などには不向きだと思った。しかも巻物で戦うとなると、おそらく先手は取れない。そうなると躱すだけの素早さに体術、魔法を受けたときの防御術なども求めらてくる。
けれど彼女は、属性を持っていないリュシアンの持つ魔力量の大きさに目を付けた。
「無属性を持ってますか? そして、使いこなせますか?」
「はい、実家でも訓練してました」
そこで初めてエイミーはにっこりと笑った。
「わかりました、認めましょう。ただし、巻物での魔法だからという甘えは許しませんよ」
「もちろんです、ありがとうございます」
後輩の教師がいいんですか? と不安そうに聞いてきたけれど、エイミーはそれを一蹴した。属性なしの生徒に授業を受けさせてはいけないという決まりはないのだ。
前例がなかったのは、ついていけなくなるとわかっていて授業を受けさせるのは、気の毒だという配慮もあったのだろう。無属性があるのなら少なくとも簡単に怪我をすることもないし、自作で巻物を作れるならそれを使ってはいけないというのは間違いだと考えたのだ。
今日のところは、これからの予定などの説明などで授業は終わった。
その授業中、ずっとザワザワと教室内が落ち着かなかった。もちろん新学期を迎えたばかりで少し浮ついている面もあったのだが、それはもっぱら一人の新入生に向けられたものだった。
口に出してはっきり言うのは約一名とはいえ、リュシアンはすっかり落ちこぼれのレッテル貼られてしまった。
属性がある相手にはかなわないと認めながらも、それでもリュシアンはそれら視線をものともせず、楽しそうに説明を聞いていた。
そして今日はもう一つ、エドガーが行かない回復魔クラスはとりあえず飛ばして、魔法研究科に誘った。座学になりそうなのでエドガーは少し渋ったが、それでも今日は一緒に回るつもりだったのか、結局ついてきた。
意外というか当然というか、そこでもさらに問題が起こった。
魔法研究科には、魔法陣と呪文がある。もちろんリュシアンは魔法陣に赴いたわけだが……。
「え……、写生のスキルがない?」
またしても担当教師に怪訝な顔をされたのである。
魔法使いに向いてないのは初めから覚悟の上だったが、さすがに行くところ行くところで先生方を困惑させてしまうのは申し訳ない気がしてきた。
とはいえ、ここでくじけては何のために学園に来たのかわからない。
あらためて魔法陣の研究や、複合魔法などの魔法陣考察をしたいと言ったら、ようやく納得してくれた。
(念写の件は、言ってもいいものかな?)
なにがなんでも隠す必要もないとは思うが、基本的に個人特有のスキルなどは、必ずしも開示する必要はないのだ。
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